年末年始だ!「食べる前に読む」三冊

栗下 直也2011年12月30日 印刷向け表示
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今年も残り2日。怒涛の忘年会ラッシュも終えたのも束の間、明日以降は、家族やら親族やら友人やらと食べて飲んでを楽しむ人も多いはず。暴飲暴食になりがちな時期だが、胃薬を食べる前に飲むのではなく、食に関する本を食べる前に読んで、食べ過ぎ飲みすぎを自制するのもありかも。本ならばいくら読んでも0カロリーだし。

蕎麦通・天麩羅通 (廣済堂文庫)
作者:
出版社:廣済堂出版
発売日:2011-11-22
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年越し蕎麦を食べるし、蕎麦の本でも読むかと軽い気持ちで手に取り、ぱらぱらと捲って途中で気づいたが、この本、新しいようで実は古い。昭和5年に刊行された2冊を1冊にまとめたものだ。表紙に評論家の坪内祐三の名前があったので、かなり文体が変わったなと思っていたら、彼は監修しただけだった。実際の著者はいずれも当時の、蕎麦屋と天麩羅屋の主人だ。

中身は「蕎麦通」の方はそばのうまい食べ方や蕎麦のつくりかた、手打ちと機械式の違い、そばの種類、薬味、栄養価、値段の変遷、蕎麦に関する伝説やら俳句まで、よくこれだけ蕎麦に対する情報を詰め込んだと感嘆してしまう。一方、「天麩羅通」は前半は天麩羅の歴史などにふれつつ、後半は材料や揚げ方など実用的だ。

特に新しいことは書いていないが、逆に古くも感じない。80年前の話なのに、おどろくほどノスタルジーを感じないのだ。そこが凄い。蕎麦の食べ方も変わらないし、昭和初期に異端とされたコロッケ蕎麦は今でも異端だし、天ぷらそばはおいしいし。蕎麦や天麩羅の文化の不変性に感嘆してしまう。歴史とは変わっていなくても楽しめるのだ。もちろん、少しの変化はある。屋台発祥の天麩羅を屋台で食わないやつはどうにかしてるだの、空き地で出前持ちが道具の持ち方を練習しているなどの現代との差異を密かに見つけて楽しむこともできる本でもある。

うまい日本酒はどこにある? (草思社文庫)
作者:増田晶文
出版社:草思社
発売日:2011-10-04
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正月の記憶というと、祖父の家で、血はつながっているのだろうが誰だか知らないオジサンが日本酒を飲みながら「グエー、グエー」と声にもならない雄たけびを上げている姿だ。育ちがわかってしまってしまう話で恐縮だが、事実なので仕方がない。酔っ払いと日本酒に対する強烈な嫌悪感はその時、生まれたが、30年近くたった今、私が日本酒をぐびぐび飲みながら酔っ払ってしまっているのはなんとも皮肉だ。

さて、私の話は別にして、皆さんも、20年前は週末の電車などで良く見た昭和的泥酔親父を見かけなくなって久しいのではないだろうか。もはや絶滅危惧種だ。バブル崩壊後の不況の影響やら、浮かれている時代じゃないという時代背景もあるだろうが、昭和的泥酔親父に変身する必須アイテムとも言える日本酒自体が存亡の危機をむかていることも少なからず影響はあるだろう。 

日本酒の消費量は国税庁の「酒のしおり(2010年3月)」によると09年度が61万トンだが、実に75年度の63%減だ。かつて「酒」といえば、日本酒のことを指したが、著者は、もはや日本酒は「好きか嫌いか」の選択肢にも上らなくなっている酒になりつつあると指摘する。本書の主題はまさに、日本酒がなぜここまで衰退してしまったかにある。地酒の酒蔵から、大手メーカー、酒販店、居酒屋まで日本酒を扱う現場を自らの足で取材して紐解いている。 

日本酒といえば「まずい」、「悪酔いする」といったイメージが浮かぶ人も少なくないはずだ。実際、本当にまずかったのである。70年代、酒の消費量がガンガン増えていた時期に大量に流通したのは3倍増醸酒だ。醸造用アルコールや糖類、酸味料などを添加した酒だ。米と水からつくる場合に比べて3倍にも増量している。それでも80年代までは売れていたのでみな、何も考えずにつくりつづけたのだ。また、飲食店などでは、品質管理が行き届いていなかったのも実情だ。温度管理が他の酒に比べて難しいが日本酒が平気でカウンターに並べてあったりするのは、フツーの光景だろう。

もちろん、こうした動きは徐々にだが、変わりつつあるという。地方の蔵などを中心に、「うまい酒造り」への取り組みは高まっている。また、大手メーカーは「大量生産で酒文化を破壊した」と非難されがちだが、技術に光を当てれば、実は大メーカーの技術開発が小規模の蔵に広がり、酒文化を支えている一面も見えてくる。酒蔵や酒販店の中には「どうすれば少しでもうまい状態で飲んでもらえるか」と頭を捻り、独自の取り組みをする企業も少なくない。取材対象者に通ずるのは立場が違えど、「苦しくても、ぶつぶつ文句をいわず工夫しろ」。そんな熱い叫びが聞こえてきそうな点だ。

ただ、現状は厳しい。日本酒の消費量(09年度)は本書の単行本が出版された04年当時より18%近く減っており、反転する兆しは見えない。焼酎ブームの後に日本酒ブームを期待する関係者の声もあったが、焼酎ブームは衰えず、芋焼酎や米焼酎などの単式蒸留焼酎の消費量は09年度に00年度比56%増の50万トンに達した。今後も日本酒市場全体が浮上するシナリオは描きにくい。 

70-80年代、日本酒業界が思考停止状態に陥った負の遺産はあまりにも大きい。ただ、市場が縮小することを嘆いていても仕方がないのが現実だ。実際、著者も「うまい日本酒」は売れていると指摘する。日本酒産業を取り巻く状況は、縮小均衡状態に今後突入する日本の他産業も対岸の火事ではない。(※本の紹介は2004年の単行本版で書いています) 

夜食の文化誌 (青弓社ライブラリー)
作者:西村 大志
出版社:青弓社
発売日:2010-01
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蕎麦、日本酒ときたら御節あたりについての本を紹介するのが流れだろうが、そこはHONZ。夜食である。正月といえば、生活のリズムが狂いがちだけに、夜遅くに食事をしたりしてしまう人も多いだろう。そこはぐっと堪えて本書でもいかがだろうか。

本書は日本での夜食の成立過程に迫っている。5章から構成されるが、どこからでもそれこそつまみ食いできる形になっている。たとえば第3章は「ラーメン史を夜から読む-盛り場・出前・チャルメラと戦前の東京人」。タイトルだけでよだれが出そうだが、夜中に腹が減りラーメンを食べた経験がある人は少なくないではないのだろうか。実は、外来食のラーメンは普及期には今以上に夜食としてのラーメンが正当な食し方とされていた。そこにはラーメンに対する当時のさまざまな偏見や幻想が関わっていたという。また、第1章の「夜食と階層」も興味深い。明治期から戦後までの屋台引きの収入や客層を資料をもとに分析しているのだが、そこでは意外にも高収入な屋台引きの現実などわれわれの間違った思い込みが修正を迫られる事実が横たわっている。 

残りの章も章題だけあげておくと、2章は「路地裏の夜食史-1920-30年代における屋台イメージの転換」、4章が「若者の夜食はどう変わってきたか」、5章は「地方からみた夜食」。いくらつまんでも、太る心配は無用なので思う存分楽しめる。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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