『イレブンソウル』マンガソムリエが今最も映像化して欲しい隠れた傑作

兎来 栄寿2014年06月10日 印刷向け表示
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イレブンソウル 15 (ブレイドコミックス)
作者:戸土野 正内郎
出版社:マッグガーデン
発売日:2013-06-10
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さて、今日は何の日でしょうか。

時の記念日? ミルクキャラメルの日? 歩行者天国の日?
勿論それらも全て正解です。が、私の中では『イレブンソウル』最終巻発売一周年記念日に他なりません!

白状しましょう。私はそれなりに人よりも多くの漫画に触れており、ジャンルも分け隔てなくアンテナを張っているつもりです。が、ブレイドで連載されていたこの作品は、後半までスルーしてしまっていました。ニワカファンです、ごめんなさい!

3巻から加速する面白さにのめり込み、7巻の山場では打ち震えました。後半は一話一話が密度の濃い怒涛の展開。心焦がれ、続きはまだかまだかと狂おしく待ち続けられた時間は幸せでした。近年では、他に記憶にありません。あまりに続きが気になって、早く夜が明けないかと悶え、朝に大型書店までダッシュしてしまった作品というのは。 

無冠の傑作

「作品の中身は、商売の成否を決める一つの要素に過ぎないです。作品の描き手には厳しいですが、しっかりと覚えておきたいことです」

過日、私がレビューした『愛人【AI-REN】』の作者・田中ユタカ先生は、「天空の城ラピュタ」がジブリ映画の興行成績最下位であったという記事を例示しながら、昨日こんな呟きを行っていました。「機動戦士ガンダム」も放映当時は視聴率が低迷し打ち切られてしまったように、どんなに良い物を創ったとしても必ず即商業的に成功するとは限りません。

そして、今回紹介する『イレブンソウル』は正にその好(?)例。個人的には4桁冊数を読んだ2013年の中でもベスト5に入れるくらいに面白かった作品です。が、なぜか世間のマンガアワードなどでこの作品名を聞いたことは皆無。

こんなに凄い作品が埋もれたままでは、漫画界に留まらず創作界において大きな損失なので、強い危機感と使命感を持って筆を執っています。 

サッカー漫画……ではありません。が

もうすぐサッカーワールドカップ開幕ですね。寝不足が実に不安ですが、とても楽しみにしています。さて、この『イレブンソウル』というタイトルだけ見ると、11人で闘うサッカー漫画? と思うかもしれません。ただ、残念ながらそうではなく21世紀中盤を舞台にしたSFバトルアクション青春群像劇です。

しかしながら、ある意味でサッカーとも共通点がない訳ではないのです。それは、まさしくサムライの心、志を描いているという一点。

サッカーの日本代表は、サムライブルーと呼ばれる「現代の侍」。そして『イレブンソウル』で描かれるのは、「近未来の侍」。やることは違えど、その根底に流れるソウルは同じ。イレブンは漢字にすれば十と一で「士」となる点からも、サッカー選手をサムライと呼ぶのには理が感じられます。

この作品では、常に死と隣り合わせという状況の中で、「心とは何か」、「愛とは何か」といった哲学的な問い掛けが度々なされ、その度に名言が頻出します。
その流れの中で、「幸せとは何か」という問いに対する、ある人物の答。

士(もののふ)とは…
「十」の経験を「一」に帰結させる人種だと……
(中略)
一つのことを成し遂げるその瞬間…
そこに心の全てを傾けて生きる…
それが「志」ある生き方なんだと……
そんな生き方ができるなら……
俺は「幸せ」だな……

この台詞を放った乃木玄之丞という男、あまりに格好良過ぎてシビれ憧れ尽くします。彼の「生きるとは何か」という問への答には思わず唸らされましたので、是非読んで確かめて頂きたいです。

ワールドカップ前にサムライとしての心構えを再認識させてくれるこの作品を読むことで、熱く闘う男たちの姿により一層感銘を受けることができるようになるかもしれません。 

イレブンソウルの世界の魅力

2051年、遺伝子技術の発達によって不老不死に肉薄した人類。しかし、バイオハザードが発生。実験サンプルは自然界から遺伝子を取り込み急激に進化。「シャヘル」と呼ばれるようになったそれは、2年で南北米大陸を制圧。歴史上に初めて現れた自らを超える種に対抗すべく、人類は外骨格兵装を纏えるよう身体強化と訓練を施された「侍」と呼ばれる少年少女の部隊を結成。未曾有の進化を遂げる正体不明の敵を相手に対峙して行きます。

