『世界ナンバー2列伝』歴史の名脇役

鰐部 祥平2014年01月08日 印刷向け表示
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『世界ナンバー2列伝』これが、本書のタイトルだ。ナンバー1ではない。あくまでナンバー2である。人間という存在が組織的な活動をするためには、どうしても序列が必要になる。大きな組織の場合、ナンバー1になるということ自体が並大抵のことではない。著者も本書で似たことを述べているが、ナンバー1になるためにはある種の正当性が問われることになる。特に社会の機構が複雑になればなるほど、組織のトップは実力のみではなく、この正当性が重大な問題となってくる。

神の意志。血統。多数の者たちの同意。時代、文化によりその正当性は異なれど、どうしても一部の人間にしか越えられないハードルがナンバー1とそれ以下には存在する。しかし、人間はその出自や社会状況に関係なく、野心を抱き、向上することを夢み、そして己が能力の有無を世間に問いかけたいと願う。それこそが人間性を形成する一部だ。

神の恩寵を受けたナンバー1へのハードルをどうしても越えることのできない多くの男たちは、組織のナンバー2を目指す。そう、本書は歴史の神の恩寵を最大限に引き出すことの出来なかった、優れた凡人たちの物語であり、また私たち大多数が到達することが可能な、最大限の頂に上り詰めた人々にスポットを当てた、ライト感覚の歴史書だ。

本書は歴史上の名脇役、76人の生涯と業績をひとり数ページとコンパクトにまとめている。通勤通学の電車の中、昼休みなどにさっと取り出し、サクッと歴史の世界に旅することができる。扱われる場所も、西欧、北欧、南欧、東欧、アメリカ、インド、東南アジア、中東、アフリカ、中央アジア、中国、日本と多岐にわたる。また扱われる時代も古代から近現代史までと幅広い。教科書に載っている、世界史の有名人から聞き覚えの全くないアフリカの王国の宰相まで、様々な人間のドラマがギュッと濃縮されている。

本書で最も有名なナンバー2と言えば、歴史の教科書にも必ず載っているこの男、ビスマルク。本書の表紙をも飾る堂々たる有名人。そんな彼のエピソードとして面白いのが、普墺戦争の際の話だ。皇帝ヴィルヘルム一世と激しく意見を対立させたビスマルク。皇帝は軍部をも味方につけビスマルクを追い詰める。

窮地に立ったビスマルクはなんと泣きわめきながら、四階の自室から飛び降り自殺をはかろうとするという、ヒステリックな一面を見せている。鉄血宰相として理性的、冷徹な政治判断をくだし権謀術数に長けた名宰相の意外な一面であろう。

鉄血宰相ビスマルク(Wikipediaより)

彼らの権力はナンバー1の信頼と寵があればこそ維持されるのである。ここにナンバー2には超える事の出来ない権力の壁が残酷なほどに見て取れる。実際に本書でも幾人もの粛清されたナンバー2が登場する。

アレクサンダー大王に仕えた老練の将、パルメニオン。古代パルティアの将で、ローマの侵略を阻止したスレナスなど。功績が大き過ぎる、トップに疑念を持たれるなどして哀れな最後を遂げている。ただ、やはり人臣の最高位まで上り詰めた男たちである。多くの男たちは名誉と富に恵まれながら最期を迎えている。

また国内の歴史に名を留めるのみならず、歴史に大きな影響を与える政策を残すものもいる。オランダのオルデンバルネフェルトはスペインからの独立戦争の資金を調達するため、世界史に多くの爪跡を残した悪名高い東インド会社を設立している。このオルデンバルネフェルトもトップのマウリッツァとの政治的対立から反乱の罪をきせられ、犯罪者として処刑されている。

またアジアにも面白い男たちがいる。ベトナム陳朝の勇将チャン・フンダオは三度のモンゴル軍の進攻を智謀の勇猛さを持って撃退している。彼はその名誉と裏腹に謙虚で無私の精神を持ち、皇帝に厚い忠誠を持って臨んでいた。彼は皇帝への忠誠が疑われるような発言をした次男を自身の死ぬ間際まで許さず、面会を許さなかったという。

またエチオピア近代史の英雄、ラス・アルラはエジプト、イタリアという強国の侵略と戦う。しかし、1889年皇帝ヨハネス4世がマフディー教徒との戦いで戦死する。死に際に皇帝に遺児を託された、アルラは国内の権力争いで劣勢のヨハネス4世の遺児に最後まで忠義を尽くすが、それも力及ばず政敵に降伏する。彼はその後もエチオピアのためイタリアとの戦いにおいて戦場に立ち続けた。

皇帝の遺言を守りとおしたアルラだが、その個性は強烈で特に自国民には傲慢で苛烈にあたったようで、彼の訪れた村は何一つ残らず収奪されたといわれている。信義と強欲、相反しそうな二つの側面を持った、個性強き男だったようだ。

人種民族に一流二流が存在しないことは言うまでもない。歴史という社会の営みに一流、二流という格差が存在するのかどうかは私にはわからない。しかし、先進国に生まれた私たちは、とかく発展途上国の歴史というものを現代の成功を基準に判断し、軽視しがちではないだろうか。チャン・フォンダ、ラス・アルラにしろ、先進国の歴史人物に決して劣らない面白い個性を、それぞれの国において花ひらかせている。そしてそれは、その国の歴史が彼らの個性を開花させうる幅の広さを持ち合わせていたからこそ可能であったはずだ。

多くの人間はリーダーにはなれない。その素質も、その正当性も、そして幸運をも持ち合わせていないからだ。しかし、権力の狭間を上手く泳ぎ、実務能力を身につけ、現実的な思考を活かし、社会や歴史に大きな足跡を残すことは可能だ。ナンバー2の歴史を追うこと。それは人間社会の縮図を追う事でもある。権力とは残酷で、冷酷な魔物でもある。いかにしてその魔物と対峙し、これをコントロールしていくのか。失敗したナンバー2、成功したナンバー2、それぞれの事例を見れば、そのヒントが見えてくるのではないだろうか。

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