2月のこれから売る本-紀伊國屋書店富山店 野坂美帆

野坂 美帆2014年02月05日 印刷向け表示
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こんにちは。皆様いかがお過ごしでしょうか。紀伊國屋書店富山店、理工書担当の野坂美帆です。富山は今年、雪も少なく、ありがたいような寂しいような、矛盾した気持ちでおります。春にはまだ遠いですが、一月に入って理工書棚では動物学関連の新刊が花盛り。全部ご紹介したいところですがその一部をお伝えしたいと思います。

パンダが来た道: 人と歩んだ150年
作者:ヘンリー ニコルズ
出版社:白水社
発売日:2014-01-25
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まずは『パンダが来た道』。著者のヘンリー・二コルズは、ケンブリッジ大学卒業後シェフィールド大学で進化生物学の博士号を取得した科学ジャーナリスト。邦訳のある著書に『ひとりぼっちのジョージ―最後のガラパゴスゾウガメからの伝言』がありますので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

『ひとりぼっちのジョージ』では、もはや絶滅したと思われていたビンタ島のガラパゴスゾウガメが1971年に再発見され、保護、繁殖と人々が動いていく様子を中心に、絶滅危惧種や自然保護について、またそれをめぐる社会の在り方や変化を考えさせられる作品でしたが、『パンダが来た道』ではその姿勢をさらに深化させています。ジャイアントパンダという生き物の生物史、社会史を丹念に掘り下げた、素晴らしいノンフィクションです。

いわゆるパンダとはそもそもどんな生き物なのか。また、なぜ彼らはただの生き物としてのパンダであることができなかったのか。パンダに与えられた社会性の変化には、ゾクリとします。動物学に関心のある方だけでなく、歴史学、社会学に興味のある方にもぜひお勧めしたいと思います。監修・解説は、ジャイアントパンダ第七の指を発見した遠藤秀紀氏、帯の推薦文は上野動物園園長の土居利光氏。余談ですが、ページ番号、表紙や背表紙、見返し、スピン、花布に至るまでパンダ仕様。造本に白水社のこだわりが光ります。

ネコの動物学
作者:大石 孝雄
出版社:東京大学出版会
発売日:2013-12-24
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お次は『ネコの動物学』。一昨年は『犬から見た世界』、『犬はあなたをこう見ている―最新の動物行動学でわかる犬の心理』を始め、犬関連の本が話題を攫った動物学棚ですが、伴侶動物の双璧をなすネコ側からも何か出版されないだろうかと思っていたら、良質の概論が出ましたのでご紹介します。

著者の大石孝雄氏は東京農業大学で教鞭をとる動物遺伝学者。東京農業大学農学部にはバイオセラピー学科があり、伴侶動物学研究室もあります。本書は大石氏の講義内容をもとに、研究室の学生たちの研究成果も合わせてまとめられた労作です。ネコは古代エジプトのバステート神像に代表されるように、遥か紀元前より人間と共に暮らし、文化、生活の中に根差してきた生き物です。

猫の神話』のような文化史からアプローチする読み物も出ていますが、獣医学、行動学、遺伝学、歴史学、社会学、芸術と、イエネコに関する研究を包括的にほぼまとめきっている本書は、まさしく待ち望まれた最新のネコ学概論と言えましょう。ネコ派必携の一冊です。

犬が私たちをパートナーに選んだわけ 最新の犬研究からわかる、人間の「最良の友」の起源
作者:ジョン・ホーマンズ
出版社:阪急コミュニケーションズ
発売日:2014-01-30
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イヌはやはりイヌで負けられないのか、続々と新刊が刊行されています。『あなたの犬は「天才」だ』、『イヌの考古学 (ものが語る歴史シリーズ)』など広いジャンルでイヌは人気です。動物学では『よくわかる犬の遺伝学』も並びますが、ここは『犬が私たちをパートナーに選んだわけ 最新の犬研究からわかる、人間の「最良の友」の起源』をご紹介します。

