ジョブズに影響を与えた日本人がいる。
『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』

小沢 高広2014年06月22日 印刷向け表示
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アップルのスティーブ・ジョブズが新製品発表会で、おなじみの黒のタートルネックではなく、タキシードを着たことがある。1999年10月5日。ソニーの共同創業者・盛田昭夫氏の亡くなった直後のことだ。大きなスクリーンに映し出される在りし日の盛田氏。ジョブズは、その写真を前に盛田氏への敬意を語り、自らの夢を誓った。

そんなジョブズがもうひとり多大な影響を受けたとされる日本人がいる。
禅僧・乙川弘文。

曹洞宗の僧侶で、ジョブズが高校生のときに出会い、ジョブズの作った会社・NeXT社の宗教顧問を務めた人物だ。この漫画はその弘文とジョブズの交流を描いた作品である。

ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ
作者:ケイレブ・メルビー
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2012-02-24
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物語は1985年9月、ジョブズが社内抗争でアップル社を追放されるところから始まる。そのニュースを「ふーむ」と思案げな表情でつぶやく弘文。翌年の夏、カルフォルニア州カーメルヴァレーにある禅センターで弘文はジョブズに「経行」という、歩く座禅をすすめる。ひたすら石のまわりを歩くジョブズ。しかし歩けば、止まれと言われ、止まれば、なぜ止まったかを問われる。ジョブズは納得がいかない。しかし呼吸を整え、ひたすら石のまわりを円形を描くように歩く。

そしてページをめくると、物語は2011年、アップル社の新社屋のデザインをジョブズが発表するシーンへと飛ぶ。

円形です

そう、アップル社の新社屋(2016年完成予定)は、まさに弘文が歩くように言った「円」の形をしているのだ。

実際には、この新社屋をジョブズは「宇宙船のようだ」と語っており、禅のことは口にしていない。設計を手がけた建築家のノーマン・フォスターも、スタンフォード大学やロンドンの街並にインスピレーションをえたとしたが、コンセプトに禅はでてこない。しかしこの作品では、時制を超えた2つのシーンをつなげることで「新社屋のデザインは禅の影響である」という仮説を打ち立てる。

他にも、大胆な時制の飛ばし方により、Macintoshのラインナップの見直し、iPodのデザインなど様々な場面で禅の影響を見い出していく。

時制を飛ばすというのは、基本的には読み手には負荷をかける表現である。多用すると混乱を招き、読み味を損なうこともある。しかしこの作品は、あちらこちらに自由に時制を飛ばす。でも読みにくさはない。なぜか。

カギは、この作品がカラーという点にある。カラーといっても、いわゆるアメコミのようなフルカラーとは違う。モノクロをベースにプラス1色という色使い。ただこの1色がキモだ。1985年なら青。2011年は抹茶色。1997年はグレーといったように時制によって、色分けがされている。なので、たった数コマだけいったん10年前に戻り、その直後、5年前に戻るなんてめんどくさい表現もわかりやすく表現できる。

あとがきで原作者のケイレブ・メルビーはこう語る。

この物語は一般的な伝記というより「イメージを再構築した物語」ということができるかもしれません。

そうすることで、この作品は、ジョブズ自身も気づいていないであろうジョブズの深層を描くことに挑んだように思える。 

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