『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』

山本 尚毅2011年11月04日 印刷向け表示
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恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白
作者:稲葉 圭昭
出版社:講談社
発売日:2011-10-07
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オリンパス、大王製紙、島田紳助。

今年も残り2カ月を切ったが、東日本大震災以外にもショッキングなニュースが例年以上に多い。しかし、いきなりそんな前段を覆すようだが、そのどのニュースよりも強いショックを受けた本がこれ。事件が起こった当時、僕は大学生として、その現場である札幌に住んでいたにも関わらず、この本を読むまで知らなかった。先日の朝会で東えりかに聞いたのだが、事件後は本書の後書きを書いた元上司の原田氏の書籍や事件をモデルにした小説など、関連書籍が数多く出版されたようだ。(朝会ではもちろんこの本について、2人でアツくなってしまった)

そりゃそうだ。これだけの事件だもの、と妙に納得した。本書は暴露本の域を超えている。組織に所属する人、誰もが持ちうる人間の愚かさに迫った会心の「告白」である。個人的には今年読んだ本の中で、もっともスリリングだった、事実であるという事実がスリリングさを数倍にした。

組織の論理、成果主義やメンツが人の社会との平衡感覚を失わせ、倫理観を奪い取り、ヒトの皮を被った獣にする。本書は組織の深い深い闇のど真ん中にいた張本人が書き下ろしている。繰り返すが著者は事件の張本人、主人公、主犯。著者の名前から「稲葉事件」とも呼ばれていた。子どものころから柔道、中学・高校・大学も柔道、その腕を買われ就職した北海道警でも柔道。警察は剣道や柔道で優秀な成績を残した学生を採用したがっており、それは全国警察柔剣道大会で優勝するためだ。オリンピックじゃあるまいし、と思うが、それに各都道府県警のプライドとメンツが懸っているのだ。著者は数年間、柔道漬けの生活で、仕事らしい仕事をしていなかった。その警察組織が持つメンツは柔道だけではなく、仕事の成果でも同様だ。柔道を引退後、著者はそのメンツに翻弄される。

所属した部署には拳銃の摘発に苛烈なノルマがあり、その達成度合い次第で組織に分配される予算が決定していた。拳銃の摘発には、ヤクザに近しい関係者の情報提供がないと難しい。しかし、情報収集への予算は現場には流れず、組織に裏金として蓄積されていく。それが道警の当時の事情だった。著者も自腹を切って、情報を買い、組織が掲げた目標を達成しようとこの手あの手を尽くた。ヤクザとは共犯関係をつくり、組織ぐるみでエス(スパイのSが由来)と呼ばれるヤクザや薬中毒の情報提供者を利用した。当初は良心の呵責に苛まされながらも、上司からの期待に応えようと法の道を外れた行為を行った。その道を奥に進むに連れて、良心の感覚が麻痺してゆく。

そして行きついた先には、ヤクザと共犯になっての薬物密輸の斡旋と著者本人の覚醒剤の服用だった。薬物密輸は捜査を口実に、拳銃摘発の成果を上げるための犯罪行為である。また、覚醒剤を利用している描写は特に圧巻だ。えぐすぎるが、本にぐっとひきこまれてしまう。ここまで聞くと、どんなに悪い奴だ、著者の稲葉は!と思うのが、当然だ。しかし、柔道時代から覚醒剤服用に至るまでの著者の心情変化は共感を誘発する。

その一因として、著者はすべてを事あるごとに上司に報告していたことだ。その行動の可否を決断していたのは、あくまでも上司であった。目標を達成するための手段を考え、上司に提案し、組織としての決定を実行する。なんら悪いことはしていない。組織の中に限って言えば。しかし、拳銃一丁から始まったけもの道は上司の成果に対する執着心をテコに、覚醒剤130kg,大麻2トンの密輸の容認を身代わりにし、拳銃200丁を摘発するという計画へとつながる道を歩むまで広がっていく。その取引の結果はすでに知られた事実であるが、あえてここでは触れないことにする。結果から学べることは利害関係を土台にした信頼関係は崩壊しやすい、ということだろう。

本書を読み終わった後、島田紳助の引退の裏側にも警察とヤクザの共犯関係による組織間取引が働いたのかもしれない、拳銃200丁と麻薬100億円密輸のバーター取引のように。そんな想像力?邪推が働いてしまった。

--------【その他お勧め本】--------

まずは、北海道出身者&密輸&服役後出版つながり。オーストラリアへ麻薬を密輸し、現地の空港で逮捕されたラッパー。稲葉氏も8年間の服役中、監獄で執筆していたと想定できるが、B.I.G.JOEははるか先を行く。南半球の監獄でレコーディングし、服役中にも関わらず、日本でレコード発売している。二人とも、淡々と語る文調が印象的。

監獄ラッパー B.I.G. JOE 獄中から作品を発表し続けた、日本人ラッパー6年間の記録
作者:B.I.G. JOE
出版社:リットーミュージック
発売日:2011-08-25
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HONZで最初の課題本『警察の誕生』。本書を読むと警察ってなんだろう?と疑問と憤りを感じる。故に、この本を読んで、警察という組織がどのように成りたってきたのかを再確認して落ち着いてほしい。こちらに初期メンバー、全員のレビューもある。

警察の誕生 (集英社新書)
作者:菊池 良生
出版社:集英社
発売日:2010-12-17
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道警のような企業・官公庁における約20のクライシス(危機)の現場を徹底的に検証することを通して浮かび上がる、日本混乱の本質を描いている。震災後の原発の対応などを頭に入れて読むと興味深そうだ。

組織の思考が止まるとき  ‐「法令遵守」から「ルールの創造」へ
作者:郷原 信郎
出版社:毎日新聞社
発売日:2011-02-26
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取引の色々。この本はギリギリすぎる。知らない事実がたくさんあり、笑いながら、勉強できた。マッチポンプ売りの少女恐るべし。

マッチポンプ売りの少女 ~童話が教える本当に怖いお金のこと~
作者:マネー・ヘッタ・チャン
出版社:あさ出版
発売日:2011-04-25
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