新社会人応援企画 第5弾! ふつうの人がプロになる道すじを体感できる『ベイビーステップ』

東海林 真之2014年04月06日 印刷向け表示
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ベイビーステップ(1) (少年マガジンコミックス)
作者:勝木 光
出版社:講談社
発売日:2008-02-15
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  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

『ベイビーステップ』を読むと、自分も成長しているような実感が得られる。このマンガはテニスを舞台にしているけれど、テニスをしたことがある人もない人も、まるで自分が体験しているかのように強くなっていく気がするのだ。

そして、その成長の道すじは、テニスに限らずビジネス一般にも通じるものだろう。現実に通じるリアルさが、そこには描かれているのである。

主人公の丸尾栄一郎(エーちゃん)は、体格や身体能力が優れているわけではまったくない。テニスもやったことがなく、むしろ勉強ばかりしてきた高校生だ(勉強ばかり・・のところは共感できないかもしれないが、というか私が共感できなかったが、まぁ普通の高校生ということだ)。そんな彼がぐんぐんと成長し、目標とするプロテニスプレイヤーに近づいていく。普通の物語だと、この成長過程にどうしてもムリがでてきてしまうのだが、ベイビーステップでは思わず「このとおりにやったら自分もプロになれるんじゃないかな?」と考えるほどのリアルさがある。

例えばどんな部分が、リアルなのか。

エーちゃんははじめ、まったくの素人なので、素振りや壁打ちにいそしむ。はたから見たら地味な練習だけれど、エーちゃんはその中に楽しみを見いだし、こつこつと続ける。そして力がつく。またスポーツ経験のないエーちゃんは全力で試合を戦い抜くだけのスタミナ・筋力がない。そこで、試合の日から逆算したトレーニングメニューを組み、自分の身体の限界を上げていく。毎日、へとへとになるほど身体を酷使するからこそ、筋肉や肺やその他身体すべてが「もっと動かないと」と適応して強くなっていく。

基礎力がついてきたエーちゃんは、自分よりもはるかに強いライバルたちに、勝ちたいと思うようになる。実力伯仲の激しい戦いを繰り広げるのだが、それを支えるのは彼の「分析力」と「意志力」。試合前にも試合中にも、ノートに対戦相手のデータをとにかく書きつづり、そこから相手の得意な技、クセや弱点を分析し、自分がどう戦えばいいのか戦略を練っていく。また、ギリギリの崖っぷちでもあきらめず、最後の最後まで打開策を見出すべく、さまざまなチャレンジをしていく。

描かれている行動はどれも納得できるし、できないことじゃない。いや、私たちでもできることばかりだと思う。だからリアルに感じるのだ。そして、できることをしっかりやることで確実に成長していくエーちゃんを見ていると、勇気を持てる。また、ビジネスの世界も同じじゃないか、と思う。

ライフネット生命の岩瀬大輔さんも昨年のブログで語っている。「目の前に与えられた仕事をがむしゃらにこなし、一日も早く社内で信頼される人材になること」が、逆説的だが難しい仕事を任されるようになる近道だということ。そして信頼される人材になった後、「世の中を不完全な状態として見つめ、常に新しいものを生み出そうと」することで、新しい商品やサービスを生み出せる人材になっていくこと。

どうだろう。エーちゃんの行動と同じではないだろうか。

正直、このマンガについては、まだまだ書き足りない魅力がいっぱいある。今回は、最後にあとひとつだけ、少し意外な魅力を伝えて終わりたい。
それは「努力することだけでは勝てないことが、しっかりと描かれている」ことだ。

先にも書いたように、エーちゃんは体格や身体能力が優れているわけではまったくない。そのため、強い球を打つでもなく、必殺技を持っているわけでもなく、結局コントロールや粘りで相手のミスを待つという戦術で勝つことになる。ある一定のレベルまでは(それなりに高いレベルまで)そのまま勝ち進める。しかし、あるとき、それだけでは勝てないことにエーちゃんは気づく。そしてそこから、彼はある決断をするのだ。

「リスクをとること」である。

言葉にするとあっさり聞こえてしまうかもしれないが、これは簡単なことではない。今までコントロールに重きをおき、粘ることが勝利のスタイルだったし、それは変わらないのだ(いやむしろ、変えたら弱くなってしまうだろう)。けれどそのままでは勝てない。だから、エーちゃんはリスクをとりにいく。リスクをとると、今度は自分がミスをする可能性が増える。相手にもチャンスを与えるかもしれない。なので、とらなくてもいいリスクは選ばず、とるべきリスクを分析する。勇気を出してリスクをとり、格上の相手に食い下がる。追いつめミスを誘い、勝利をもぎとる。

今までのマンガで、主人公がリスクをとること自体はよくあることだと思う。けれどその時、リスクに対する「アブナさ」は過小評価されていることが多かったのではないだろうか。ベイビーステップがおもしろいのは、主人公の普段の勝利スタイルが「リスクを抑える(=コントロールタイプ)」であることだ。なのにも関わらず、勝利のために、リスクをとっていく。いや、「リスクをコントロールしていく」と表現した方が正しいかもしれない。

これは、ビジネスの世界でも同じだろう。リスクばかりとる人材は、ドラマなどではおもしろくても、実際はアブナくて使えない。なので当たり前のことをしっかりできる力がまずは必要になる。けれど、それだけではいつか限界が来てしまう。その限界が来たときに、世の中の人は、2つのタイプに分かれるのだ。そのままでいいと思う人と、コントロールしながらもリスクをとっていく人に。

さあ、あなたはどちらのタイプになるのだろうか。それ以前に、まず基礎力を、厭わずつけることができるだろうか。これから社会で必要になることは、すなわち「プロ」になるために求められることは、私はこのマンガに書いてあると思う。
 

ベイビーステップ(6) (少年マガジンコミックス)
作者:勝木 光
出版社:講談社
発売日:2009-01-16
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  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

最新刊もますますおもしろく続きが楽しみなのだけれど、物語の前半で私が一番好きなのが、この巻。エーちゃんの人生が大きく変わる、変化の巻である。

エーちゃんの人生を変えるきっかけになったのが、同年代で既にプロ選手である池 爽児(いけ そうじ)。(余談だけれど、この「イケ」のモデルとなっているのが、プロ選手の錦織 圭(にしこり けい)すなわち「ケイ」だったりする。)
彼に触発されてプロを目指すことにした心理ももちろんだけれども、エーちゃんが両親の承諾を得ようとするシーンがおもしろい!

なんと彼は、両親を前に、人生プランの「プレゼン」を始めるのである。

「これからプレゼンを始めたいと思います。お手元の資料をご覧ください」

エーちゃんらしいけど、高校生らしくないシーンで、くすっと笑える。ほんと、ビジネスマンみたいだ。ところで、作者はこのシーンを絶対書こうと決めていた模様。作者にとっても区切りの巻だったのかもしれない。

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