『未解決事件(コールドケース) 死者の声を甦らせる者たち』  人は彼らを”ホームズの後継者たち”と呼ぶ

東 えりか2012年01月16日 印刷向け表示
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未解決事件(コールド・ケース)―死者の声を甦らせる者たち
作者:マイケル カプーゾ
出版社:柏書房
発売日:2011-12
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原題は『THE MURDER ROOM The Heirs of Sherlock Holmes Gather to Solve the World’s Most Perplexing Cold Cases』(殺人の部屋 世界で最も難解な未解決事件を解くために集まる、シャーロック・ホームズの後継者たち)。

『未解決事件(コールドケース)』は、フィラデルフィアにある世界屈指の犯罪捜査専門家たちが集まるクラブ「ヴィドック・ソサエティ(VS)」の創立から発展、現在までの歴史を、時間を追って書き上げたもので、アメリカの過去50年余りに起こった未解決凶悪事件をこのクラブの面々がどのように解決に導いたかを描いている。

このクラブは、世界で初めてパリに私立探偵事務所を開設したフランソワ・ヴィドックの名に因んでいる。ヴィドックが82歳まで生きていたことから正会員は82人。会員制組織で法医学の専門家や検死医、FBI捜査官(退役した者も含まれる)、殺人課の警官、科学者、心理学者検察官など最前線で活躍する(していた)認められた人間しか加われない。

毎月第3木曜日にフィラデルフィアの19世紀風メンズクラブで昼食会を開き、持ち込まれたさまざまの未解決事件を検討する。手足をバラバラにされ血の海に浮かぶ死体を見ながら、血の滴るようなステーキを食べデザートを楽しみつつ、平然と論理的な検討ができる者しかこの会には参加できない。

依頼の条件は3つ。未解決のまま2年以上経っていること。被害者が売春や麻薬取引などの犯罪に関係していないこと(ただし売春婦が仕事のあとになぶり殺しになった事件は取り上げている)そして警察官などしかるべき法執行官が正式に依頼したものであること。ヴィドック・ソサエティは捜査の費用を請求せず、警察官などが説明のためにフィラデルフイアに来るための交通費を出している。

1990年に発足したこのクラブの創始者は3人。1人目は、でっぷりと太り、頭が異様に大きく、ジョークを連発するひげ面の巨漢であるウィリアム(ビル)・フライシャー。フィラデルフィア市警、FBI捜査官を経て米国税関局フィラデリフィア支局の特別捜査部長補佐であったポリグラフの専門家である。

2人目はスリムで小柄、筋肉質で頭は禿げているがハンサムで白いヤギひげを生やした黒ずくめのフランク・ベンダー。彼は法医学アーティストとして世界に名を馳せている。何十年も前の頭蓋骨、時には顔面を破壊された骨からも「死者の姿が見えて」顔を復元する。犯人の数十年後の顔を予想し、その胸像を製作して逮捕に導いたことも多い。

そして3人目。背が高く、眼鏡をかけ、のべつまくなしにメンソールの煙草KOOLを吸いまくる痩身の男性はリチャード・ウォルター。“現代のシャーロック・ホームズ”と称される犯罪心理学者はミシガン州の世界最大の刑務所やスペリオル湖岸にあるロマネスク様式の古城で凶暴なサイコパスを相手にし、連続殺人犯(シリアルキラー)のプロファイリングの手法を開発したひとりでもある。

それ以外のメンバーでは『羊たちの沈黙』でモデルとなった元FBI捜査官ロバート・レスラーや世界屈指の法医病理学者、“殺しのハル”と書かれた飾りナンバープレートの白いキャデラックに乗るドクター・“ハル”・フィンガーなどとともに、インターポールの機関員、CIAの対アフガニスタン極秘作戦の指揮官、パリ捜査局の局長などが参加している。

本書は4部56章に分かれている。第1章はプロローグに当たり、ごく最近の「ヴィドック・ソサエティ」の様子が描かれている。彼らは犯罪者がのうのうと生きていることが許せない。知識を結集しアイデアを集め、何年も迷宮に入っていた事件を改めて日の元にさらし、犯人を追い詰めていくのだ。

第2章はこのクラブの主要な3人がどのようにして犯罪捜査に関わることになったのかが書かれている。第3章はヴィドック・ソサエティの創立とこのクラブが手がけた象徴的ないくつかの事件を同時に紹介していく。

圧巻は第4章である。「モンスター退治」と名づけられたこの章では、セクシーで魅力的な女性が死体なき殺人を犯した証拠を積み上げたり、10人の子供のうち8人を窒息死させた老母を追い詰めたり、レストラン勤務の女性が深夜惨殺された事件の犯人を突き止めたりと、どの事件をとっても一つのノンフィクションとして成立する濃い内容である。

もちろんそこには卓抜したウィリアム・フィッシャーの尋問や、膨大な資料が頭に収められているリチャード・ウォルターのプロファイリングの見事さ、ふたりのアドバイスの元、犯人の現在の姿を胸像にする女たらしのフランク・ベンダーの魅力にノックアウトされるのだ。

このレビューを読んで興味を持った人は、ページ600p超、2600円のこの本を、まず書店で手にとってじかに見て欲しい。そして冒頭に掲げられた8ページに及ぶ口絵を開き照会文を読んで欲しい。それだけなら5分もかからないだろう。多分、それを読んで先を知りたいと思わないものはないと思う。背筋が凍りながら読む本書は、ノンフィクションの醍醐味である。

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最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件
作者:ケイト・サマースケイル
出版社:早川書房
発売日:2011-05-20
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1860年、ヴィクトリア朝時代の英国。6月のある朝、のどかな村にたたずむ屋敷“ロード・ヒル・ハウス”の敷地で、当主の3歳の息子が惨殺死体となって発見された。捜査の任についたのはジョナサン・ウィッチャー警部。1842年にスコットランド・ヤード刑事課が創設された際に最初に刑事になった8人のうちのひとりで、ずばぬけた技量を持つ敏腕刑事である。

ヴィドックが最初の探偵なら、ウィッチャーは世界で最初の刑事である。昨年、本書をどこかで紹介しようと思っていたのに時期を逸してしまい、悔しい思いをした一冊。

FBI心理分析官―異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記 (ハヤカワ文庫NF)
作者:ロバート・K. レスラー
出版社:早川書房
発売日:2000-12
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本書にも登場する『羊たちの沈黙』のモデルであるといわれる元FBI捜査官が注目されるようになった一冊。プロファイリングという言葉がを初めて知ったのもこの本だった。

臨床の詩学
作者:春日 武彦
出版社:医学書院
発売日:2011-02-01
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春日武彦は心の病気について多数の著作を発表している医師である。本書は様々な患者を医師はどう受け入れているかを正直に吐露している。医者も人間だ。受け入れがたい人格もあるし、治療法のない患者もいるだろう。犯罪に結びつくかもしれないと思いながら、手を出せない人間もいる。そのとき彼らはどう対処するのか。精神科医という職業の難しさを思い知らされる一冊であった。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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