カタ【型】+ チ【魂】『にほんのかたちをよむ辞典』

新井 文月2012年02月07日 印刷向け表示
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にほんのかたちをよむ事典
作者:
出版社:工作舎
発売日:2011-12-17
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日本文化における「かたち」を読み解く事典だ。「かたち」は直接的に目に飛び込んでくるものありながら、独自の文化や思想を含んでいる。つまり「かたち」とは、かた【型】+ち【魂】であり、本書は独特な日本文化の「かたち」を解説している。

発刊元である「形の文化会」の活動は、文化領域に括られる「かたち」を、科学・文化・歴史の視点で総合的に新しく研究し、人類思想上における意義の再確認と、伝統的な保存・創造的発展を期するため各民族風土の保全を目的としている。

形の文化誌」シリーズは、これまでも極めて質の高いかたちの書籍を出版してきた。発行元の「形の文化会」は2012年で設立20周年を迎える。本書はその文化会のメンバーが執筆を分担し、完成させた集大成だ。美術史家の木村重信、色彩研究第一人者の小町谷朝生、漫画家の水木しげるなどスペシャリスト約60人の執筆陣が、200余りの項目を楽しく解説している。

日本では風流の感覚を持つか持たないかは、ほとんど無意識のうちに問われる問題である

冒頭の見開き部分には、多くの文化人による「かたち」に対する思いの言葉が寄せられている。上記の言葉は、バーナード・ルドルフスキーによるものだが、私は彼のこの言葉が、一番日本人の空間認識を表していると思う。

辞典なのでサイズはA5版で532ページとボリュームたっぷりだが、トピックスは各2~4ページ程であり、卍、タングラム、妖怪、吉祥文、おどり、水引…など気になる箇所からいつでも読みはじめる事ができる。

本書の特徴は、豊富な図版とデザインの美しさだ。フラクタル図形の項目では、シダの葉や『冨嶽三十六景』の大波のイラストが美しいし、凧の項目では、解説文中に凧上げのイラストが大胆に挿入されていて面白い。またカバーの裏表紙の図版には金箔が使用され、栞紐は2本で紅白の色使いなのだが、これを発見した時は嬉しくなってしまった。こうなると新しいインクの匂いまで芳しい。日本文化と美術・芸術を好む方にとっては鉄板の一冊だろう。それでも事典にしては面白すぎる内容だ。冒頭で本書は異色ともいえる本、と伝えているがこの本が流布される事を願う。

なにより驚きなのは各項目の徹底した再検証ぶりだ。例えば「しめ縄」の項では、御幣や相撲の土俵入りのしめ縄(不知火形)、出雲大社の大根しめ縄など数々の事象から、日本において紐というのは、神の力を呼び込む生命的存在とされていたと解説している。中国の伝説では、宇宙を創造したのは手にコンパスを持った伏義と定規を持った女媧だが、この2体の下半身はお互いに絡み合った蛇になっており、神社/仏閣における払いの儀式には、必ずといって良いほど捻れが存在するとある。そういえば私達のDNAも二重螺旋構造だし、そのままフラクタル論を展開すれば、宇宙の姿やその誕生のメカニズムを解き明かす「超ひも理論」が浮かびあがる。日本人はいつも循環を意識しているし、輪廻転生を信じる人がほとんどだ。そのおかげで日本人は、昔から積極的に虚無に身を投じ味わい続けてきたのではないか。

Fuzuki Arai

(c)Fuzuki Arai

気になるトピックをあげればキリがない。×というかたちは悪そのものという意味よりも、悪を払う意味であった。折り紙は今でも優美だが、これでも衰退した文化だそうだ。また「石垣刻印」の項目では、鬼門方位の石垣などには、敵の侵入を防ぐ以外にも城郭を守護する魔除けと考えられる刻印がある。☆は代表的な護身の符であるが、±は鬼が自分の知らない11以上の数を恐れる事からきている。

本書は「かたちのことば」「かたちのかたち」「ひととかたち」の3部構成で、キーワードを単に羅列し解説したものではなく、かたちの諸相のネットワークを分類している。私もまだまだ読み込むつもりだが、通じて受ける印象は日本人の誰もが、かたちに寄り添い、ひとつのかたちに万満を込め、そのかけらに万象を観ていたのがわかる。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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