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つなげ!つなげ!『紙つなげ!』たすきを渡し、思いよ届け!

麻木 久仁子2014年7月3日
紙つなげ!  彼らが本の紙を造っている

作者:佐々 涼子
出版社:早川書房
発売日:2014-06-20
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東日本大震災がもたらした甚大な被害は、この国の物作りの基盤を揺るがした。東日本が支えていたサプライチェーンが混乱、自動車・半導体をはじめとして、さまざまな製造現場では操業停止という事態も起こった。「納豆の容器が無い」「ペットボトルの蓋が無い」など、身近な品々にも影響は及んだ。「あのときは部品調達にひどく苦労した」という記憶をお持ちの方も多いだろう。

「紙」もまた、そうだった。出版関係者たちは紙不足の危機的状況の中で、四苦八苦していたのである。

今、大変ですよ。社内で紙がないって大騒ぎしてます。石巻に大きな製紙工場があってね。そこが壊滅状態らしいの。うちの雑誌もページを減らさないといけないかも。佐々さんは東北で紙が作られているって知ってましたか?

日本製紙石巻工場。世界有数の競争力を持つ日本製紙の基幹工場である。総生産量は年に100万トン。日本製紙の洋紙国内販売量の実に四分の一を供給していた。特に国内の出版用紙については約4割をも担っていたのだ。

その工場が壊滅した・・・。

本書『紙つなげ!』は、この日本製紙石巻工場が絶望の淵から立ち上がり、わずか半年で主要マシンを動かし、1年半で「復興宣言」するまでの闘いの物語である。

津波の高さは推定7.7メートル。貨物引き込み線のレールをぐにゃりと曲げ、貨物用ディーゼル機関車をなぎ倒し、工場の壁やシャッターを破って建屋に突入した。避難しようとしていた車や近隣の家屋も、人々の悲鳴やクラクションの音とともになだれ込んだのである。

復興には膨大な金額がかかるだろう。折から紙市場は、電子化や少子化で縮小傾向にある。果たして日本製紙は石巻工場を再生させるだろうか。これを機に閉鎖するのではないだろうか。

そんな不安を払拭したのは社長の言葉だった。
「これから日本製紙が全力をあげて石巻工場を立て直す!」
「金の心配はするな。銀行と話をつけてきた」

復興への強い意志と巨額の資金投入の覚悟。まさに従業員たちが「聞きたいこと」を、社長は力強く表明したのである。

現場は動き始めた。目標は半年。それ以上顧客を待たせない。半年で主力マシンを動かす!!!

停電が続く中、投光器とヘッドライトをたよりに瓦礫や泥を掻き出す。工場内には重機を入れられない。人海戦術、手作業だった。スコップで泥をすくい、リヤカーや一輪車で運び出す。パイプの入り組んだところは、なんとスプーンで泥を掻くのである。狭い構内にひしめきあって息をつめて掻き続ける。無数の蠅が湧くなかを、掻いて掻いて掻き続ける。

困難を極めたのが遺体の回収作業だ。へたに動かすと体から皮膚や肉がはがれ落ちてしまうのだ。遺体をできるかぎり損傷しないように、毛布でそっと包み、ゆっくりと持ち上げる。構内から発見された遺体は41体。最後に見つかったのは中学生の女の子だったという。

作業をしていた者は、ほとんどが自分も子を持つ父親たちだ。
彼らは涙まじりのため息をもらすと、あとはもう言葉が出なかった。
〈今までひとりぼっちでこんなところにいたんだな。・・・もうすぐ家に帰れるぞ〉

マシンを動かすには、まず、ボイラーとタービンの復旧だ。そのためには電気を引いてこなくてはならない。だが特別高圧ケーブルが入手困難で調達出来ない。やはり半年は無理か。が、工場長はぶれない。

絶対ないと言えるか?ほかの可能性を探ったか?ないなら廃業した工場からひっぺがしてこい!

