凄惨なPapa told me、父と子、暴力と教育のタブーに土足で踏み込む問題作『ヒットガール』

永田 希2014年05月07日 印刷向け表示
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ヒット・ガール (ShoPro Books)
作者:マーク・ミラー
出版社:小学館集英社プロダクション
発売日:2014-04-23
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世の中は人々の相互不理解で満ち溢れていて、他人は自分を理解してくれないし、自分も他人の気持ちを理解することはできない。自分と他人との目的や利害がズレているときには、相手を排除してでも自分のやりたいことを貫く必要がある。――この暴力的な主張を「父」というポジションに与える考え方があります。

この考え方に対して、実際にハッキリと暴力的な立場を選択しきれない「弱い父」を描く作品として、榛野なな恵『Papa told me 』や、先日取り上げた萩尾望都『バルバラ異界 』があります。けっこう普遍的なテーマなので、他にもたくさんあるでしょう。

他方で、敢えてハッキリと暴力的な立場を取る父親を主題に描く作品というのもいるでしょう。萩尾望都『残酷な神が支配する 』は、「暴力的な父親」というものの恐ろしさとおぞましさを克明に描き出しました。おぞましく恐ろしい父親という点では町田ひらくのことを思い出したりもしたのですが、深入りは避けます。

さて前置きが長くなりましたが、『ヒットガール』です。映画化されて有名になった『キック・アス』の原作の続編で、「父親」の洗脳的な教育によってほぼ無敵の暗殺者となった少女ヒーロー「ヒットガール」を主人公にした作品。暴力的な主張という意味では『キック・アス』シリーズには、先述のどの作品よりも過酷な父親が登場します。

『ヒットガール』では、描かれている世界そのものが過酷です。世の中が過酷なのだから、自分もまた過酷にならなければ生き残れない。そういうハードボイルドな強迫観念に追い立てられるように、父親は「娘」を「教育」しました。

社会的に弱者だと思われがちな「少女」が、他者を圧倒し蹂躙する暗殺者になる。ここだけ取り上げれば、わかりやすいコントラストがあり、いわゆる「萌え」ということになるでしょう。しかし、その「変身」の過程に生身の「父親」という存在がいることの気持ち悪さに着目してみたいのです。

「娘」を誰にも負けない強い存在にするために、「父親」は自ら過酷な社会の一部を演じることになります。父親が社会の苛酷さをうまく演じればうまく演じるほど、「娘」は強くなる。映画版『キック・アス』でひときわインパクトのあるあの「娘を父親がピストルで撃つ」シーンを思い出してください。実弾で撃たれる痛みを覚えて、慣れること。その痛みに負けずに、立ち向かうという選択肢を娘に与えるということ。

娘に暴力を振るう。そのことによって娘を教育する。公にはおよそ許されない外道の所業と言ったら言いすぎでしょうか。『キック・アス』シリーズが複雑で答えの出ない深い味わいを持っているのは、正面には出てこないながら執拗に反復される「親子」のモチーフを通して「教育と暴力」というタブーに迫っているからかもしれません。そういう意味では、家族と暴力がテーマになっていた山本直樹『ありがとう 』にも近いとも言えるでしょう。

映画版『キック・アス』の原作を第一弾として、映画版の続編『キック・アス ジャスティスフォーエヴァー』の原作となるのがこの第二弾『ヒットガール』と第三弾『キック・アス2』。未邦訳ですが、シリーズ完結編として第四弾の『キック・アス3』が控えているようです。『ウォンテッド 』『シビル・ウォー 』『アルティメッツ 』『アルティメッツ 2 』など、最近のアメコミ重要作品を手掛けているマーク・ミラーから今後も目を離せません。
 

キック・アス (ShoPro Books)
作者:マーク・ミラー
出版社:小学館集英社プロダクション
発売日:2010-11-19
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ヒット・ガール (ShoPro Books)
作者:マーク・ミラー
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キック・アス2 (ShoPro Books)
作者:マーク・ミラー
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ウォンテッド (ShoPro Books)
作者:マーク・ミラー
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発売日:2013-06-26
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シビル・ウォー (MARVEL)
作者:マーク・ミラー
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アルティメッツ (ShoPro Books)
作者:マーク・ミラー
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アルティメッツ 2 (ShoPro Books)
作者:マーク・ミラー
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