新社会人応援企画 第7弾!三井・三菱をも凌いだ幻の総合商社があった!!『栄光なき天才たち』第3巻

角野 信彦2014年04月09日 印刷向け表示
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栄光なき天才たち 3 (ヤングジャンプコミックス)
作者:森田 信吾
出版社:集英社
発売日:1988-11
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  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

総合商社のルーツとはどこに求められるだろうか。

俗説で、坂本龍馬の海援隊が三菱商事の元になったとか、三井と三菱という政商が明治政府と結びついて当時の利権を独占したとか言われることがある。実際のところデータを参照してみると、大正6年に鈴木商店は15億4000万の売上で、三井物産の10億9500万を大きく上回り、日本一の商社になっている。三菱商事ができたのがその翌年の大正7年だ。

また、三井物産の資本金が大正14年に1億円に対して鈴木商店が8,000万で三菱商事が1,500万である。今では幻と呼ばれる鈴木商店は明治大正を通じて三井物産の強烈なライバルだった。

後に神戸製鋼所、帝人、サッポロビール、豊年精油、日本セメントとなる企業集団をも配し、三井にもまけない新興コンツェルンとして絶頂に達した鈴木商店が昭和2年の昭和金融恐慌をきっかけとして経営破綻していくまでのストーリーがこの『栄光なき天才たち』第3巻の鈴木商店編である。

私がこの『栄光なき天才たち』を新入社員に読んで欲しいマンガとして選んだ理由は二つある。ひとつは、「買い占めの鈴木」として、金子直吉が情報をお金に変える姿が活き活きと描かれ、ビジネスにおける情報の重要性について考えるきっかけになること。もうひとつは、商売の天才、金子直吉が出る杭は打たれる日本社会で米騒動を通じて泥沼に嵌っていく経過がリアルに描かれ、この描写から学ぶことが多いと思ったからだ。

ひとつめの情報をお金に変える場面が象徴的に描かれているのが、三井物産の幹部が叫ぶこの場面だ。

わしらの読みが甘かった!!
鈴木が世界各地に持っとる情報網はおそろしく正確や!
金子は確固とした理由づけがあって買いをやっとる!!
(中略)
金子の足元には欧州各地から送られた戦争による沈没船数
推定消費物資量などの暗号電文がぎっしりとつまっていた

この場面を読むと、ビジネスの本質はインターネットが発達した現在でもあまり変わっていないことがわかる。希少な情報を、誰よりも早く集め、それに基づいて誰より早く行動することで鈴木商店を短期間で三井に負けない企業に育て上げた。ここは金子直吉の足元に、寿屋(サントリー)が台湾で生産していたトリス紅茶の空き箱に電文が沢山詰まった場面として描かれている。台湾と鈴木商店は、後藤新平が台湾の民政長官時代に樟脳油の独占販売権を取得して以来の深いつながりがある。こうした細かい描写に鈴木商店をリアルに描こうとする森田信吾の情熱が垣間見える。

もうひとつの鈴木商店が「出る杭」として叩かれるきっかけになる場面は大阪朝日新聞の誤報の紙面から始まる。

それに対する金子直吉の対応はこうだ。

ほっとけほっとけこんな騒ぎ・・・
取るに足らん!
鈴木の潔白は眼のある人なら知っておる!
文蔵はん
鈴木は大きいぞ!
この神戸だけでも鈴木で働く人間を合わせたら何万人もおるんだ!
いずれ 世間もその何万人もの社員を通じて
鈴木の潔白をー
うちが決して小汚い商法などしないということを
知るようになる!

一方で支配人の西川文蔵のモノローグはこうだ。

金子さんは事の重大さに気づいていない
潔白かどうかなど問題ではないんだ!
鈴木が巨大である事自体が
世間から狙われる原因になっていることを・・・

鈴木商店と金子直吉の名誉のために言っておくが、米騒動と鈴木商店本社の焼打につながった記事に関しては、寺内内閣の非立憲的な性格に憤慨した大阪朝日新聞の誤報であることは後の歴史家が証明している。しかも鈴木のライバル、三井が米不足の中、国産米をハワイに輸出していることを全く報道していないのだ。

ライブドア時代の堀江のブログには批判や中傷コメントがかなりの数まじっていた。私がライブドアパブリッシングで働いていた頃、こうしたコメントを華麗に無視する堀江を見て、仲間うちでそのスルー力に驚いていた。

ビジョナリーに悲劇がつきものなのは、彼らは人がどう思っているかにほとんど関心がないからだ。彼らは自分が描いた未来を実現するために、どんなハードワークでもこなし、いちいちその意味を説明したりしない。

現在の堀江は批判や中傷を放置せずに丁寧に説明することを心がけているという。『栄光なき天才たち』を読んで、こうした日本社会の「出る杭は打たれる」性質を理解しておくことは、社会人になりたての若者にとっても悪いことではない。人間にとってもっとも厄介な感情、妬みや嫉みが自分にも生まれやすいと知っておくだけで日本がビジョナリーにとって住みやすい国になるからだ。

金子直吉や理研の創設者の大河内正敏は100年早かった天才だと思う。失敗の大きな原因となった、グループ内に金融機関を抱えない弱みは、これだけ多様な資金調達手段が発達した社会ではほとんど存在しない。妬み嫉みに対応するために自分を説明するメディアもインターネットがある。

前回のマンガHONZ夜会のとき、この『栄光なき天才たち』第3巻 鈴木商店編を取り上げる
ことを話すと、

「俺は金子直吉のようにはならないと思ったのに」

と堀江がつぶやいていた。
あなたもこのマンガを読んで金子直吉が現代に生きていたらと考えてみてはどうだろうか。現代に生きる彼はどういう情報を集め、どのような事業を起こすのだろうか。

栄光なき天才たち 6 (ヤングジャンプコミックス)
作者:森田 信吾
出版社:集英社
発売日:1989-08
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  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

 小保方さんで有名になってしまった理研が戦前に科学者達の自由な楽園だったころの物語。事業家としての大河内正敏の悲劇。レビューはこちら

鼠―鈴木商店焼打ち事件 (文春文庫)
作者:城山 三郎
出版社:文藝春秋
発売日:2011-12-06
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 大正7年に鈴木商店の本社が米騒動で焼打される。本当に鈴木商店は米を買い占めていたのか?

大番頭金子直吉
作者:鍋島 高明
出版社:高知新聞社
発売日:2013-10
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土佐出身の天才商売人金子直吉の生い立ちを描いた高知新聞社からの本。 

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