『アラン・デュカスのナチュールレシピ』

土屋 敦2011年11月03日 印刷向け表示
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アラン・デュカスのナチュールレシピ (シンプルで体によく、おいしいフレンチ)
作者:アラン・デュカス
出版社:世界文化社
発売日:2011-10-18
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商売柄、書店で料理書コーナーは必ずのぞくが、平台に一際高く積み上げられていたので(当たり前だ。厚さが41mmもある)、思わず手に取った一冊。

まず、いかにもフランスっぽいイラストを使った、日本の料理書にはないデザインにぐっとくる(amazon.frで確認すると原書に忠実な模様)。いまどき珍しく函入りだが、日本の高額な料理書のように高級感を醸したいがため、というのとも違うようだ。本という3次元構造物を表現するブックデザインとしての一貫性から函がある、という感じ。一度本書を手にとってしまったらもう函のない状態が考えられないほど、統一感がある。

さてさて、いよいよ、函から本を出す。その瞬間にまず驚いた。なんだか、今までにない感触で、本がシューッと出てくるのだ。日本の製本技術というのは素晴らしく、よくできた函入りの本というのは、わずかに引っかかるように摩擦を感じつつスーッと本が出て、ストン、と軽い感触で手で受け止める感じだが、本書はそれとはちょっと違う。「シューッ」と「スーッ」の違い。読んでいる方はまあ、わかんないと思うが、「スーッ」は研ぎ澄まされた日本の職人技、いわば、ピタリと吸い付くようでスムーズに動かせる、伝統的な茶筒のフタのようなイメージ。その隙のなさに、函から出すとき、一瞬空気が澄んだような緊張感さえ覚えるものだが、本書の「シューッ」はなんだかとても楽しげでウキウキするような気分になる。あまりに気持ちがよいその感触に、今日もこれを書きながら、何度「シューッ」してしまったことか。

その「シューッ」を作り出しているのが本の表紙の質感である。なんだかふかふかしているのだ。なんというか『ブルーナのおふろえほん・ミッフィー大好き』みたいなふかふか感(って、ますますわからないか)。これが非常に嬉しい。

センスあるデザイン→端正な函→シューッ→ふかふか!

もうこれだけで買う価値がある。ちなみに先日のHONZ朝の例会でもこの造本は非常にウケ、2800円(税抜です)という価格を言ったとたん、安い! と歓声が上がった。料理などしなさそうなヤングHONZの面々でさえ「シューッ」と「ふかふか」に魅せられてしまったらしいのだ。

そして、ページを開くともっと驚く。とにかく写真が素晴らしい。料理そのものが、距離感も持たず、ぐっと読み手に迫ってくるのだ。

日本の料理写真は被写界深度を浅くして手前にピントを合わせ、背景をぼやかす情緒的なものが主流だ。一方、ヨーロッパの料理本は絵画のように作り込んだり、古い一軒家を借りきってそのあちこちで料理を撮影して本一冊トータルで写真の流れに物語性を持たせたりするものが多い(最近は被写界深度の極端に浅いものも増えている。日本人料理カメラマンも活躍してますしね)。

本書の写真はそのどちらでもない。野菜のみずみずしさ、切った食材の断面の鮮やかさ、火を入れたときに立ちのぼる香り、穀類のひと粒ひと粒の質感、魚介の鮮度などがリアルに伝わってくる、料理そのものに迫った写真で溢れているのだ。

情緒的な写真はごまかしが効く。撮影日にアシスタントや編集者がスーパーで買ってきた食材で料理研究家がさしておいしくもない料理を作っても、それを「すてきな写真」に仕立てることはそう難しくはない。

しかし本書ような写真の撮り方では、そうはいかない。質の悪い食材を使えば見抜かれてしまうだろう。しかし、たとえば畑から採りたての野菜を使ったらならば、その素晴らしさを最大限伝えることができるのだ。

ウルトラマリンがヨハネス・フェルメールの作品に輝きを与えたのと同様、食材そのもののみずみずしさが料理を、そして料理写真を輝かせる。

ここまで写真がキラキラしている料理書を、私は初めて見たと思う。そのキラキラは、レシピを創り上げたデュカス、実際に調理をしたクリストフ・サンターニュ、料理写真を撮影したカメラマンのおかげだけではない。写真にこだわりを持つ世界文化社が作り、実は社内に超絶職人や天才的な技術者を抱え、本気を出せば本当に素晴らしいものを作る凸版印刷が、製本と印刷を担当していることも非常に大きいはずだ。すなわち、日仏の合作によって、この素晴らしい作品ができ上がったと言えるだろう。

日本では手に入れにくい食材があるなど、実用書として気軽に試すには難しいレシピもあるだろう。しかし、まったく料理をしない人でも、この本は本棚に置いておく価値がある。特に小さな子どもがいる人は、今すぐ買って本棚に並べておけ、と言いたい。なにしろ、「シューッ」、「ふかふか」、「キラキラ」な本なのだから子どもが好きにならないわけがない。

子どもが本書を開けば、本能として心と胃袋をぐっと掴まれる料理写真に魅了されると同時に、遠い国の風土が生み出した、未知の野菜やきのこなどに心惹かれるだろう。「魅力的な、未知のもの」ほど子どもの好奇心を刺激するものはない。まさにセンス・オブ・ワンダーを養う本。加えて言えば、造本も印刷もイラストも写真も「本物」であり、その点でも子どもの美意識を育ててくれるはずだ(ついで、そのうちおいしい晩ごはんも作ってくれるようになるから一石三鳥だ)。

ということで、なんだか長くなってしまったので、レシピの中身に触れなないままレビューはおしまい。ぜひ買って、見て、作って堪能して欲しい。

それにしてもこの造本、内容で2800円は本当に安いです。

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