いま一度、戦慄せよ!『桶川ストーカー殺人事件-遺言』

東 えりか2014年01月16日 印刷向け表示
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桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)
作者:清水 潔
出版社:新潮社
発売日:2004-05-28
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桶川ストーカー殺人事件―遺言―
作者:清水潔
出版社:新潮社
発売日:2004-06-01
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年末『殺人犯はそこにいる』を読んで、足元からじわじわと滲み込んでくるような恐怖を感じた。もし、この本に書かれていることが本当なら、いや、本当にしか思えないのだが、幼女連続殺人犯は今ものうのうをと暮らしていることになる。日本の警察は世界一だ、と言われたのはいつの時代だっただろう。そしてマスコミは、事件記者は、いまどんな規範で動いているのだろう。

著者の清水潔の名前を見て、あれっと思った人はかなりのノンフィクション好きだ。彼は、ある事件の犯人を警察より早く見つけ、その上警察の不祥事までを暴き出した、伝説の記者である。事件とは「桶川ストーカー事件」。この事件が発端となりストーカー規制法が制定されたのはひろく知られているだろう。

当時21歳の女子大生が埼玉県桶川駅前で、白昼、ナイフに刺され命を落とした。当初、通り魔の犯行とみられていたが、この女子大生は執拗なストーカーに狙われており、両親とともに所轄の上尾警察に相談に行っていたことが後に判明する。記憶に残っている人も多いだろうが、知らない方は事件経過を確認してほしい。

当時「FOCUS」の記者であった著者は、1999年10月26日の事件発生当時から関わりを持った。最初は一介の記者だったはずだ。しかしあることから、彼と行動を共にする同志はこの事件の解決にのめり込むことになる。本書はその一部始終を余すことなく書いている。

私は当時、「FOCUS」の記事が大評判になったことで雑誌の段階から読んでいた。最初はいわゆる「飛ばし記事」のような扱いだったものが、日を追うごとに真実になり、手を下した犯人の逮捕、彼らに命令したと思われる真犯人の死体発見、その後の埼玉県警上尾警察署の不祥事と、怒涛のような報道にただ驚いているばかりだった。

2000年10月、本書が単行本で出た際に読み、清水記者とその仲間の一連の行動を知って、警察とは市民にとってどういう存在であるべきか、マスコミが知らせるべき真実とは何か、一般の人が報道に対して気を付けなければいけないことは何かを考えさせられたのだ。

本書の反響は大きく、日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞、編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞を受賞している。

新年第1回目のHONZ朝会で『殺人犯はそこにいる』の話題になった。欠席者も多かったが、なんとメンバーのうちで10人以上読んでおり、それぞれが違う側面からレビューを書きたいという希望を持っていた。確かにこの本を読むと誰かに知らせたい、なんとかしたい、という気持ちにさせられる。

あらためて『桶川ストーカー事件』のことを確認しようと文庫を買い求めた。一度読んでおり、事件と本書のあらましを知っているだけにどんどん先に進める。途中からはもう夢中だ。15年前に遺書を残して犠牲になった被害者の無念、両親の慟哭、親身になって相談に乗りながら結局、彼女の死に立ち会ってしまった友人たちの怒りが体に流れ込んでくる。

それと同時に『殺人犯はそこにいる』で「足利事件」の犯人とされた菅家利和さんの冤罪が認められた今でも、連続幼女殺害事件を認めない警察の体質や、警察の記者クラブからでしか情報を求めない大マスコミの姿勢、何も知らされない被害者の親族たちの姿がダブってくる。いくら雑誌やテレビの記者が身を粉にして真実に近づこうとしたところで、犯人逮捕には結びつかないジレンマを感じてしまう。1976年から1996年まで栃木県足利市と県境近くの群馬県の半径10キロ圏内で起こった5つの幼女誘拐殺害事件は、驚くほど犯行手口が似ているにもかかわらず、警察の誰一人として何も気づかなかったのだろうか。

2004年に文庫化された『桶川ストーカー事件ー遺言』には「遺品」という補章が付いていた。単行本で読んだ私はこの部分を知らなかった。本事件に絡む上尾署の不祥事は続いていた。国家賠償法による損害賠償を請求された埼玉県警は、殺害事件の折に押収した遺品を返すどころか、民事で争われる賠償法を逃れるための証拠に使おうとしていたのだ。

ドキュメンタリー番組として放映され、その反響の大きさはたいへんなものだったらしい。本書では名誉毀損罪の捜査について怠慢であったことを認め計550万円の支払いを命じたが、「捜査と殺害の因果関係」は否定した。一審判決のあまりの軽さに、両親が控訴したところで終わっている。東京高裁、最高裁でもその判決は覆ることはなかった。

文庫化によせて被害者の父親が言葉を寄せている。被害者の遺族が雑誌の記者に感謝の言葉を述べるのは異例のことだろう。それだけ誠心誠意、清水潔という記者がこの事件に対していたことを知る、ひとつの証拠であると思う。

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