付加価値をクリエイトする『僕は君たちに武器を配りたい』

新井 文月2011年11月17日 印刷向け表示
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僕は君たちに武器を配りたい
作者:瀧本 哲史
出版社:講談社
発売日:2011-09-22
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私事で恐縮だが、順調であれば来年の春に父親になる予定だ。最近は子供の名前を考えたり、将来どういった人間になってほしいか人並みに考えたりもしてしまう。それでも、最終的にはなるようにしかならないと思いつつ、キラリと何か1つでも輝けるもの持ってもらえたらと密かに期待したりもする。本書はそういった私の子育て哲学を後押ししてくれる一冊だ。

今、20~30代の多くは自分たちが親の世代と違うことに薄々気が付いているはずである。一流大学に入り、厳しい就職活動を潜り抜け就職しても30代か早ければ20代からリストラの危機に脅かされる。会社は利益を捻出するためコスト削減を行い、働けど給料は上がらない。以前の「未来は明るく、豊かになる」幻想はもはや存在しない。

これから世の中とどう渡りあっていけばよいか、またどうやって若い世代を育てていこうか?など悩んでいる方達に是非本書をオススメしたい。日本が直面している問題点と、今後は価値を生みどう生きればよいかを、クリアに体系立て解決策を提示している。

京大で人気教官という著者の瀧本氏は、21世紀の日本を考える上で、日本人はますますグローバル化する資本主義の潮流からは逃れられないと言う。最近盛り上がっているTPP議論含め、グローバル化が良い悪いという議論が未だにあるが、グローバル化とは時代の潮流であり選択できるものではないと伝えている。

冒頭で伝えているが、資本主義の本質は「より良いものを、より多く欲しい」にある。また「同じものなら、安いもののほうがいい」でもある。国と民族が違えど、これは普遍の価値観だ。人間は品質が同じであれば安いものが欲しくなる。結果として、価格はどんどん下がり品質はそれに伴い向上していく。Webなどの通信手段が未発達の時代、ライバルは日本国内にあったが、いま日本のIT企業のライバルはインドであり、自動車のライバルは韓国や中国だ。

そして資本主義の弊害として格差社会を挙げている。いまは希望と異なり、正社員ではなく派遣社員として働かざるを得ない人達が増えている。アメリカでは格差社会の是正を求めて反ウォール街のデモが広がっている。しかし、著者はそれ自体の是正の意見は述べていない。「派遣問題」は本質からずれていると考えている。労働者の賃金が低下したのは、技術革新が進んだためと考えられている。自動車産業では工場に多数のロボットが導入され、労働者の仕事が単純作業となった。当たり前といえば当たり前の議論だが、その事は賃金下落の本当の原因だと語る。

では個人としての私達は、今後どのように生きたらよいのであろうか?著者は以下の解決策を提示した。

①商品を遠くに運んで売ることができる人(トレーダー)

②自分の専門性を高めて、高いスキルによって仕事をする人(エキスパート)

③商品に付加価値をつけて、市場に合わせて売ることができる人(マーケター)

④まったく新しい仕組みをイノベーションできる人(イノベーター)

⑤自分が企業家となり、みんなをマネージしてリーダーとして行動する人(リーダー)

⑥投資家として市場に参加している人(インベスター)

その内、①のトレーダーと②のエキスパートは、今後生き残っていくのは難しいと語る。①の代表例は営業マン、商社マン、旅行代理店等だが、ものを右から左に移す仕事はネットの普及により、ビジネスモデル自体が破綻してきている。②のエキスパートの代表例は、弁護士や会計士、ITスペシャリストだが、ロースクールやアカウンティングスクールの設置により、弁護士や会計士の数が大幅に増えたことから供給過多になった。

著者が今後生き残るタイプとして③-⑥を挙げている。共通して言えるのは、「個人の力量で新しい価値を世の中に提供している」人達だという事だ。誰でもできる仕事、また高度の知識であっても、他人と同じレベルでは、スピードの速い現代社会ですぐにコモディティ化してしまう。大切なのは、自分だけが唯一できる事であり、かつ世の中に提供できる人だけが生き残れると説いている。

ちなみに前回紹介した『日本のデザイン』は、③のマーケター(商品に付加価値をつけて、市場に合わせて売ることができる人)へのメッセージに該当する。エルメスのバーキンにせよ、アップルのiPhoneにせよ類似品は沢山ある。しかし個性が埋没していないのは、商品に高級感や、最先端商品などのイメージを付けているからだ。前々回紹介した『スティーブ・ジョブズ I 』は④のイノベーターや⑤のリーダーを目指す人の参考になる一冊だ。新しい価値を世の中に提供した型破りのリーダーの生き方が体験できる。

本来であれば、それぞれのタイプごとに本1冊を使っても書ききれない位の議論が必要であろう。しかし本書はこれからの世の中をサバイブする為に必要な知識を「武器」と例え、体系立てて解説している。本書ではグローバル資本主義の本質と、逃れられないその社会の中で生き残る為のイントロとして読んで頂けたらと思う。そして本書のデザインだが、文字の配置が各所でズレている。もちろん落丁では無いのだが、ズラし方も「もうちょっとこっちじゃない?」と妙に気になってしまう。これも個性の1つとして表現しているのかもしれない。

※HONZでは現在、時代を担う次期メンバーを学生から募集しております。あわせてこちらもご応募よろしくお願いします。

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