ハイセンスな言葉の応酬に笑いが止まらない『メロポンだし!』

山田 義久2014年04月28日 印刷向け表示
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メロポンだし!(3) (モーニングKC)
作者:東村 アキコ
出版社:講談社
発売日:2014-04-23
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表紙には「メロポンだし!」という言葉の下に、シンプルにかわいい子供の顔が描かれている。これだけだと絵本のようにも見えるが、これはハイセンスな言葉が飛び交うギャグ漫画だ。ただし、子供から大人まで万人が楽しめる当たり障りのないものでなく、相当に読み手の世代を選ぶかもしれない。しかし、該当する世代の読者には、各ページに細かく差し込まれた痛烈なギャグが刺さりまくる、そんな作品である。

表紙の主人公メロポンは、グリーゼ581のイプシロン星人で、見た目は6、7歳くらいの子供。彼が住む星には映像系の娯楽がほとんどなく、電波を傍受して日本の番組を観て育ったらしい。日本のテレビ番組が大好きな彼は、日本で芸能人になることを目指すことを決意。そして「スカウトされるなら原宿しかない」ということで、原宿で便利屋を営む(推定20代後半のイケメン)の家に勝手に居候を始める。そこから話がスタートする。

(出所:第1話ハローメロポンだし!)

実はその悟の家庭も複雑で、彼は母子家庭で育ったのだが、母親は宇宙人を信望する怪しい新興宗教の教祖である。母親の宗教活動に反対する彼は、そういった宇宙人的なものを蛇蝎のごとく嫌う側の人間だった。

よって、悟は当初メロポンに対しても不信と反感の目で接していたが、吉田類の酒場放浪記に衝撃を受け、たかじんの番組(関テレ)で業界の裏側を学び、「今の日本の映画は全部クソ」と喝破する、地球人より地球人に詳しいメロポンに徐々にペースを握られて、、というか振り回されていく。

メロポンの快進撃は痛快だ。参加した新作映画の子役オーデションが出来レースだったことに怒り狂い、業界の内情視察ということで子役スクールに体験入学する。そのスクールの講師の目に止まり、高円寺のクソダサ地味劇団(注:メロポン談)を紹介される。その劇団の内紛に巻き込まれてしまうが、自分自身が座長に就き、新進気鋭の若手サイバー劇団(注:メロポン談)に生まれ変わらせるべく奮闘する。

(出所:第18話比重高すぎだし!)

新しい演目は「宇宙版ロミオとジュリエット」。メロポンの劇団改革は徹底していて、地味な演者の地味な衣服・演技を180度変えるに留まらず、宇宙の演出に迫力を持たせるため悟の母、つまりを本気で宇宙人を信じちゃってるリアル”ピー[放送禁止]”(注:メロポン談)を演者に引き込んだりして、スレッスレのところで勝負しようとする。
本番当日には、その劇団出身の有名俳優と人気ドラマのプロデューサーが観にくる。その絶好のチャンスに宝塚を彷彿させる全身全霊の演技と演出で立ち向かうメロポン。…その結果は是非本作を読んでほしい。

(出所:第24話若様トゥーバッドだし!)

この作品が特におもしろいのは、作中の会話に基本的な形式があることだ。それは、メロポンがボケて、悟が突っ込むという漫才形式である。メロポンの辛辣なボケに対して、必ず悟の適切なツッコミが入るので、笑いが増幅される。ストーリーが展開していく中、ずっとテンポのよい漫才を見させられている気分になる。連載で読むより、単行本で一気に読む方が楽しめるかもしれない。満員電車で読んだら相当笑いを堪える必要があるので要注意だ。

一方、上述のとおり、差し込まれた細かいギャグを自然に理解できるのは、限られた世代の読者だけかもしれない。具体的には、今20代後半から30代後半でテレビや映画をそれなりに観て育った世代(しかも若干西日本寄り)が該当するだろう。例えば、メロポンがシティハンターの曲を熱唱した後、その姿を撮影した動画に「アルファベットでMEROPONってライト当てて横に流すことできる?」と悟に聞いているが、これが何のことかピンと来る人はテレビでシティハンターが放送されていた頃、何度もOPを見たことがある人だけだろう。その他にも、橋爪功の「京都迷宮案内」、反町隆史の「Poison」、宇多田ヒカルの「In my room」、探偵ナイトスクープメロリンQ、北野武監督「座頭市」のタップダンス等など、その世代のテレビ番組・映画や音楽の名前が沢山登場するので、もし分からない場合は逐次ググりながら楽しんでほしい。

作者は東村アキコさん。『ひまわりっ』、『ママはテンパリスト』、『海月姫』、『かくかくしかじか』等、東村さんの一連の作品を読むと、基本的にご自身の実体験や趣味嗜好をそのまま作品に反映させていることがわかる。よって、ストーリーや描写が体験者しか語れないディテールで作り込まれており、強烈に作中に引き込まれる。そして東村さん自身尖った体験が多い方なので、作品自体も面白くなるわけだ。もちろんこの作品もそうで、ちなみに、メロポンも愛息ごっちゃんがモデルである。

一方、その実体験ベースの作風が今回読者を限定する結果になっているのだが、その当たり障りがなくない作風で勝負していることこそが、この作品をずば抜けて面白くしている秘密なのかもしれない。
それにしても東村さんの作品は、読めば読むほど東村さん自身に興味が湧く。最近『海月姫』の映画化が決定し、『東京タラレバ娘』という新連載も開始され、一線を走り続けておられる。今後もこの方から目を離せない。

※一話だけ試し読みできる。

ママはテンパリスト 1
作者:東村 アキコ
出版社:集英社
発売日:2008-10
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東村さんが愛息ごっちゃんを出産し、手さぐりで子育てに奮闘する実録育児漫画。子供を育てたくなるくらい本当に面白い。メロポンは、ごっちゃんそっくりの外見だし、発言もかなりごっちゃんテイストなことが分かる。

かくかくしかじか 1
作者:東村 アキコ
出版社:集英社
発売日:2012-07-25
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東村さんが漫画家を志し、美大に入り漫画家としてデビューしていく過程を描く実録漫画。堀江さんのレビュー参照。

海月姫(1) (講談社コミックスキス)
作者:東村 アキコ
出版社:講談社
発売日:2009-03-13
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オタク女子達が服飾ブランドを立ち上げ、それぞれの得意分野を活かしながら、ビジネスとして成長させていく話。東野さんもオタクだったらしく、その経験が存分に活かされている模様。今月映画化が決定した。芳野さんのレビュー参照。

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