学生メンバー応募レビュー『なぜ意志の力はあてにならないのか』

土屋 敦2011年12月25日 印刷向け表示
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昨日に続いて、HONZ学生メンバー合格者が応募の際に書いたレビュー。今日は、塚越啓樹さんです。

なぜ意志の力はあてにならないのか―自己コントロールの文化史
作者:ダニエル・アクスト
出版社:エヌティティ出版
発売日:2011-08-09
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著者は米国のジャーナリストであり、エッセイスト。読みやすさ抜群、且つ贅沢な内容、この一冊で脳科学、神経科学、生物学、文学、宗教、政治、社会、心理などひと通りの学問の世界を旅することができる。

私たちは誰しもが皆、(悪いと頭でわかっていても)自身の内部にある欲望に忠実に行動してしまう。そして殆んどの場合それは無意識的に行われていて、それはまさに「自己をコントロールする能力」が欠如しているためだ。

本書から例を挙げよう。アメリカでは肥満が深刻な社会問題になっている。ダイエット法にダイエット用品、多数の健康促進ツールが開発されているにもかかわらず、肥満人口は年々増加している。また、殺人を働く人間も、周囲の環境と刺激によって運命づけられていると言っても過言ではない。今こうしてこのレビューを読んでいるあなたが殺人を働く可能性も十分ありえる。私たちは自分の人生をコントロールしていると思っているが、実は、人間が下す判断の大半は今まで脳に蓄積された情報によってなされている。私たち一人ひとりが自分の意思を持ちうるとしても、その余地は限りなく少ないというのだ。

本書では、欲望を自制する(自己コントロールする)術も提示している。基本的に固い話ではあるのだが、ユーモラスな語り口調で書かれているところがすばらしい。勘違いしてもらっては困るのだが、自己啓発本の類ではない。あくまで著者の長年の研究、調査の結果である。筆者は「すべての問題は自分自身にあり、過度に成熟した消費社会、情報社会で求められている能力は、自制と自省なのではないか」と書いているが、戦後、西欧に追いつけ追い越せで成熟化を果たした現代の日本人にこそ「必読」な書物ではあるまいか。いずれにせよ、私にとっての好読物だ。

さて、本日はクリスマス。窓を開け、外を見つめる。我々人類が自然の摂理に逆らい築き上げた人工照明が、街を彩り、恋人たちの欲を加速させる。

聖なる夜、ホーリーナイトはまさに我々人類の「欲望」のクレッシェンド。「1年で一番素敵な日」に、本書で人類の欲望について考えるのはいかが?

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