知らなかった悩みを描き出す『Papa told me』

佐藤 茜2014年05月12日 印刷向け表示
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Papa told me (1) (ヤングユーコミックス (013))
作者:榛野 なな恵
出版社:集英社
発売日:1988-02
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本作、何巻から読んでも大丈夫、一話完結「サザエさん・ドラえもん」型マンガです。
が、子供向けとは一線を画し、話ごとに様々な悩みを描き出しています。

基本的には、父と娘の生活を追っているストーリーです。「Papa told me」というタイトルからすると父親が娘に教訓的に話しそうですが、あまり干渉していません。放任でない、のびのび。小学生の娘である主人公の知世(ちせ)ちゃんは大変賢く創造力が豊かで、彼女の言動を追っているだけでも楽しい。沢山ある素敵なエピソードのうち一つ挙げるなら、小学校受験の面談で母親が亡くなっていることに面接官が難色(というか当惑?)している様子を見ての発言。

お母さんはかぐやひめなんです
小さい頃お父さんに聞いたの
「本当にきれいなものは人間の力では
この地上にとどめておくことはできない」
「もっと高い通り所にしか住めないんだよ」って

だから
「本当にきれいな人」だったお母さんは月にかえるしかなかったの
お父さんにもとめることはできなかったんですって


うーん。小学校入学前の子にしか許されないメルヘン回答とはいえ、就職試験の時でもここまでの機知を即座に返せるだろうかと頭を抱えてしましました。(ちなみにこの後、更にロマンチックな文章で結びます)

が、これだけだと、「すてきな父と娘のストーリー」だけで終わってしまう。この物語の厚みは、そこに第三者を加えることで、およそ人が悩むことがすべて、しかも普通は見落としているような形まで描いていることだと思います。

第三者とは、たとえば、結婚を勧める母親の望む姿になれず悩むキャリアウーマン、マッチョな思考を持つ家族に辟易している息子、離婚した父親と定期的に会う娘、片思い、etc…
こうして文章にしてみるとありふれすぎてテンプレートのようです。が、実際はその状況になった人以外は実際は悩みの本質的なところは分かってないのでは?とでも言わんばかりに、傷の形をじっくりと解き明かします。

たとえば、エキセントリックな行動で名を馳せている女性の小説家・丸山先生が出てきた回について。新人の評論家がまったく中身のない、ただのいちゃもんつけのような評論をぶつけてくる。これに対して彼女はいちゃもんつけ書評を掲載した編集部に対し「今後一切おたくでは書きません」と連絡。あわてる出版社。

このままじゃ終わらせないわよ
言いたいことはいっぱいあるんだから
あの売文家にも
会社にも世の中にも

ぜひ反論を掲載させて欲しいって
申し出が山のように来てるの
どこにしようかな

余裕綽々。ケンカもなれたもののよう。
ただ、その強気に見える態度の裏には別の顔をのぞかせます。

私はね こわいの
あらゆるものが
仕事をすることも
ここでこうしていることも

―――――-
中でも一番恐ろしいのは
そういう自分を
さらけ出してしまうことよ

だから虚勢を張ってるの
弱い鳥が飾り羽をいっぱいにふくらませて
敵を威嚇するみたいに

攻撃されたら耳をふさいで
相手よりもっと大声で叫ぶの

そうしないと指の隙間から一番聞きたくない言葉が
入りこんで来そうで

「おまえのことはよくわかっている
 おまえなんかもういらない」

強気な態度はあくまで仮の姿。攻撃されたとしても、それは仮の姿のことであり、自分の本質が否定されたわけではない。しかし、もし本当の自分が知られてしまったら、そしてそれを攻撃されたら、守るすべがない。だから、今日も、彼女は強気な態度をとっている―――――。

なんとなく、身の回りの強気な人を思い浮かべてしまいました。彼らがこのような葛藤を抱えているのだとしたら、私はそれを慮ったことがあっただろうか、と胸に手を当ててみますが、その境地にまで達したことは一度もなかったように思います。

物語の中で悩む人には悩みの元となる人(加害者といってもいいかもしれない)がいるのですが、多くの場合、彼らは自らが人を傷つけているとは思っていません。ページをめくっている間は彼らのことを「なんてひどいやつなんだ!」と思います。しかし、ふと、本を閉じたとき、私も彼らのように無意識に人を傷つけているのかもしれないと、ひやりとした思いがこみあがってきます。

作中、スーパーマンのように誰かが現れて悩みの基を退治するようなことはありません。悩みを解決するのは、いつだって当事者。悩みを解決できるような強さを持つために、そして、むやみに人を傷つけないために、まずは悩みを理解をする。そんなときに役立つ一冊なんじゃないかなー、と思いながら、ふいに手にとって読み返したくなる一作です。

第35回(平成元年度)小学館漫画賞少女向け部門受賞。

お父さんは心配症 (1) (りぼんマスコットコミックス (351))
作者:岡田 あーみん
出版社:集英社
発売日:1985-11
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 こちらはお父さんが娘可愛さにスーパー干渉してくる話。ギャグコメディなんですが、父親というのは本当はこのくらい心配してしまうのかなぁ、とも思います。
 

愛すべき娘たち (Jets comics)
作者:よしなが ふみ
出版社:白泉社
発売日:2003-12-19
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 こちらは母と娘のお話が入っています。母の幸せを喜べない娘の心境をえぐる真意は思いもよらないものがありました。

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