今作の主人公・塚原武道、通称たけちーは、およそ軍人には向かない穏やかな性格で、入隊前の適正検査でもEランク。特Aランクの秀才ヒロインに罵倒されながら、それでもある「志」を持って必死に地獄の訓練に喰らいついて行きます。

今作の魅力は幾つもありますが、まず上で挙げた乃木も含めキャラクターが実に魅力的。普段は軽口を叩き合う彼らですが、それぞれが抱える様々な凄絶な過去や切なる想い、そして迎える運命に胸が熱くなります。常にいつ誰が命を落とすか解らない極限状況の中で、重厚ながら人の温かみを感じるドラマに思わず涙してしまう箇所も。

「あいつらにもつまらない大人になる権利はあった」と語る渋い上官の言葉に、何とも言えない想いを噛み締めます。そう、このマンガでは美男美女だけでなくおっさん達も実にイイ味を出しています。おっさんが格好イイ作品は良い作品です。

強化外骨格による、シャヘルとの戦闘シーンの迫力も圧巻。中でも、前半の山場でもある7巻において、ある理由から自ら窮地に飛び込んだたけちーが地平線を埋め尽くすおびただしい数のシャヘルに対して単騎駆けを敢行する場面の盛り上がりは特筆すべき物。シチュエーション的にも、そこで飛び出す数ページにわたる名言も、あまりに熱すぎます。これに燃えずに何に燃えろというのか! 必見です。できれば序盤では切らずに、ここまでは読んでみて欲しいと思います。

又、最終15巻収録の一切セリフなしのサイレントで描かれる、サブタイトル「真空(オトタチ)」は、SFアクションマンガ史に強烈な一撃を斬り刻みつけたと言っても過言ではありません。『スラムダンク』の山王戦を髣髴とさせる、この圧倒的なクライマックスが語り継がれないなんて、そんなオカルト有り得ません! 

進撃、シドニア、オルタ、ガンパレが好きな人はイレブンソウルも読むべし!

ある時「『ガンパレード・マーチ』や『マヴラブ オルタネイティヴ』のような漫画がある」と聞いたのが、その両作品が死ぬほど好きな私と『イレブンソウル』の出会いの始まりでした。「マヴラブオルタネイティヴ」は、あの『進撃の巨人』の諫山創先生自身が「物凄く影響を受けた」と公言している作品。そして、「ガンパレードマーチ」はその「マヴラブオルタネイティヴ」が大きく影響を与えているのではないかと言われている作品です。あるいは更にそれらの大本である往年の名作SF『宇宙の戦士』的な物語です。

又、現在アニメも放映中の『シドニアの騎士』の原作である弐瓶勉先生も、諫山創先生が敬愛し影響を受けている一人であり、『シドニア』もまた類型的な世界観を持つ作品です。それらの作品が好きな方には、特に強くお薦めしたいです。

『マヴラブオルタネイティヴトータル・イクリプス』や『シドニアの騎士』のBD/DVDが5000枚以上売れる今の時代、『イレブンソウル』も然るべきクオリティでアニメ化すれば、必ず世に受け入れられると確信しています。強化外骨格での迫力ある戦闘シーンを動画で見られる日が来ることを願って止みません! 

SF好き・ロボットアクション好きにも、そうでない人にも

絵に関しては、序盤クセがあると感じられるかもしれません。ただ、物語と共に後半になるにつれて顕著にスタイリッシュに進化して行きますので、ある意味そこも見所と捉えられます。逆に、読み終えるとこの作画を全て一人で行っているという事実に驚かされます。

かなり濃厚なSF設定や兵器描写はニッチさを醸し出しているかもしれませんが、この作品が持つ心を揺さぶる人間ドラマは多くの人に届くはずです。何より、純粋に続きを渇望するほど面白いのです!

これから『イレブンソウル』を読む人が羨ましい限りです。一気に全巻揃えて、続きが気になって狂おしい夜を過ごすことがないのですから。そして、たとえ夜中であっても、Kindleで全部買えてしまうのですから!

どうぞ、心行くまで熱き士魂の活劇に酔い痴れて下さい。
 

イレブンソウル 1 (BLADE COMICS)
作者:戸土野 正内郎
出版社:マッグガーデン
発売日:2006-08-10
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