「世にも奇妙な物語」に採用してほしい短編集『いちばんいいスカート』

佐藤 茜2014年05月27日 印刷向け表示
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いちばんいいスカート (フラワーコミックスアルファ)
作者:谷 和野
出版社:小学館
発売日:2014-03-10
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誰から聞いたか忘れてしまったが、1話完結の短編モノを読む時は「世にも奇妙な物語」でやれるかどうか、というのを一種の指標にしている。

もちろん、この考え方が絶対と思っているわけではないが、テレビドラマで実写化することを念頭においておくと、映画より予算も少ないのでCGをふんだんにつかったファンタジーで逃げられないし、舞台セットの美しさに頼ることもできない。そのため、物語の構成や、演出、設定をいかに作りこむか、といった、フィクションを作る上でもっとも初歩的なところの巧緻が浮き彫りになるからだ。加えて、今まで放映された作品が優れているため、中途半端なものでは太刀打ちできないというのもある。そして、ちょっと「奇妙」なものというのは、王道以外の道を模索しているかを見るには必要な要素だ。

それでいうとまさに、今回紹介する短編集『いちばんいいスカート』は、全ての話が『世にも奇妙な物語』にぴったりだった。まず、表題作を見てみよう。

幼少の頃、デザイナーの母から、女の子のスカートが膨らんでいる理由を聞いた僕。その秘密に魅せられて彼はこんなことを言う。

『いちばんいいスカート』谷 和野 フラワーコミックスアルファより

もちろん付き合っていない状態である。これだけ読むとだたのちょいエロ風味のマンガか、と思われそうだが、それはまったく検討違いだ。最初からストーリーを読むと、このセリフには何の疑問も抱かないどころか、次のページでは心がしんみりし、残り2ページで『いちばんいいスカート』の持つ意味が解き明かされる。わずか12ページの出来事だ。あらすじを書き出してもまったく意味がわからない。あきらかに奇妙。でも読むと成立している。この不思議な読後感は、まさに『世にも奇妙な物語』。

ちょっと話がずれるが、幼少時、マンガ雑誌を読んでいて不思議に思ったのは、たまにすごく拙い作品が掲載されていたことだ。今思うとあれは、マンガ新人賞の入選作だったのだろう。当たり前だが、新人の作品は、物語の作り方に慣れていないので、読みにくいし、伝わりにくい。が、この作者・谷 和野(たに かずの)は違った。入選作『よいお菓子 わるいお菓子』は、若干21歳の時に書きあがった作品。

主人公は長い髪の少女・緋沙子。この母が恐ろしいのが、下のコマ1つでお分かりいただけると思う。ちなみに風邪で寝込んでいるときのセリフだ。

『いいお菓子 わるいお菓子』谷 和野 フラワーコミックスアルファより

緋沙子は母からの絡みつくような愛を疎んじていたが、ある日そうではなかったことに気がつく。長い髪を保っていたのは・・・・。一見二律背反するような内容を見事に描いており、新人というにははるかに技量が突出していた。谷 和野は原石ではなかった。最初から光っていた。

初回から4Cダイヤモンドを生み出した新人は、その後もコンスタントに短編を執筆。それらがまとまったのが、今回の短編集『いちばんいいスカート』だ。最高のダイヤが集まったのだ。もちろん素敵な輝きを放つに決まっている。

  • 『みづくろい』
    買ってきてくれたセーター。すてきに見えたけれど毛がちくちくして、でも買ってきてくれたものだし、嬉しそうな顔を曇らせたくなくてずっと着ていた。モノの価値について描かれた作品。読後に暖かい気持ちに。
     
  • 『同居もん』
    一人暮らしの女性がある日姿の見えない同居人ができて、という話。靴下だけはかせて床をすべる様はとてもかわいい(何を言っているかよくわからないと思いますが、読めばわかる)
     
  • 『おこったちゃん』
    主人公はコタツ。繰り返す。主人公はコタツ。なのに成り立つ物語。これも短い。16P。
     
  • 『空に落ちる』
    天国に行ける人間は、本当に良いことをしたのか?「自分で生きる分は自分で殺さないといけない」
     
  • 『みんなの大きなかわいい子』
    母親は大きな木。繰り返す。母親は大きな木。なのに成り立つ。もうここまでくるとなんでやねんとつっこまなくなる。
多分これからもっと広く読まれる作品が出てくるだろう。今のうちにこの短編集を読んでおけば、きっと5年後くらいに「ああ、あの作者ね。最初の短編集からすごくてさー」という話をドヤ顔しながらできるかと思う。それこそ、いつか「昨日の『世にも奇妙な物語』のあの話、実はマンガが原作で…」ということもあるかもしれない。

青田買いとして、ぜひ。

※やはり関係各所も注目しているようで朝日新聞ダヴィンチコミックナタリーでも取り上げられている。最初にレビューを書けなかったのがとてもとても悔しい。。。
 

小僧の寿し (マーガレットコミックス)
作者:勝田 文
出版社:集英社
発売日:2014-02-25
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短編集といえばこちらも。結婚を取りやめてご祝儀で食べるお寿司から始まる。どうしたらこんな設定を思いつくのだろうか。
 

ケーキを買いに (Fx COMICS)
作者:河内 遙
出版社:太田出版
発売日:2009-05-14
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漫画界のアンファンテリブル(恐るべき子ども)と呼ばれた作者。変態が沢山でてきます。でも変態ってべつに普通のことよね、と納得してしまう。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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