映画版すらも改変せざるを得なかった最大のタブー。あとヒットガールは大きくなっても可愛いです。『キック・アス』

永田 希2014年03月25日 印刷向け表示
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作者:マーク・ミラー
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2010年に話題になった映画『キック・アス』に原作があることを知らない人がいます。別に情報が届いているかどうかという問題なので、知らなくても構わないのですが、映画版が好きな人は是非とも原作も読んで欲しいと思い、今回の記事を書くことにしました。

『キック・アス』は、正義の味方に憧れる主人公の普通の男の子が、ヒーローの扮装をして悪と戦おうとする物語。そこにヒットガールとビッグダディという2人の人物が登場し、血で血を洗うシャレの通じない「正義」の現場に主人公を引っ張りだします。悪者をバッタバッタと殺していく容赦のない「正義」に、ヘタレの主人公はすぐ逃げ出すのですが、時すでに遅し、主人公の命すら危険に晒されるのでありました…

…と、これだけ書くと映画版と原作とは同じです。映画版は、正義の味方が悪役とは言え殺人を繰り返し、未成年であるヒットガールは差別的だったり卑猥だったり政治的に問題があるような放送禁止用語をバンバン吐き捨てるし、優等生的でキレイ事に縛られた「正義の味方」像の限界を突破する清々しさがあります。

「殺人」をするか否かという正義の味方の根本的な問題や、正義の味方のクリーンな印象に対するダーティな異議申立ては、それだけで刺激的なのですが、実は『キック・アス』の原作には、映画版にはない2つの大きなタブー破りが存在します。

重大なネタバレになるので本稿ではそれを具体的に書くことができないのですが、『キック・アス』という作品のもうひとつの「危険な魅力」についても語っておかなければならないでしょう。

作品に触れた人ならば、ほとんどすべての人が感じたであろう「暴れる女の子ってカッコいいし可愛い!」という魅力です。作品名こそ『キック・アス』ですが、「実質の主人公はヒットガールだよね」という感想も散見します。ヒットガールの存在は、『キック・アス』の不可欠な魅力なのです。

で、問題なのは、このヒットガールとは「誰」なのかということです。映画版では、ヒットガールは母親の仇討ちのために父親がほとんど洗脳的に作り上げた殺戮マシーンでした。ある意味ではヒットガールはビッグダディの犠牲者なのです。この点を無視して『キック・アス』を語る人は偽善者でしょう。カッコよさも、可愛さも、彼女が自分で選択したものかどうか、わからないのです(自分で選択したのだ、と考えることももちろんできますが、本当にそうか?という問いはいつまでも残るでしょう)。

「カッコいいし可愛い!」と思っていた女の子が、一人の男の私怨のために幼少期を殺戮の道に捧げるよう強要されていたという設定。『キック・アス』の最大の魅力は、この同居させるにはあまりに残酷な設定をシンプルに提示したところです。

原作『キック・アス』は、この点で、更に残酷な設定を導入しています。映画『キック・アス』のヒットガールの「カッコいい可愛さ」と、その生い立ちの苛酷さの両立を、残酷な美しさとして鑑賞してしまった人は、ぜひとも原作も読んでみてください。

ところで、最近『キック・アス』の続編が劇場公開されました。すでに上映を終了しているところも多いのですが、ヒットガールにハートを撃ち抜かれた人は大画面で彼女の最新の活躍を目の当たりにして欲しいと思います。

「でも、ヒットガール、年をとって劣化してるんじゃ…」

というご意見、これもまた散見します。人間は機械じゃない。傷付き歳をとることはあっても、単に劣化するなどということはあり得ない。残忍で過酷な世界設定だからこそ、ヒットガールは美しいのです。

『キック・アス』は魅力的な登場人物たちによる群像劇という側面もありますが、今回はそれらに敢えて触れずにヒットガールの魅力だけに絞って紹介しました。なお、この映画版『キック・アス』の続編にも原作があり、目下邦訳版の刊行準備が進められています。Amazonで予約が開始されているので、要チェックです。

『キック・アス』原作と劇場版の設定上の齟齬が、それぞれの続編でどのように引き継がれ対照させられているのか、今から楽しみです。

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作者:マーク・ミラー
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