『センチメントの季節』の榎本ナリコが描く、青春ラブコメ×タイムパラドックスSFの傑作『時間の歩き方』

永田 希2014年06月23日 印刷向け表示
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時間の歩き方 1巻: 1
作者:榎本ナリコ
出版社:朝日新聞出版
発売日:
  • Amazon Kindle

性をテーマにした 『センチメントの季節』で一世を風靡した榎本ナリコが、卓越したストーリーテリングと人間の深い描写をそのままに、「青春ラブコメ×タイムパラドックス」を描いた、今回ご紹介する『時間の歩き方』はそのような作品です。短編がいくつか切り出せそうなアイデアを織り上げて全4巻の傑作にまとめています。

センチメントの季節(1) (ビッグコミックス)
作者:榎本ナリコ
出版社:小学館
発売日:1998-04-30
  • Amazon Kindle

ちょっと特殊な能力をもつ主人公の女子中学生「杉田果子(スギタカコ)」は、憧れの先輩を事故で喪ってしまいます。「ちょっと特殊な能力」というのは、ときどき開けた扉が時間を飛び越えてしまうということ。過去に戻って先輩の死を「なかったこと」にしようとするのですが、運命が決めた「死」をくつがえしたために「通常の時間」に戻れなくなってしまいます。

強制的に時間旅行に出かける羽目になった果子と、彼女に力を貸した未来から来た時間旅行者の井村遇太(タイムラグのアナグラム?)の2人は、果子を「先輩が生きている通常の時間」に戻すための冒険を繰り広げる…というのがあらすじ。これはこれでSF好きには楽しい設定だと思うのですが、多くの読者にとってこの設定だけ読んでもしゃらくさいだけでしょう。榎本ナリコの本領発揮は何と言っても「ラブコメ描写」、そして「本来は抗い得ないものとの苦闘」の描写です。

愛する人の死を受け入れたくないという気持ちから「時間に立ち向かう」という現実ではありえない戦いを描くことになっているのです。短篇集えいえんのすむところでは学生時代の恋人への想いを「幽霊」というモチーフで描いていましたが、同じテーマを、タイムトラベルという壮大な設定の上で展開しなおしたとも言えると思います。

とうてい勝てないような強大な敵、とうてい叶わないような困難な希望、そういうものの扱いに悩み、心が折れそうになっている人ならば、「時間」という圧倒的に強力な「敵」に立ち向かい、挫折を続けながらも何度も立ち上がる主人公たちの困難な希望は、他に代えがたい励みになるでしょう。僕は何度も涙をメガネのレンズに溜めながら、「がんばれ!がんばれ!」と思って本作のページをめくりました。あ、本を読みながら泣くとメガネのレンズに涙が溜まりませんか?

この記事ではKindleにリンクしていますが、名和田耕平デザイン事務所が手がけた単行本の、金箔の箔押しを効果的に使った装幀も非常に美しく、手許においておきたくなる4冊です。

時間の歩き方 2巻: 2
作者:榎本ナリコ
出版社:朝日新聞出版
発売日:
  • Amazon Kindle
時間の歩き方 3巻: 3
作者:榎本ナリコ
出版社:朝日新聞出版
発売日:
  • Amazon Kindle
時間の歩き方 4巻
作者:榎本ナリコ
出版社:朝日新聞出版
発売日:2014-02-28
  • Amazon Kindle
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