1月のこれから売る本-トーハン 吉村博光

吉村 博光2014年01月16日 印刷向け表示
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今年のお正月は「何もしないをする」という言葉が、ずっと頭をめぐっていました。例えば、頭を空っぽにして「子供と過ごす」なんていうのは、私的「何もしないをする」です。日がな一日「競馬場で過ごす」というのも、そう。そして、同じく「釣り糸をたらす」のも、そうです。最近のビジネス書には、トラウマを否定するものがあり前向きで実に素晴らしいのですが、結局私は気がつくとクヨクヨ悩んでいる自分に気づきます。そんなとき今年は、自分と闘うのではなくて、できるだけ「何もしないをする」をしてみようと考えています。正しさにとらわれず心にいつも隙間を作って、現実を受け入れつつ、グルーヴで生きていくイメージです。

そこで、休みの日でなくても、実行できるものを見つけました。「ただ無性に食べたいものを食べる」というものです。すぐそこにある楽園。人は誰でも、毎日何回かは、このガンダーラというかユートピアというか、このパラダイスを訪れることが可能です。そこで今月は、最近読んだ食の本をご紹介します。

とことん!  - とんかつ道 (中公新書ラクレ)
作者:今 柊二
出版社:中央公論新社
発売日:2014-01-09
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301ページというボリューム!食欲そそる、トンカツの写真盛りだくさんの新書本です。なぜ、この本を最初に紹介するのかというと、今回のテーマにジャストフィットだからです。本書の冒頭で、わざわざ「とんかつ気分について」という説明がありますが、確かに「トンカツ以外に考えられないという気分」のときが私にはあります。その気分100%で入店し揚げタテのトンカツ定食を食べて帰る、までの一連の行動は「ただ無性に食べたいものを食べる」と完全にイコールです。そんなとき、私の気分は一新されます。

さらに書かせていただくと、キャベツを好きなだけ食べられる爽快感。栄養バランスが良くて元気になれる、私の人生に不可欠な瞬間です。本書は、定食評論家の今氏が、実際に食べて書いています。目黒、銀座、新宿、上野、高田馬場、神保町。歴史やバリエーションなどの薀蓄が満載。さらには、札幌のおろしとんかつ定食や岡山のドミカツ丼などの紀行ものまで。その時の状況次第で、ロースを食べたり串カツを食べたりしているので各店の比較はできませんが、宣伝臭のないこのリアルさがたまらない一冊です。

食べるパワースポット「伊勢うどん」全国制覇への道
作者:石原 壮一郎
出版社:扶桑社
発売日:2013-09-14
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 さて、皆さん、うどんと言えば讃岐!という方が一番多いのではないでしょうか。うどん界は、ここ数年コシの強い「讃岐うどん」に席巻されてきました。しかし昨年、にわかに存在感を増してきたのが、この本で紹介されている「伊勢うどん」です。

伊勢といえば、ここ数年パワースポットとして注目を集め、昨年は遷宮で大きな話題になりました。そこで永いこと参拝客の胃袋を満たしてきたのが、この太くてコシのない「伊勢うどん」なのです。コシの強いうどんを良しとする傾向のなかで、何故コシのないうどんが幅を利かせてきたのか理由が知りたくて、私も早速いただきました。汁はなく、ダシのきいた濃厚な醤油ダレを麺とからめて食べる油そばのようなもの。食べやすく、非常に美味しかったので、自宅で子供と母親に振舞いました。「おかわり!」という子供の声はもちろん、母の笑顔に感動。今度、近所のデイサービスの人に薦めてみようと考えています。

本書には、伊勢神宮詣でに使える名店ガイドやお取り寄せガイドがついており、薀蓄豊富なだけじゃなくとても実践的。いま、全国的に色々な地場うどんが盛り上がりつつあるそうです。そのような「うどん多様性」に興味のある方は、ぜひここから挑戦を!

つるかめ食堂: 60歳からの健康維持レシピ
作者:
出版社:ベターホーム出版局
発売日:2013-09-01
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恥ずかしながら、2冊紹介したところで早くも今回は偏った書評になりそうな気がしています。食べることで全てをリセットできるなんて、至極単純な人だけになせるワザなのかも。そんな疑念がわいてきたのです。

でもよく考えると近頃は、そんなコミックやドラマなどに触れる機会が増えてきた気がします。皆さん、素直になりつつあるのでしょうか。それとも、うどんのトレンドにあるように、食の楽しみ方が多様化し深まりつつある証拠なのでしょうか。そんなわけで多少の反省もしつつ、誠に恐縮ながらこの勢いで書き進めます。ご容赦ください。

『つるかめ食堂』も、食のトレンドを変える本です。これまで、シニア向けのレシピ集といえば「粗食」にフォーカスしたものがほとんどでした。でも、この本の狙いは、ご高齢の方にも肉をバッチリ食べてもらい、食を楽しんでもらうところにあるのです。

近年、粗食が叫ばれるあまり栄養失調になる方が増えているということは、テレビの情報番組でも有名になっていました。身近な話では、昨年私が入院したときに同じ病室だった80代の方が、食事のたびに看護婦さんと格闘をしていたのを想い出しました。食への執着は、歳をとっても変わらない。きっと私もそうだろう。そんな想像から、私はこの本を手に取ったのです。

東京都健康長寿医療センター研究所の新開省二先生の監修の元、料理教室運営の長い歴史をもつベターホーム協会が編集しているからわかりやすい。何より、写真が美味しそうなので、たまに開くだけで嬉しい一冊です。

へき地メシ 世界の果てまでイッテ食う!
作者:山田 雨月
出版社:ぶんか社
発売日:2013-12-24
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もちろん、バカンスも「何もしないをする」の一種です。ただ、いまの私の環境だと「急いでバカンスする」という変な状況になるので、あんまり積極的に旅をしたいとは思いません。当面、旅行は選択肢から外しています。

この本は、そんな私に旅の楽しさを思い出させてくれました。世界各地を旅行しながら出会った、珍しい食べ物の記録(コミックエッセイ)です。私の知り合いには、昆虫をムシャムシャ食べる人もいますので、ここで紹介されている食べ物自体は刺激的というよりも、むしろ美味しそうだなぁという印象でした。特に途中で出てきたアゲマキ貝(マテ貝)は、小さい頃良く食べていたので、とても懐かしくなりました。

そういえば最近、スーパーの食品売り場にはパッケージ化された商品が多く、ある部分の食の選択肢が減っているように感じます。この本を読んでそんなことも感じました。流通のリスクをそぎ落としていく過程で、きっと従来の食の営みから変わってきてしまったんだろうな、ということは容易に想像がつきました。

どの時代の食の営みがあるべき姿なのかなんて、私にはわかりません。もしかすると、東京への流通はできないけれど地元で食べたら美味しいので、「食べに来い」というスタンスが適切な食品もあるのかもしれません。本書は、料理の絵も美味しそうでしたし、ぜひ現地に行って食べてみたいと思わせる内容でした。続きが出たら、また読みたいですね。

ただ無性に食べたいものを食べる。食への執着とは、生きている実感そのものなのかもしれません。どんなに失敗ばかりでも、この気持ちがあるうちは大丈夫に違いない。と書きつつ、我が人生を肯定する年始めなのでありました。

さぁて、そろそろ家に帰ろうか。
外は寒いけど、今日は、温かいブリ大根なのだ。
 

吉村博光 トーハン勤務
夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。ほんをうえるプロジェクト  TEL:03-3266-9582
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