次なる課題は塩水に浸かった7000ものモーターだ。新品を発注したのでは何年かかるかわからない。だがかれらは「ある驚くべき応急処置」でこれを乗り越える。こうしてまず電気課が工程通りに仕上げてきた。まさか間に合うとは!工場内は色めき立った。電気課がこんなにがんばったのに、自分のところでくじけてなるものか!つづいて原動課がこれも工程表通りにボイラーを立ち上げてくる!。

これは駅伝だと思いました。いったんたすきを預けられた課は、どんなにくたくたでも、困難でも、次の走者にたすきを渡さなければならない。

従業員たちも皆、被災者である。家族や友を失い、家を失い、避難生活を強いられながら困難に立ち向かっている。こんな力がいったいどこから湧いてくるのだろうか。
受けたたすきを次へ繋ぎたいという気持ちは、人をこんなにまで強くするのか。

ボイラーが動いたあとも、次々に難題が降りかかる。チップを煮込んで液状にし、パルプを抽出する「蒸解釜」の中身がガチガチに固まってしまい、どうすることも出来なくなっていた。920トンの塊である。釜の中に入って掘削すれば早いが、硫化水素が発生したり、踏み抜いて釜の底に沈む危険がある。どちらも死の危険だ。

だが「たすき」を受けた担当者の胸ははやる。やらせてほしいと何度も懇願するのを「絶対にだめだ。絶対にけがをさせるな。」と、安全第一を強く指示したのは「ケーブルをひっぺがしてこい」の工場長だった。

こうしてとてつもなく濃密な半年がすぎて、ついに巨大な製紙マシンが再びうなりをたてて動き始めたとき、読者も心の中で快哉を叫ぶだろう。

石巻工場の苦闘が続く中、協力の手も差し伸べられた。出荷が差し迫っている出版社向けの紙について、日頃しのぎをけずるライバル他社が「困ったときはお互い様」と供給を肩代わりしてくれたのだ。とくに王子製紙は「どんなことをしても、最優先で日本製紙さんの分を作ります」と決断してくれたという。

ひたすら「紙」を待つ出版社も応援を惜しまなかった。集英社が被災地に送った『ONE PIRCE』のカバーの裏にえがかれた被災者へのメッセージに、従業員たちはこっそり泣いていた。そしてマシンが立ち上がるといち早く、その『ONE PIECE』と『NARUTO』の紙が発注されたのである。

今度は、立ち上がった石巻が恩を返す番だ

*

7月1日夜、東京都内で『紙つなげ!』の著者・佐々涼子氏と日本製紙印刷用紙営業本部長・佐藤信一氏のトークショーが、HONZ代表・成毛真の司会で行われた。

7月1日のトークイベントの模様

佐藤氏は語る。

(石巻工場の人々は)口べたな連中なんですよ。でもみんな、佐々さんを信頼して話をした。また同じことが起こったときのため。次の世代につなぐため。ですから資料集も作りました。

次の世代のために作られた資料集

全従業員に、この本は地域の書店で、自分が働いた金で買ってくれと連絡しました。この本で従業員たちにも全体像がわかる。誇りにつながりました。

本書の紙は、もちろん、石巻工場製である。本文は指の当たりがやわらかい、めくり心地のよいクリーム色の紙。被災の様子を写したカラー写真が何点も収められているが、こちらはテカリを極限まで抑え、色を美しく再現する、石巻自慢の紙だ。

同じページ数の本でも紙によって重さや風合いが変わるそう

そして、すっかり「紙の専門家」となった著者の佐々氏。

なんども石巻に通ったが、これは書かないでくれというようなことを一度も言われなかった。このできごとを残さなくてはならないという覚悟を感じた。

たすきはつながり続けている。製紙工場から出版社へ、書店へ、読者へ。私も伝えるという意志を託された気がする。

つなげ!つなげ!つなげ!

人は常に誰かを必要としている。そしてきっと、誰かに必要とされている。生きている限り、いくつものたすきが様々につながり続け、行き来し続ける。受け取って、渡す。渡して、受け取る。幾重ものつながりのなかに、いる。その永々とした営みが、生きているということなのかもしれない。

あなたは誰を必要としていますか?
私は誰かに必要とされているだろうか。
受け取ったら渡してください。渡したら受け取ってください。

本書は、読むものの心にあたたかい光を灯してくれる一冊である。