世界で一番純粋な愛の物語『それでも、やさしい恋をする』

佐藤 茜2014年04月22日 印刷向け表示
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それでも、やさしい恋をする (H&C Comics/CRAFTシリーズ)
作者:ヨネダ コウ
出版社:大洋図書
発売日:2014-04-01
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  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
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ヨネダコウ先生といえば、ハズレのない作家のひとりです。
汚れきった心を洗濯したい、人を信頼したい、愛を確かめたい。
そんな人は迷わず買って損なしです。

同人業界で活躍した後、2007年に商業誌で連載開始、圧倒的なストーリーと演出力で瞬く間にファンを増やし、最初に出した単行本『どうしても触れたくない』が大ヒット。続いて出した単行本も2013年のAmazon年間ランキングBLコミック売上で1、2位を獲得するなど金字塔を打ち建てました。2014年のBLアワードでも1位と3位に作品がランクイン。電子書籍サイトでも、ロングセラーとして、売り上げランキングの常連です。

BLって何?という方はWikipediaをご参照ください。本当はやおいやら耽美やら区分けが複雑なんですが、今回BLに統一します。

BLって、でも市場規模的に超ニッチ業界の話でしょ?というご意見もあるでしょう。ところがどっこい、近年、その規模は拡大し、矢野経済研究所の調査では2012年には215億円になるだろうとの予想が出ていました(そのほか、350億円との見解もあります)。

ちなみに、防衛省がサイバー対策費として請求した額は212億。決して少なくない規模であることがおわかりいただけるのではないでしょうか。

なぜそこまで人はBLに駆り立てられるのでしょうか。男性同士ってことは、アナルセックスが好きなの?と、普段読まない方からすれば奇異に思うかもしれません。しかし実態はそうではなく、BLを読む人たちが求めるのは、「よりよい子孫を残す」という、生物的には当たり前ですが、ともすると将来を考えて一種の打算と切り離せない男女の恋愛と違い、「今、この人がいとおしい、だから欲しい」という真の愛がそこにあるから、というのもあるのではないでしょうか。

その、混じりけのない愛の頂点の一つが、ヨネダコウ先生の作品です。
人が、人を愛するということは、こんなにも純粋なのか、こんなにもいじらしいものなのか、と胸の震えで涙がこぼれてしまうシーンが沢山詰まっています。

今回紹介するのは、最初に出された伝説の単行本『どうしても触れたくない』のスピンオフ。商業誌ではなく、同人誌として発行された作品が主として、雑誌掲載の後日譚と描き下ろしの前日譚がまとめられた単行本です。(この同人誌、やはり話題となり異例のCD化までされたという。おそるべし・・・)

物語は2人の目線で描かれます。

出口晴海(でぐちはるみ)はゲイ。会社ではカムアウトしていませんが、一歩社外に出れば営業の合間に昼間からホテルにしけこむなど、爛れた生活を器用に立ち回っています。しかし、そんな彼が恋に落ちました。相手は小野田良(おのだりょう)。ゲイではないストレート。

なんとなく、いいやつだな、という穏やかな思いはいつしか恋心に変わり、日ごと膨らんでいきます。が、そこはゲイとストレート。はなから見込みはないとわかっている出口はどうにか踏みとどまろうとします。

「なんでそう簡単にノンケになんか惚れるんだよ!?」
「普通はどっかでブレーキかけんだろ・・・っ」

以前のあしらいの上手さはどこへやら、不器用に飲み込む言葉ばかりが増えていきます。

どうですか、いまどきこんなジレジレする話が男女であるんでしょうか。あったとしても中学生や高校生、頑張って大学生です。社会人になるともうこんな純愛モノなんて電車男ぐらいなもんです。とりあえず告白して駄目だったら次へ。下手をしたらキャッチ&即リリース。士農工商の身分が解かれた現代社会、男女の恋愛において「愛してるけどいえない」状態は、もう不倫や浮気ものぐらいしかフィールドが残っていないのではないでしょうか。

その後も、出口が一途に小野田を思い続ける描写が続きます。普段は、飄々とした態度をとっている出口(おごれよ、が口癖)ですが、小野田に恋愛的な対応をするとなると、これがもう、とーーーーーーーーーーんでもなく可愛いんですね。出口、私の頭の中の一番可愛いツンデレ。

結ばれた後の会話も「ああ、本当に相手が好きで、だからとっても不安だったんだな…」というのが伝わってきてもう抱きしめられずにはいられないです。君が好きだと叫びたくなります。この会話をしているときとか、これ以上いじらしさを演出するものがあるだろうか!と反語法をつかいたくなるほどです。

そして小野田も小野田でちょっとボケてて可愛らしい。意外にモテる、というキャラクター設定ですが、イケメンだとか、わかりやすいモテ要素ではなく、女性がされたら嬉しいだろうな、ということをさりげなくやってくれるような真摯な男らしさがあります。

作中、直接的にキャラクターが「つらい」「しんどい」などを言葉にすることはありません。しかし、読者はキャラクターの心が手に取るようにわかります。行間ならぬコマ割の隙間を読ませる巧みな演出が詰まった一作。近年稀に見る純粋な恋愛がどんなセリフ・シチュエーションで描かれているのか、ぜひ、単行本でお楽しみください。

どうしても触れたくない (ミリオンコミックス CRAFT SERIES 26)
作者:ヨネダ コウ
出版社:大洋図書
発売日:2008-09-01
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こちらが第一作目の単行本。何がすごいって、特に「ここが好き」などの説明とか少女マンガでよくある「…トクン」と書くなどの記号的表現を一切用いていないのに、ドアから入ってきたスーツ姿にときめいていることがわかることですよ…どうしたらこんなことがさらっとできるのでしょうか。

本作、2014年5月31日に映画が公開されるそうです。
あのときめくカット割りと雄弁な沈黙をどう表現するのか楽しみです。
 

NightS (ビーボーイコミックスデラックス) (ビーボーイコミックスDX)
作者:ヨネダ コウ
出版社:リブレ出版
発売日:2013-02-09
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社会人として格好よく生きている人が沢山出てくるので、こりゃーあんた同じ職場にいたら惚れてまうやろと思わざるを得ません。人をほめるときにどこをほめるかで、指摘した人の株がこんなに上がるとは思いもよりませんでした。格好よすぎます。
あと、ツナギのジッパーを下すのって楽しいんだろうなぁ、と思いました。

 

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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