「夢の病院をつくろう」新刊超速レビュー

野坂 美帆2013年12月24日 印刷向け表示
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夢の病院をつくろう チャイルド・ケモ・ハウスができるまで (一般書)
作者:NPO法人チャイルド・ケモ・ハウス
出版社:ポプラ社
発売日:2013-10-19
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チャイルド・ケモ・ハウスという医療施設をご存じだろうか。小児がんに関する研究事業、啓発事業を行っているNPO法人チャイルド・ケモ・ハウスが設立した日本初の小児がん専門の治療施設である。この施設は「夢の病院」であるという。夢?いったいどういうことだろう。高度な先端治療を受けられる施設なのか。ファンタジー世界を現実化したような施設なのか。誰にとっての、どんな夢がかなえられた施設なのだろうか。本を手に取り、題を見て頭をよぎったのはそんなことだった。

生まれたときから15歳未満の期間に見られる悪性腫瘍の総称を小児がんと呼ぶ。その種類は白血病や中枢神経系腫瘍、神経芽腫、悪性リンパ腫など様々で、年間2000人程度の子どもが発症、その発症率は1万人に1人と言われている。がんの発症率は一般的に50代くらいから高くなっていく。小児がんの発症率は極めて低いのだが、0ではない。自分の子どもが発症しないという可能性はない。いつ、どの子に起こってもおかしくはないのだ。そう思うと気になるのはその治療がどのようなものなのか、どのような環境で行われているのかということだ。

小児がんの治療には時間がかかるという。化学療法による負担がかかりすぎないようにするため、抗がん剤の投与は一定量を少しずつ、数回に分けて行い、通常治療には6か月から1年かかるそうだ。1回の化学療法に3~5週間かかり、それを4~6回繰り返す。長期の入院が必要なのは確実で、子どもが感じるストレスはいかばかりだろうか。治療による苦しみだけではなく、狭い病室での生活。プライバシーは制限され、家族とずっと一緒にいることもできない。免疫力が低下するために、感染症対策として面会も制限される。自由に出歩くこともできない。付き添う家族にも非常なストレスになる。そのような入院生活を少しでも快適なものにするために生まれたのがチャイルド・ケモ・ハウスだ。

大阪大学医学部附属病院の小児科医だった楠木重範氏や太田秀明氏、NPOのマネジメント支援や企業のCSR研究をしていた田村太郎氏、防災やまちづくりに関する企画プロデュースを手掛ける永田宏和氏、建築家・手塚貴晴、由比夫妻、医療従事者、患児家族らが集まって立ち上がった「小児血液・腫瘍分野における人材育成と患児のQOLの研究会」から、その次の年にはNPO法人チャイルド・ケモ・ハウスが発足、紆余曲折を経て2013年3月に「夢の病院」は竣工する。その過程は、特に寄付金集めの手法や、設計について興味深いのだが、それはぜひ実際に読んでいただければと思う。施設見取り図には思わず見入ってしまう。なんという工夫なのだろう。全個室、それぞれにはキッチンがついていて、ワンルームのアパートで暮らしているようだ。明るく開放的な雰囲気は、長く続く治療に鬱々とした気持ちを晴らしてくれるに違いない。思春期の子どもにも配慮されたスペースが用意されているところもいい。一番驚いたのは、泣き部屋があるということだ。「そうだん」と扉に書かれた応接室。子どもの前で泣くわけにはいかない家族が、思い切り泣ける場所。病院の中に、そんな部屋が未だかつてあっただろうか。小児がんで愛する子どもを失った家族の、また今現在共に戦っている家族の声が、この見取り図から聞こえる。

「家に帰ることができないのなら、せめて、病院で一緒に暮らしたい」

病院をHOMEへ。まるで自宅で家族に囲まれながら、友達と一緒に過ごしているような自然な環境で闘病できる施設があったなら。乳幼児がハイハイし、つかまり立ちをし、立って歩くことができるような、子供の自然な発育と治療を両立させることができる施設があったなら。小児がんの子どもや、家族にとって、その願いはきっと切実なものだったはずだ。「夢の病院」は、小児がんを取り巻く人々の確かな夢がかなえられた施設なのだ。そしてそれは、もしかして将来わが子が小児がんになってしまうかもしれないと思うすべての親にとっての、また小児がんを発症してしまうかもしれないすべての子どもたちにとっての、夢の施設でもある。そのような施設がどのようにして生まれたのか、ぜひ読んでみていただきたい。また、一章を使って語られたある小児がんの子どもと家族を追ったルポルタージュに、現況を見て取っていただきたいと思う。

「夢の病院」は、診療報酬と寄付によって運営されている。この本の印税は、一部を除きNPO法人チャイルド・ケモ・ハウスに入る。小児がんを取り巻く環境について知識を得ると同時に、新しい試みにわずかでも協力することができる。好きな本を買うことが支援につながるなんて、ちょっと嬉しい。

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