1000人の消えた小中学生『ルポ 子どもの無縁社会』 

栗下 直也2012年01月20日 印刷向け表示
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ルポ - 子どもの無縁社会 (中公新書ラクレ)
作者:石川 結貴
出版社:中央公論新社
発売日:2011-12-09
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最近、街を歩いていても「子ども」に目がいってしまう。下は赤ん坊から上は小学生くらいまでか。我ながら怪しいと思うが、別にロリコンではない。近々、育児に対応する可能性が高く、大量にいろいろと本を読んだからか、子どもで頭が膨らみ、つい観察してしまうのだ。私は養老孟司氏が主張するように「昆虫採集してたら子供は育つ」派なのだが、残念ながら、休日の公園などでは、携帯電話やニンテンドーDSを持っている子供はいても虫取り網を持っている子供など見かけない。冬だからか。東京だからか。考えてみれば、山下清のようなランニング姿で虫を追いかけている小学生が2011年にわんさかいたら、それはそれで違和感がありすぎる。「俺はザリガニ釣ってたぞ」と叫んでも、時代の変化がない方がおかしいのだろう。ただ、子どもの目に見える変化以上に、子ども取り巻く環境が激変していることが本書を読むといやなほどわかる。

1章は学校から子どもが消えるという話だ。子どもに興味がない人でも本書を手にとって、ぱらぱらとめくってほしい。「教科書を置いたままある日姿を消す小学生」、「学校から消える子供たち」など衝撃的な文言が目に飛び込んでくるはずだ。「そんな馬鹿な」と思われる方もいるだろうが、「消える」は比喩ではない。また、HONZの定例会でこの本を紹介したときに、メンバーの新井が「姿を消すって、それさぼってるんじゃないの」と冗談交じりに突っ込みを入れていたが、もちろんサボっているわけでもない。日本では年間1000人以上の所在不明の「居所不明児童生徒」と呼ばれる小中学生が存在するのだ。

居所不明児童生徒とは聞きなれない言葉だが、住民票を残したまま、1年以上、所在不明になり、その後の就学が確認されていない日本国籍を持つ子どもを指す。所在がわかっている不登校児などはカウントされていない。「神隠しにあったわけでもなかろう」との声もあがりそうだが、文部科学省の『学校基本調査』で公表されている数字だ。気になるのはなぜ行方不明なっているかだ。例えば「親が借金取りに追われて、家族で夜逃げしている」、「ドメスティックバイオレンスの被害から逃げるため、保護施設などに非難している」などが推測されるが、統計を管理する教育委員会は理由をほとんど把握できていないという。実は調査すら2011年から厳密に行われるようになっており数値の把握で手一杯なのが現状だ(そのため2011年は前年に比べ3倍以上に膨れ上がっている。被災地は未集計のため含まない)。

考えてみれば、行方不明なのだから理由が把握できないのは当然といえば当然だ。ただ、著者は、借金で一家で失踪などの昔から考えられる理由だけでなく、最近では社会的背景も影響しているのではと取材をもとに指摘する。不況下で、非正規雇用のため短期で仕事や居住地が変わる流動的な生活形態が単身者でなくても増加していることが一因にあるという。現状の日本の仕組みでは小中学校の入学や転校は住民票に基づき自動的に進むため、住民票を残したまま転々とする家族などは全く想定していない。つまり、転々とすれば、すべて親の申請と煩雑な手続きが必要になる。経済面も含めて余裕がなければそれらをスムーズにおこなえるとは限らない。地縁や社縁や頼れる親族がいれば話は変わってくるが、「無縁」状態では、子育てに注ぐ力は減る可能性も高い。いくつかの実例を紹介しながら、親の都合で犠牲になっている子どもの実情を明らかにしている。

正直、一章だけでおなかいっぱいになるが、二章以降も章題だけ記しておく。二章「虐待家庭が見つからない-児童相談所はなぜ子どもを救えないのか?」、三章「名無しの命-棄児二十五人、置き去り二一二人の衝撃」、四章「ネットで出会い、リアルで孤立する親」、五章「わが子は無縁にならないか-忍び寄る子どもの無縁社会」。章題だけで暗澹たる気持ちになるが目を逸らしてはいけない。本書のタイトルは『子どもの無縁社会』だが、大人に翻弄されたる子どもを通じて、日本社会の制度と実態の乖離や、無責任さ、不寛容さを描いているのだから。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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