『ひらめきをのがさない!梅棹忠夫、世界のあるきかた』

山本 尚毅2011年08月24日 印刷向け表示
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ひらめきをのがさない! 梅棹忠夫、世界の歩き方

ひらめきをのがさない! 梅棹忠夫、世界の歩き方

  • 作者: 小長谷有紀・佐藤吉文
  • 出版社: 勉誠出版
  • 発売日: 2011/4/15

「かわいい子には旅をさせよ」と言うが、『地球の歩き方』などガイドブックを片手に、観光地として厳選されている地域を巡回し、確認することが旅なのか?パッケージ化されたツアー旅行と何が違うのか、とこれまで腑に落ちないバックパック旅行を幾度も繰り返してきた。大げさに言えば、旅や人生を通じて自分が最初に発見したであろう未知の世界を見てみたい。自分だけの経験をしてみたいなんて欲深いことを考えていたし、今も変わらず欲深い。

今、アブダビ空港でこの原稿を書いている。成田からアブダビの間で本書を読み、この本に出会うまでは退屈な旅になっていたに違いない旅が大きく変化しそうになったのだ。要旨としては、夫婦で旅しながらも男の探求心を駆り立ててくれる本、それが本書である。僕はこの本を今回の旅行に持参した本の中で、真っ先に読み、本当によかった。ちなみに、本は8冊持ち込んでいる。

『地球の歩き方』と本書を比較すれば、分かりやすい。地球の歩き方はほぼ毎年更新で、世界各国や特定エリアを薄く広く知ることができる。人気の飲食店やホテル、ショッピング、観光客が集う世界遺産などを紹介してくれる。一方で、本書は地域は問わず、訪れた土地や地域を濃く深く知るための教科書である。ガイドブックの確認作業ではない新たな旅の方法や視座を提案してくれる。

その手法はフィールド・ワークと総称されるもの。一般にフィールド・ワークには、ステイ型とサーベイ型がある。編著者によると、フィールド・ワークについて指南する書物は数多く出版されてきたが、ほぼステイ型(長期間、同じ場所に滞在する)について論じられており、サーベイ型については軽薄に扱われ奨励されてこなかったそうだ。本書では梅棹氏のサーベイ型フィールド・ワークの極意に迫っており、教則本としてその行動を真似する価値がある一冊だ。ちなみに、サーベイ型は移動が中心となるため、メモするときには、移動中の車内でひざの上にタイプライター、という形式でメモをしていたそうだ、現在の活躍するラップトップの利用状況と酷似しており、すでに未来を予測した行動のように感じてしまう。

著者の梅棹忠夫氏は紹介するまでもない有名人であろう。高校生のころに南極探検を念頭においた樺太でのソリ実験に同行し、イヌぞりの性能について、論文を書いている。実際にその論文の内容は南極探検に利用され、南極物語のタロとジロはもしかすると、その一例かもしれない。京大で理学博士を取得したが、文転し、社会人類学教室を引き継いだ。世界を騒がせたアルビン・トフラーの『第三の波 (中公文庫 M 178-3) 』が書かれるかなり前から、情報化社会のグランドフレームを提示していた学者である。200万年先を思い描いて執筆しようとした『人類の未来』という未完原稿も存在する。その原稿の小見出しに「地球水洗便所説」が存在したそうだ。それは、地球の未来に来るであろう洪水や津波を予見していたのかもしれないが、時間の予測は梅棹先生でも難しかったのだろう。本書の内容は国立民族学博物館にある「梅棹アーカイブス」と呼ばれる大量の資料(3万5千点もの写真がデジタル化されている)から、文章との対応性を考慮して選ばれた生粋の写真たちである。

本書を読むタイミングは空港へ向かう電車の中、国内旅行なら、旅行前夜である。空港や駅で観察用グッズ、行く土地に関する本、そしてノートを買いたくなる。カメラは必須だ。間違っても、普段は読んではいけない。2,200円がどうも割高に感じてしまう。しかし、十数万円を投資した旅行にレバレッジをかけると考えれば、2,200円はかなりお買い得だ。読むタイミングで本書の価値の実感値が違ってくる。

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本当に秘境を目指すなら、この本を読んでから。レアな国ばかりが登場する。短い解説も秀逸。

秘境国   -まだ見たことのない絶景-

秘境国  -まだ見たことのない絶景-

  • 作者:
  • 出版社: パイインターナショナル
  • 発売日: 2011/8/15

今、アルビントフラーを読むなら、この本は個人的にお勧めである。

アルビン・トフラー―「生産消費者」の時代 (NHK未来への提言)

アルビン・トフラー―「生産消費者」の時代 (NHK未来への提言)

  • 作者: アルビン トフラー、田中 直毅、undefined、田中 直毅のAmazon著者ページを見る、検索結果、著者セントラルはこちら、Alvin Toffler
  • 出版社: 日本放送出版協会 (2007/07)
  • 発売日: 2007/07
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