『ビジュアル 1001の出来事でわかる世界史』を便座で

土屋 敦2012年03月13日 印刷向け表示
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ビジュアル 1001の出来事でわかる世界史
作者:ダン・オトゥール他
出版社:日経ナショナルジオグラフィック社
発売日:2012-02-23
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「トイレにおいておく本」というジャンルがある。ある、というか、手前味噌になるが、おそらくHONZ代表・成毛眞が考案した本のジャンルではないか。代表の言葉を引用すれば、「トリビア系や辞典系の本」、「場所柄『へーー、なるほどねぇ』とうなづける本」ということになる。実際に代表宅で、トイレに並んだ本たちを見たときはちょっと感動し、用もないの便座に座り込みたくなる誘惑に駆られたものだ。

本書は、そんなトイレ本(略すと、いや略さなくてもちょっと著者や版元に申し訳ない感じがする)として、今のところ今年最強の本だと思う。コンパクトな記述と豊富な図版、ページを開けば、面白いエピソードが次々に眼に飛び込んでくる。

最初のトピックは38億年前の生命の出現。次はぐっと「最近」になって6500万年前の恐竜などの大絶滅(これが哺乳類、なかでも人類が食物連鎖の頂点に立つ最初の契機となる)、さらに356万年前の直立二足歩行の始まりへと続き、140年前の「出アフリカ」までが最初の見開き。便秘ででもなければ、もう用を足し終わっているかも知れないが、ちょっと粘ってページを繰ると、やっと50万年前のヒトの出現となる。

ただし、こういった順を追った読み方はトイレ本にふさわしくはない。適当にページをパッと開き、そこに書かれたトピックを読むというのが、正しい読み方だろう。例えば今開いた104ー105ページの見開きを見ると、1324年にヨーロッパで火薬が使用され、翌年にはアステカ族がテノチティトランに都を築き、その15年後、溶鉱炉が発明されて鉄製品が大量に作られるようになった、とある。あるいは190ー191ページ。ドールトンが初めて原子説を唱えて現代化学の礎を築いた年、ベートーヴェンは交響曲第3番英雄を作曲し始め、それが完成した頃、ハイチの黒人たちが武装蜂起し、独立を果たす。こうやって書き連ねていたらきりがないのだが、この適当にパッとページを開くというのがすごく面白いので、もう一度だけ。今度は398ー399ページ。グーグルの検索エンジン誕生とヒトゲノム解読、9.11テロが同じページで語られている。こんなふうに世界全体の同時代の重要なトピックがひとつの見開きのなかに収まっているのだ。

他にもニーチェが『ツァラトゥストラ』を執筆していた頃、計算機が実用化され、アメリカで大規模労組が初めて作られていたり、スポック博士が育児書を書いたころ(割礼について書かれているのが印象的な本ですよね)、ジャッキー・ロビンソンがブルックリン・ドジャースに入団し、トランジスタが発明され、イスラエルが建国されたりしているなど、ただそれらの事象を並列的に眺めているだけで面白いのだ。

この手の本にコラムが配されるのはよくあることだが、本書はそのコラムも3種類に分けられている。まず「歴史の断面」というコラムは時代に幅があるテーマ(「焚書広まる」「今も生き続けるマヤ文明」「有線通信から無線通信へ」など)を扱い、「もっと詳しく」という見開きのコラムは大きな図版が載っていて、レンブラントの代表作「ダナエ」やウンデッド・ニーの虐殺現場の写真、IBMが1944年に開発した自動計算機「マークⅠ」の写真などをその解説とともに見ることができる。さらに、「歴史の一節から」というコラムでは、その時代の人が残した文章が引用される。『コロンブスの日記』やジョン・ウィンスロップが妻に宛てた手紙、1883年のクラカタウ島大噴火の証言 北極点に到達したピアリの航海日誌などからは、生々しい歴史の息吹が聞こえるようだ。

取り上げられたトピックはわずか1001だ。それだけに歴史の大事件ばかりを追っていてるかというとそうでもない。「楽器の発明」「新型の舵が普及」「ジェノヴァ人ジブラルタル海峡を越える」「ヴェサリウスが解剖学の教科書刊行」「ビーバーの毛皮の需要拡大」「歌舞伎の始まり」「高峰譲吉のアドレナリンの分離」「ジェーン・グドールがチンパンジー研究を開始」など、各章を担当した編集者/ライターたちのセンスが実によい。ちなみに38億年前から始まるトピックの1001番目、最後のトピックは東日本大震災/福島第一原発事故だ。実は本書は、2009年に発行された『ビジュアル 歴史を変えた1000の出来事』(こちらは値段が9800円もする)を再編集、加筆したものだそうだが、一番大きな加筆はこの1001番目の出来事だろう。

本書の問題は値段と、高さが19cm、奥行きが22.8cmという大きさだろう。値段は内容と図版を考えれば、個人的には十分元をとれる額だと考えるが、この奥行き22.8cmというのが、我が家の小さなトイレには厳しい。つまり収まらないのだ。仕方ないので、部屋の本棚から本書を引っ張り出してはトイレに駆け込む日々が続いている。

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ピュリツァー賞 受賞写真 全記録
作者:ハル・ビュエル
出版社:日経ナショナルジオグラフィック社
発売日:2011-12-15
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同じナショジオから出た、現代が写真でわかる一冊。ひとつひとつの写真はまさに歴史を語るショットであり、ずっしりと重いので、トイレ向きではないと個人的には思う。

代表がオススメしていたこちらの本は、まさにトイレ向き。文章から著者の人柄もにじみ出てくる素晴らしい一冊。

よい子への道
作者:おかべ りか
出版社:福音館書店
発売日:1995-10-10
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そういや今日、この本をトイレで読んでたな、と思ったのでご紹介。ばかばかしいけど面白い。小学校低学年にウケるツボを見事に突いた児童書。

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