『GANTZ』の奥浩哉 最新作!!『いぬやしき』

角野 信彦2014年06月03日 印刷向け表示
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いぬやしき最新刊発売です。

いぬやしき(4) (イブニングKC)
作者:奥 浩哉
出版社:講談社
発売日:2015-07-23
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黒澤明『生きる』と『いぬやしき』

黒澤明が監督して1952年に公開された『生きる』という映画をごぞんじだろうか。市役所の職員が、ガンを告知され、死を前にして自分の人生を意味のあるものにしようとする姿を描いた、黒澤明の代表作のひとつである。

今回紹介する『いぬやしき』の主人公、犬屋敷壱郎も、『生きる』の主人公、渡邊勘治と同様、みばえのしない初老の男として描かれている。『いぬやしき』の物語の導入部分は、『生きる』へのオマージュともいえる描写であふれている。犬屋敷もガンの告知を受けて公園にむかう場面があるが、『生きる』と『いぬやしき』を見くらべてもらいたい。

黒澤明『生きる』予告編 2:00あたりから「ゴンドラの唄」2:40からブランコのシーン

            犬屋敷の公園で「ゴンドラの唄」のシーン

『生きる』の渡邊は市民から要望のあった公園を完成させることで自分の人生を意味のあるものとしようとする。映画のなかで「あなたの無駄に使った人生をこれから取り返しにいこう」というセリフがあったと思うが、『いぬやしき』での主人公、犬屋敷壱郎はサイボーグ化されることで「人生を取り返す」。ここからが奥浩哉の真骨頂である。

生きがいを得た犬屋敷壱郎ともう一人のサイボーグ獅子神皓(ししがみひろ)

              犬屋敷 = ターミネーター?

犬屋敷は墜落してきた、なぞの物体との事故に巻き込まれ、何者かに肉体を兵器ユニットに換装されサイボーグ化される。彼はホームレス狩りをしている少年たちを見つけて、そのホームレスを守ろうとしたところ、襲われて逆に攻撃され気を失うが、兵器ユニットが自動的に作動してホームレスを守ることに成功する。こうして犬屋敷は強烈に生きている実感を得ることになる。

「道徳的な」に対して、サイボーグ化されて「道徳的な正義」を実行する力を持つことになった犬屋敷は、生きがいとして、これから様々な「道徳的な」と対決していくことになるのであろう。一方で、1巻の終わりにもう一人、同じ事故に巻き込まれてサイボーグ化した獅子神というキャラクターが出てくる。彼自身の口からは

通り魔 この街の近辺でもう8人くらい死んでる・・・・・・
犯人は未だつかまってないし・・・
目撃情報もないって

と語られる。獅子神が関係しているのか、それとも今度は彼が「道徳的な」に対峙することになるのか。高校生の彼が「道徳的な」として主人公の犬屋敷と対峙していくことになるのか、かなりドキドキする展開だ。

奥浩哉というマンガ家

奥浩哉というマンガ家のすごさは、絵だけで読者に状況を完全に理解させるその表現力だ。『いぬやしき』は、イブニングの6月10日号で9話まで進んでいるが、状況を説明するためのモノローグやナレーションが一切ない。これは、SFというジャンルではきわめてまれなことだ。犬屋敷がサイボーグ化されるくだりも、一切のナレーションなしに一枚の細密な絵だけで完全に表現され、物語の中に意識が持っていかれる。

奥浩哉は掲載誌のイブニング新人賞の審査員としてインタビューを受けている。「応募作品を審査する時に、どのようなポイントを重点的にみますか?」という質問にこう答えている。

最初はまず、読みやすさですね。導入部の読みやすさ、構成でスイスイ読めて、これはどんな漫画で・・・みたいなのがちゃんとスッと入っていけるかどうか。最初から進まないのは読む気がしないですよね。

たとえば、冒頭から文字がとても多い説明から入って「この世界はこうなっている!」と言われても「うーん、入りたくないなあ」って思ってしまう。なので導入が上手い作品は好印象です。

自身で審査のポイントと言っているだけあって、この『いぬやしき』の導入部の読みさすさは尋常ではない。読みやすさというよりは、どちらかというと中毒性といったほうがいいかもしれない。つぎからつぎへと気になる展開が連続していて、読みつづけずにはいられなくなってしまう。そうして物語に没入してしまう。

「道徳的な」、それを生み出す空気に満ちている社会、奥浩哉が『いぬやしき』で描こうとする世界が、第一巻にして、すでにいきいきと動き出している。サイボーグ化した二人がどうやってこの世界に対峙していくかが本当に楽しみだ。

それにしても1話の強烈なヒキはすごい。
こちらで無料で読めるので、早めに追いついておくことをオススメする。

『いぬやしき』第1話 人生いろいろ
 www.moae.jp/comic/inuyashiki/1/1 

定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー
作者:フランソワ トリュフォー
出版社:晶文社
発売日:1990-12-01
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1日1本は映画をみるという奥浩哉が、インタビューで影響を受けたと語っている本。フランソワ・トリフォーが語るヒッチコックの映画に関するすべて。

いぬやしき(1) (イブニングKC)
作者:奥 浩哉
出版社:講談社
発売日:2014-05-23
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いぬやしき(4) (イブニングKC)
作者:奥 浩哉
出版社:講談社
発売日:2015-07-23
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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