『「むだ」と「うがち」の江戸絵本』 新刊ちょい読み

成毛 眞2012年02月14日 印刷向け表示
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「むだ」と「うがち」の江戸絵本: 黄表紙名作選
作者:小池 正胤
出版社:笠間書院
発売日:2011-12-09
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以前、ツイッターで「クラシック音楽は三味線音楽と比べて粋ではない」と呟いたら、えらい勢いで反論されたことがある。クラシック音楽だって粋な楽曲があるというのだ。ボクにとって粋というのは真面目でも重厚でも芸術的でもない、むしろその逆の諧謔性・外連味のある・戯画化した何者かである。クラシック音楽は粋ではないと言ったのは、むしろ褒め言葉でもあったのだ。九鬼周造の名著「いきの構造」によれば「いき」の特性とは、異性に対する「媚態」であり、江戸者の「意気地」であり、執着のない「諦め」である。その真骨頂が音楽においては清元や常磐津だとすると、出版文化においては黄表紙であろう。

その黄表紙を読みたいのだが、なにしろ変体仮名をスラスラと読める能力がない。それ以上に当時の常識というより流行言葉などの知識を持ち得ていないから、なんのパロディなのかが判らない。というわけで、入門書を探していたら意外にも新刊が出ていたというわけだ。紹介しているのは5冊の黄表紙。たとえば『辞闘戦新根』。書名をひらがなにすると「ことばたたかいあたらしいのね」である。あらそうなのね、なのだ。内容は当時の流行語にキャラを与えて戦わせるという無謀な試みを絵と文でやっちまうわけだ。たとえば「四方の赤」は「飲む」の意、「とんだ茶釜」は「あてがはずれた」の意だ。

「四方の赤」という化け物が「鯛の味噌吸」という化け物と、お座敷で戦ったりするわけで、バカバカしいことこの上ない。そのうちに「さつま芋」と「板刷り」が絡み、さらに「草紙屋」と「彫師」と「画工」が出てくる。流行語とギョーカイ用語のバラしになっている。現代でも素人は「はける」だの「かぶる」だの「押してる」だの、得意そうにギョーカイ用語を使っているのと、まったく同じことを江戸っ子もやっていたわけだ。本書は読み物ではない。黄表紙の写しと「地の文」の活字化、その現代語訳と注釈・解説という構成だ。

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