3月のこれから売る本―紀伊國屋書店富山店 野坂美帆

野坂 美帆2014年03月16日 印刷向け表示
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いい階段の写真集
作者:BMC
出版社:パイインターナショナル
発売日:2014-01-21
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BMC、ビルマニアカフェという団体をご存じだろうか。「月刊ビル」というリトルプレスまで出版している1950~70年代ビルを偏愛する5人グループで、大阪を中心に活動。

参加する設計士の高岡伸一氏は『大大阪モダン建築』を上梓するなど近代建築への関心で知られ、岩田雅希氏は東京R不動産と提携する大阪R不動産の運営元、株式会社アートアンドクラフト所属のリノベーションのプロ。他の3人も含め、BMCは近代・戦後ビル建築の良さを生かし、魅力を発信するような活用法やイベントを提案している。

2012年、彼らが満を持して出版した『いいビルの写真集west』は、レトロビルのモダンさ、美しさを心行くまで主張する独自の美意識に貫かれた写真集だった。そして第2弾、というか、番外編というか、今年1月に出版されたのが本書『いい階段の写真集』。

第1章は階段鑑賞のポイント解説から始まる「いい階段40選」、第2章は手すり・金物・踏板・床面・照明など、ポイントをさらに掘り下げて語りつくす「いい階段の見どころ」。階段に使われる部材の職人にまで話を聞く徹底ぶりで、建築部材ファンは要チェックの章。階数表示や段裏まで語られたらもうあっぱれとしか言えない。

階段は立体的な構造を持ち、空間に大きな変化をつけることが出来るデザイン上の要である。建築物全体を一つのまとまった空間として維持しつつ複層化させ、それを繋ぐという機能は変わるものがない。ビルマニアが階段に魅せられたのは必然としか言いようがないだろう。マニア魂極まれり。 

近代・戦後ビル建築に興味のない方も、ぜひ熱いメッセージに触れてみて欲しい。ちなみに私、33年間の人生で出会ったビルの中でこれぞとオススメしたいのは大学時代を過ごした岡山県岡山市のルネスホール(旧日本銀行岡山支店)。特にルネスホール内、公文庫を利用したカフェは至福。オススメしたい階段は今の所思いつかないので、今度この本をガイドに探してみたいと思う。

WindowScape 2 窓と街並の系譜学
作者:東京工業大学 塚本由晴研究室
出版社:フィルムアート社
発売日:2014-02-20
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建築物内で空間と空間を繋ぐ役割を担うのが階段なら、建築物の内と外を繋ぐファクターとして機能するのが窓だ。住宅建材メーカーYKK AP株式会社(創業者の吉田忠雄氏は富山県出身!)「窓研究所」は、窓文化の創造を目指し、窓の知見の収集・蓄積を目的として、「窓学」という窓に特化した幅広い視点での研究活動を行っているが、その成果の一つとして東京工業大学・塚本由晴研究室の研究から生まれたのが「Window Scape」シリーズ。

窓の造作は設備上の機能だけでなく、人の生活に影響を及ぼし、ひいては文化にまで作用する。そして窓と共に形作られた生活文化は、更に窓の在り方に影響を加える。前作『Window Scape 窓のふるまい学』は、世界各地の窓文化例を集めて検証、窓のふるまい学として編んだ労作だ。

今作はそこから更に広がりを見せる。窓が集まり、連なるとどうなるのか。『Window Scape 2 窓と街並みの系譜学』は、街並みに焦点を当て、リズムやパターンを読み解こうとする系譜学へと発展している。建築と形式、空間と主体、ストイックな建築論を根底に持っているのだが、窓、空間、人を写真や簡潔な説明からどのように捉えるかは読者に一任されている。

読めば読むほど味のある一冊。しかし建築論を脇に置いて、感覚を研ぎ澄まし写真や図版からイメージを受け取ることが貴重なようにも思える。本書に直接の関係はないものの下記インタビューに挙げられていたアンリ・ルフェーブル『空間の生産』をご紹介しておきたい。(10+1web site掲載インタビュー・いまなぜ「ビヘイビオロロジー(ふるまい学)」なのですか? | 塚本由晴+南後由和はこちら(10+1web site掲載・八束はじめ氏『空間の生産』書評はこちら

ちなみに、「窓研究所」公式サイトは非常に刺激的。「今日の窓格言」(そんなに格言があるとは!)や言語学者、植田康成氏による「窓語アラカルト」、著名建築家へのインタビューなど盛り沢山窓三昧。『Window Scape 窓のふるまい学』からの抜粋記事もある。窓好きならずとも興味深く読んでいただける内容だ。ぜひこちらもご覧いただきたい。

橋を楽しむ―歴史で辿る日本の橋・中国古代橋梁・韓国伝統橋
作者:平野 暉雄
出版社:日本写真企画
発売日:2014-02
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人の体と心を空間に繋げるのが窓ならば、土地と土地を繋げ、地形的な広がりを生み出すのが橋だ。また橋は美観を称えられたり、呪術的な意味合いを持たされたりする文化的な要素もある。『日本百名橋』『日本の橋』など橋に関する類書はあるが、今回日本、中国、韓国の橋を紹介するビジュアルガイドが発売されたのでご紹介したい。

『橋を楽しむ』は日本各地の橋を時代に区分して紹介。自然の石橋、神社の神橋、和歌に詠まれた橋もあれば鉄道橋梁も登場。個人的に気になったのは山梨県大月市の猿橋。日本三大奇橋のひとつだそうだ。刎構造をもっと詳しく見たいと地団駄を踏んでしまう。

実際に見に行きたくなる全く恐るべきガイドである。時代が移り変わるにつれ工法も建材も変化していき、それを目で見て楽しむことが出来るのは嬉しい。日本編よりはぐっとページ数が限られるものの、中国と韓国の古代橋梁が紹介され、日本への影響や差異を観察するのも興味深い。簡潔に付された解説を手掛かりにもっと調べてみたくなる。題名に嘘偽りなし。まさに『橋を楽しむ』1冊だ。

最新トンネル工法のなぜ
作者:大成建設「トンネル」研究プロジェクトチーム
出版社:アーク出版
発売日:2014-01-25
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さて、最後におまけのご紹介。『最新!トンネル工法の“なぜ”を科学する』。大成建設と言えば、イスタンブールのボスポラス海峡トンネル建設で海底トンネル部分を施工した日本トンネル建設界の雄。海峡トンネルは1860年オスマン帝国の時代からの悲願。2013年11月、その達成に貢献したという括目のニュースは記憶に新しい。

海峡トンネルに使われたのは「沈埋トンネル工法」。もちろん本書内でもわかりやすく解説されている。トンネル建設はロマン、だなどと可愛いことは言わない。最新技術の結晶、ガチンコの土木技術に酔いしれること間違いなし。 
 

今月は「繋ぐ」建築本をご紹介した。本は未知の世界へ読者を繋ぐもの。「繋ぐ」本にどうぞ誘われたい。また次回のご紹介をお楽しみに。 

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