著者はニューヨーク誌の編集者。彼が犬を飼い始めることから話は始まります。アメリカにおける犬を取り巻く社会環境、倫理、福祉が解説され、その問題点や焦点となる事柄が指摘されたり、犬の歴史を辿ったり、生態や行動、心理についての研究状況が語られたり、とにかく興味深いトピックが次から次へと飛び出すのですが、いずれも著者の愛犬・ステラを切り口に書かれるので、いつの間にか専門的な話にも抵抗なく入っていってしまいます。

貫かれているのは、「犬とは何か」という問い。「人間にとって犬とは何か」という言い換えをしたいところですが、訳題は『犬が私たちをパートナーに選んだわけ』とあります。犬と人間の関係を考えることは、「人間にとって犬とは何か」という問いに収斂するのではないのかもしれません。ぜひ通読して、読み解いてみてください。

狼が語る: ネバー・クライ・ウルフ
作者:ファーリー モウェット
出版社:築地書館
発売日:2014-01-23
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さて、次はカナダの名作、ファーリー・モウェットの『狼が語る ネバー・クライ・ウルフ』を。カナダの作家と言えば2013年ノーベル文学賞を受賞したアリス・マンローでしょうか。個人的にはアリステア・マクラウドが好きです。と、こんな話は関係ないのでして、この作品は、1977年弊社出版部より刊行された『オオカミよ、なげくな』の新訳です。

日本でも公開された映画『ネバー・クライ・ウルフ』の原作であり、復刊を望む声のあった本書。作家でもあるモウェット氏が、オオカミとカリブーを研究する生物学者として政府に雇用され、亜北極圏で過ごした経験に基づいて書かれたノンフィクションです。

「人間の敵である」というオオカミに対するイメージは今でも根強くあります。この作品は、オオカミの生態を詳らかにすることで従来のイメージを否定し、観察と考察のもとに生態系を理解するという科学的態度へ読者を導く端緒になったマイルストーン的作品だろうと思います。原著の発売は1963年ですが、色あせることのない内容です。新説や新発見の紹介ばかりが科学読み物の醍醐味ではありませんよね。評価ある作品の復刊もまた、支持したいと思います。築地書館の公式サイトにて訳者あとがきをお読みいただけますので、ご参考に。

神秘のクジラ イッカクを追う
作者:トッド マクリーシュ
出版社:原書房
発売日:2014-01-24
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最後は『神秘のクジラ イッカクを追う』です。まず表紙を見て驚きました。イッカククジラの群れ。個人的な話で恐縮ですが、昨年あるインタビューのために、話を伺う方の書かれたイッカククジラについてのエッセイを読む機会がありました。それ以来実はずっと気になる存在だったので、このノンフィクションを非常に心待ちにしていた次第です。

中を開くと、イッカククジラの水中写真、浮上しているところ、可愛い尾びれ、ハンターによる狩りの様子。臨場感溢れる写真が続きます。誰得って、野坂得。イッカククジラとは北極圏を生息地とする小型のクジラで、最大の特徴は、表紙を見ていただければわかるようにオスの角です。角、と便宜上言いますが、これは歯なのです。体長4~5メートルのクジラに、最長3メートルにもなる角(歯)。本書は、その進化の歴史、生態、周囲の生き物との関わり、イヌイットとの歴史、晒されている環境の変化に至るまで、丁寧につづられたノンフィクションです。

もしも一声叫ぶことを許していただけるなら、「ありがとう原書房―――!!」と言いたい。北極圏は、科学的にも、政治、経済的にも、注目の集まる地域です。しかし、希少な生態圏でもあります。イッカククジラを通じて、ぜひ普段は見ることのない遠い地の生き物にも関心を持っていただきたいと思います。

象にレース鳩に、ご紹介したい本は尽きませんが、今月はこれで失礼いたします。蛇足ながら、今回ご紹介した5冊、計11900円(税抜)でございます。ぜひ増税前にお求めくださいませ。お近くの書店の理工書売り場においで頂きましたら、更にお買い増しのことと思います。しかし、きっとご満足のいく帰り道と保障いたします。

ありがとうございました。また来月、お目にかかります。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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