『警察の誕生』

2011年2月2日 印刷向け表示
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警察の誕生 (集英社新書)
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警察で尋問を受けたことがある。

大学4年生のころ、当時、就職で内定先も決まっており一瞬にして、人生が台無しになるのではないか?と思いを巡らせたことを今でも鮮明に覚えている。

実家(石川県)にいた頃は、よく祖母から、「神様に怒られる」だとか、「仏さんが見とるよ」と言われ、よくもわからずに悪いことをしようとしたとき、したあとは、罰(バチ)があたると恐れていた。そして、法律・警察は意識には存在していない。

しかし、大人への階段をのぼりはじめてから、特に大学生で縁のない土地で一人暮らしを始めてからは、何か違うものに恐れを抱いていた。

そして、僕にとって、警察は「内定」という守るものができたその時点から、核心を持って「恐怖の対象」へと変わったのである。他に具体例をあげるとするならば、警察と直結している運転免許の点数。限られた点数を失うことに恐れ、警察が作り上げた道路法に順守する。経済効率性だけを考えれば、限られた時間を有効利用するために、道路標識の速度で走っていられない。

以上の経験より、警察とは、何か「守る」ものを持つ側が作りあげた「制度」なのだろうか?そういう仮説を立てて、本書を手に取った。

※まず、本書はあとがきに日本の警察「警視庁」の誕生について触れており、あとがきから本書を読むと後悔するかもしれない。警察の歴史本としても捉える事ができる本書は順を追って、読んでいくのがおもしろい。

第一章に早速、上記の仮説に応ずる一文があった。「警察は住民個人に対する犯罪の除去、防御よりも、まずは政府に対する犯罪の予防と鎮圧が第一の機能であった」。要するに市民は後回しなのである。国や支配階級の秩序を守るために、警察という制度は存在している。そして、その背景からしばらく、警察は市民から嫌われ続けた。

しかし、恐怖の対象である警察はその一方で(自分よりも強いものから)守ってくれるという印象をも抱かせる。特に大学時代にアルバイトをしていたすすきのでは、一番目立つ交差点に警察があった。その安心感は計り知れない。「守ってくれる」という個人的な感情は、どのような背景から生まれてきたのだろうか?

都市エリートが尊大になりすぎて、既存の警察機能が失われ、治安が悪化したためである。そして、市民は国家当局に警察権強権発動を願い、「一般住民と国家当局との社会的合意による「ありがたき警察」がすなわち警察国家が出現した」のである。筆者も書いているようにここに不思議なパラドックスが存在する。つまり住民は自由を求めた結果、規制に塗れた警察国家を招いたのだ。

なるほど、このパラドックス、自由と規制の綱引きは、経済や政治の分野でも、よく聞かれることであり、警察もその議論の延長線上に乗せることができるのである。では、「警察」の特殊性は何か?それは、「警察とは本質上、今現在の体制を維持するために存在する。」ことであろう。やはり、「守る」ことに本質がある。

「制度」の概念は、経済学のほかに社会学、政治学、法学などでも用いられる学際的な

ものであり、本書に登場する警察もそれに含まれるであろう。制度経済学は市場のみを分析対象とする純粋経済学がブラックボックスとして扱い、分析対象としてこなかった「制度」の概念に着目し、分析を行っている。如何せん、お金がないと始まらない昨今、警察も経済とは無縁ではない。警察という制度を経済学的に評価する、本書の観点から、抜け落ちている部分を深めるにあたり、制度経済学をかじることもお勧めである。

入門 制度経済学
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