HONZ活動記―JAMSTEC見学訪問④

野坂 美帆2013年10月31日 印刷向け表示
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HONZ活動記―JAMSTEC見学訪問1

JAMSTEC見学訪問2

JAMSTEC見学訪問3

「誰も測れないものを測るというのが僕の研究なんです。何かを探しに行く、というよりも、とってきたものを測る、というほうに僕は興味があるんです。」

HONZメンバーの前に現れた大河内直彦さんは、まず開口一番こうおっしゃった。ナショナルジオグラフィック日本版「海の研究探検隊JAMSTEC」では、科学探偵として紹介されている方だが、ご自分の研究をばっさりと一言で表す。大河内さんと言えば、HONZ代表・成毛眞がレビューにて絶賛した『チェンジング・ブルー』の著者。

チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る
作者:大河内 直彦
出版社:岩波書店
発売日:2008-11-27
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海洋極限環境生物圏領域・海洋環境生物圏変遷過程研究プログラム・生物地球化学研究チームプログラムディレクターというと噛んでしまうので、『チェンジング・ブルー』の大河内直彦さんと申し上げたい。実は私も7月「書店員のこれから売る本」で気候・気象学を取り上げた際に、先行するベストセラーとして拝見した。野心的な内容で、大変面白かった。(成毛レビューはこちら)(野坂7月「書店員のこれから売る本」はこちら)おお。この方が大河内直彦さん。思ったよりもお若いのだなあ、などと考えつつ、管理していらっしゃるいくつかのラボをご案内いただくことに。

「こちらのラボでは、海底の泥や、海水に溶けている有機化合物を測定しています。例えば、ある生物が作り出す有機化合物は、水温によって少し組成が変わるのですが、海底の泥に堆積するその有機化合物の組成の変化を調べることによって、昔の水温の変化を追うことができるんですね。僕の本で酸素同位体比の話を書いたりしていますけど、このように有機化合物の中にも、昔の地球の履歴が残されているということができるわけです。」

「今このスタッフは、インド洋ソマリア沖水深2000メートルから採った泥を抽出し、分析しています。12、3万年前のものです。ソマリア沖あたりというのは、人類が進化して広まっていった地域です。人類の進化と周囲の環境というものがどのように関係しているかを見るために分析しています。」

お話を伺いながら、なるべくほこりが立たないよう、実験器具に触れないよう、広いとは言えないラボの中で心なし身を縮める。もちろん、実験に影響がないという判断で招き入れられているのだろうけど、最前線過ぎて身がすくむ。まるで、本の中に入り込んだよう。と、当たり前か。このラボでの研究が、論文になったり本になったりしているのだろうから。改めて、すごいところに来ちゃったなあ。

次のラボに移動して。

「ここにあるのは高速液体クロマトグラフィーと、質量分析計などですね。有機化合物を分離したり構造を調べたりするラボです。このスタッフは、海底で微生物が作るメタンについて調べています。このメタンが何万年も蓄積されてメタンハイドレートになります。日本海などにメタンハイドレートがあるとニュースになっていますが、そのメタンがどこでできたものなのか、実ははっきりしたことはわかっていません。そこで我々は、メタンを作る酵素を調査しています。酵素の分布を調査して、メタンがどこで生成されているのかを調べています。いろいろ調べていると、変なところでメタンができているというのが分かってきてですね。ワカメのぬるぬるの中にいる微生物がメタンを生成しているとか。」

人類の進化の次はメタンハイドレート。科学トピックスのオールスター。目が回りそうである。そしてなぜか大河内さんは、実験装置の値段を順にあげていく。目玉が飛び出るような値段である。皆様、メタン調査のためにはこの実験装置が必要なんです。でもおそらく、このラボで開発された分析手法こそがプライスレスなのだ。高価な実験装置より驚いたのが手作りで開発された装置もあるということ。その手作り装置の説明を丁寧にしていただく。

HONZ編集長・土屋敦と大河内ラボにはイケメン若手研究者ばかりがそろっている…とささやきあいながら次のラボへ。ときめいた皆さんには申し訳ないが、彼らの薬指に指輪が光っていたことを念のため申し添えておきたい。

JAMSTECの裏手、隣接する敷地の中の零戦格納庫を横目に移動。大きな観音開きの扉が生々しい。戦時の記録と思わぬ対面。そうか、ここはそんな歴史のある土地でもあるのだ。

次は分析ラボ。ガスクロマトグラフィーや安定同位体質量分析計を拝見。本業で関連本や教科書を扱いながら、実物を見たことはない。私は文学部出身なのである。こういうところで役立つ本を売っているのだと、HONZを忘れ、しばし本業的感慨に浸る。ここでも手作りの装置が!当たり前ながら特許も取得済みだそうだ。

誰もが買うことのできる装置で分析しても、皆と同じ結果しか得られない。誰も測れないものを測りたい―そのためには、そうすることができる装置を開発するしかない。朝から晩まで、サイエンスのことを考えているよりも、メカのことを考えている時間の方が長いかもしれないですね、大河内さんは笑っておっしゃった。

またもや実験装置の値段発表。しかし、こういう装置は高いんだなあ…どれも何千万単位である。金に糸目をつけないからやりたいことをしなさい、と言われたら何がしたいですか。麻木久仁子が質問すると、お金が重要な時もありますけど、最も重要だと思うのは人なんです、と答える。

「研究というのは人がやるものなんです。お金がないときはないなりに工夫してやろうかという話になります。装置を改造したりして頭をひねる。そういう工夫が別の方向でプラスに働いたりする。」

大河内さんは人材確保の難しさについて語った。若い研究者は減っているという。ポスドク問題は深刻で、とにかく研究で生計を立てるのは難しい。優秀な人ほど研究職への道に見切りをつけて就職してしまう。東京大学と東京工業大学で教授職を兼任する大河内さんのもとで研究をする大学生(大学院生なのだろうか、大学名とお名前しか伺わなかった)は、よほどの覚悟で研究を続けているのかもしれない。薬指の指輪が思い出された。

JAMSTECに所属する研究者は何百人もいる。研究者を守り育てることの必要性は、外から見ているだけでは実感できない。実際にラボで改造された装置を見、研究者の組み上げたプログラムが動いているのを見て、確かに人は財産なのだと分かる。その財産である人を守っているのが、お金、予算なのだ。金に糸目をつけないからやりたいことをしなさいと言われたら、という質問の答えはきっと、研究者が衣食住や将来の心配をすることなく安心して研究に没頭できる環境を整えたい、ということなのだろう。

長々と、しかも非常に長い期間をかけて、JAMSTEC見学記をまとめてきた。お付き合いいただいた皆様、今回の大河内直彦編が一応最後である。音楽業界から転職してきたという報道室・長谷部さんは、JAMSTECを芸能界の「J」超有名アイドル事務所になぞらえた。たくさんのタレントがひしめくJAMSTEC。研究者や技術者たちをアピールし、JAMSTECの果たしている役割、これから担うことができるものを示す。きめ細かい宣伝・広報活動の果たす役割は大きい。きっとこれからますます「海の研究探検隊」の名は広まっていくに違いない。もちろんHONZメンバーも、JAMSTEC新刊を我こそ先にレビューせんと虎視眈々とねら、じゃない、ご活躍を心より応援申し上げる次第である。

<関連リンク>

JAMSTEC-独立行政法人海洋研究開発機構

国立科学博物館 特別展「深海-挑戦の歩みと驚異の生きものたち-」

ナショナルジオグラフィック日本版【連載】海の研究探検隊-JAMSTEC

「JAMSTEC(海洋研究開発機構)を楽しむ8冊+α」by土屋敦
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