ようやるわ。でも、よくやった! 『東京大学の学術遺産 捃拾帖』

足立 真穂2014年07月13日 印刷向け表示
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東京大学の学術遺産 君拾帖 (メディアファクトリー新書)
作者:モリナガ・ヨウ
出版社:KADOKAWA/メディアファクトリー
発売日:2014-06-27
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ようやるわ。もうこの一言に尽きるでしょう、この本は。東京大学図書館の貴重書耐火地下倉庫に眠っていたお宝資料を、ひたすらめくり続け読み込んでのセレクト面白資料集。集めた方も集めた方なら、拾った方も拾った方。で、それがカラーの新書で読めるのです。

幕末から明治・大正時代にかけて、当代きっての「なんでも蒐集家」が集めたチラシ、領収書、お菓子の包み紙、あとほかなんでも目についた摺りものたちが貼られた、100冊近いスクラップ帖、「捃拾帖」(くんじょうちょう、と読みます)。その中から、モリナガ・ヨウさんが「色がついているもの」「見た目、おもしろいと思ったもの」という基準、つまり独断と偏見で130パターンを選んでいます。

こんな風に紹介されています。

そもそもこの集めた人というのが、すごい。「幕末の本草学者で江戸幕府の職員としてパリ万博に出張したり、そのまま明治政府に仕えて殖産興業に尽力した」、とあるのですが、薬草園の管理や薬草栽培に従事、本草学者としてのフィールドワークの記録として、「貼り交ぜ帖」をつくり始めます。多才な人だったようで、英和対訳辞書の著述、日本初のリンゴの接ぎ木、昆虫採集と標本作成……は序の口、ホロホロ鳥やサボテンを日本に持ち帰り、舎密局(京都大学と岡山大学の前身)を設立し、日本初の魚の剥製を作り、『明治月刊』なる雑誌を発刊し、日本初の博覧会を開催しています。まだまだすごい人で、「博物館」という名称を生み出し、動物園や植物園を構想して上野に実現、紙巻煙草や鉛筆や測量器を日本に紹介し、日本で初めてコーヒー栽培に成功し、日本のサケ・マス人口孵卵を始め、日本初のコンクリート住宅を自宅とし、大日本農会に大日本水産会に大日本山林会の創立などに関係し、志摩に真珠貝の養殖場をつくらせ、東京高等農学校、後の東京農業大学の初代校長になり、晩年には男爵にまでなった……という1838(天保9)年から1916年(大正5)まで生きたひと。

ふう、疲れました。要しちゃうと、この田中芳男さん、日本の「博物学の父」。で、亡くなった後に蔵書をお孫さんが東京大学に寄贈し、東京大学は5年かけて(私は初めて知りましたが、知られていないだけでこういう仕事はほかにもあるのかも? わくわくしますね!)、「田中文庫」として整理したそう。なかでも、今回の「捃拾帖」は総合図書館の地下耐火書庫に大切に保管されている、という秘宝なのです。

で、拾ってセレクトしたのが、モリナガ・ヨウさん。立体造形もされ、空想科学読本』表紙オブジェの制作者、といえばぴんと来る人も多いかもしれません。『プラモ迷宮日記』(第一・第二集)、『ワールドタンクミュージアム図鑑』などのガッツリ系から、『モリナガ・ヨウの土木現場に行ってみた!』、『乗り物ひみつルポ』(3巻)などなど取材ものまで、独自のイラスト・ルポのファンの方も多いのでは。というか、もう、わかるやつだけわかればいい。どの作品にも圧倒されます。

さて、集めて、セレクトされての『東京大学の学術遺産 捃拾帖』、幕末から始まり、ざっくりと時代順に並んでいるのですが、眺めているとおもしろいことこの上ナシ。私がその中から独断と偏見でセレクトした数点を、モリナガ・ヨウさんとメディア・ファクトリー新書編集部のご協力でいくつかお借りしたので、実際にご紹介しておきます。

こちら、「コレラ除けの摺りもの」。幕末にコレラが流行った際に、コレラにかからないように、との願いをこめて護符として貼ったそう。

お次は、江戸飛脚の札。右側は飛脚の料金表だそう。当時は京から江戸まで5日、急ぎで3日かかったそうな。時速12キロというから、結構なる速さです。

そして、「捃拾帖」の中でも人気のある鹿鳴館の献立表。鹿鳴館は、洋食文化が広まるきっかけになったそう。へええ!

江戸文化の空気が残る幕末や明治初期の暮らし、明治になってからの「舶来モノ」への好奇心が、手に取るようにわかり、一部しかご紹介できないのがもどかしいくらいです。読み取るモリナガさんのセンスが抜群なので、当時の空気に入り込んで堪能できます。解説もあるのですが、絵を読み解くのに必要十分な程度にだけ文章が入っていて、これがまたちょうどよし。結局選ぶ人のセンスなのでしょうけれど、パラパラと眺めるだけで時代の風を感じられる一冊です。細かいところで「そうなんだ」と驚くこともしばしば。

ゆるゆるわくわく、想像の翼を広げられるこの本、第二集も期待したいところです。 

<画像提供:KADOKAWA/メディアファクトリー>

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