『本は死なない』キンドル開発者、読書についてかく語りけり!

鰐部 祥平2014年07月18日 印刷向け表示
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本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」
作者:ジェイソン・マーコスキー
出版社:講談社
発売日:2014-06-19
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アマゾンが電子書籍読み放題サービスに参入するというニュースがある。これは月額9.99ドルの契約を交わすと、約60万タイトルの電子書籍が読み放題になるというサービスだ。日本ではいまひとつ普及していない印象が拭えない電子書籍だが、アメリカでは事情が異なるようだ。本書の記載によると、アメリカの出版業界の市場調査を専門とした機関の報告で、2012年までに成人の24・5パーセントが日常的に電子書籍を読んでいるという調査結果が出ているそうだ。

社会学者エヴェレット・ロジャーズの著書『イノベーションの普及学』によると、革新的な技術が消費者に普及するまでには5つの段階をふむという。消費者全体の2・5パーセントを「革新者」と呼び、最も早い段階で新しい技術に反応し購入する層。次が「初期導入者」で13・5パーセント。これに次ぐのが34パーセントを占める層で「初期多数派」といい、ここまで消費者のほぼ50パーセントを占める。残りの50パーセントは「後期多数派」が34パーセント、「最遅者」が16パーセントとなる。普及が初期多数派に達したときが、新技術が最も高い収益を上げる時期とも言われている。現段階においてアメリカでは、電子書籍は初期多数派に浸透しつつある。

本書はそんな電子書籍を普及させた、アマゾン社のキンドル開発プロダクト・マネージャーが本の歴史と未来、そしてその文化的意義を語る一冊である。

ところで電子書籍と紙の本ではどこが最も違うのであろう。やはり一番に思いつくのが、紙の本では読書という行為が個人的なものであり、閉じた行為だという事だ。本に書かれた情報を確認するためには、本の最後に書かれている参考文献などを読後、個別に探さねばならないし、小説などの文章で気になった事や疑問、自分の解釈などを誰かと共有することは稀だ。

だが、電子書籍は読書を開けた行為に変える。著者はやがて全ての本が一冊の本になるのではないかと予想する。全ての本が一冊の本に包括される、読書版フェイスブックのようなシステムが生まれるというのだ。あらゆる本が電子化され、全ての本がハイパーリンクによって繋がった世界だ。読者は一冊の本を読む中で気になる事柄に関する事を、そこに貼られた参考文献のリンクを踏むことで、瞬時にその理論の基になる本へと飛ぶことができる。様々な本を行きつ戻りつしながら本を読むことができるようになる。

また、その事柄について書かれた他の読者のコメントや議論を共有することで、本の内容をより深く理解することができるようになる。興味深いコメントを残した人物の履歴を追う事でユニークな読書遍歴者や、優れた本のキュレーターに出会うことも可能だ。むろん、現状では出版社の問題や著作権の問題などで不可能だ。しかし、やがては本をそのようなソーシャルメディア的なシステムにするべきだと著者は説く。

現在、ネットに渦巻く情報は玉石混交だ。確かな事実や優れた議論に触れるためには本に勝るものはない。だが現状では、一冊一冊の本にアクセスするために、あまりにも多くのプロセスが必要だ。このため膨大な知の宝庫である書物に我々は効果的にアクセスできなでいる。あまり注目されないが素晴らしい本も存在する。

もしこのような膨大な本の海を制約なく自由に行き来できるようになれば、我々の知的活動は新たな次元に突入するのではないだろうか。著者は有用な情報を多くの垣根を越えて一元的にアクセスできるようにするために、やがてグーグルが大きな役割を担うのではないかと期待感を込めて述べている。

作家と読者の関係も変わる。作家は読者がどのような部分に関心を寄せているかという事を、コメントや読書歴のデータで分析し、随時、著作に改変を加えることが可能だ。電子書籍においては文章は常に変化するというこだ。読書という行為が可変的な体験になる。読者が読書という行為を通して、作品に大きな影響を及ぼす可能性が出てくるのだ。

読書とは、その本の著者と会話を交わす事とだと言われることがあるが、これからは著者もまた、データを通して読者と会話することが求められるのかもしれない。また、すでに読者の読書履歴などのデータの一部はアマゾンやアップルに収集されているという。こうなると、作品に関する出版社、販売元、作家の力関係に大きな変化が訪れる事は避けられないだろう。

かつて、古代には3つの大きな図書館があった。アレクサンドリアペルガモンハッラーンの図書館だ。これらの図書館に収められていた膨大な蔵書は度重なる戦禍などで多くの物が消失している。実は電子書籍の状況も古代と似た状態だという。なぜなら、電子書籍のデータはその大部分がアマゾン、グーグル、アップルのクラウドに保管されているからだ。災害、戦争、テロ、ウイルス、倒産などでこれらのデータが消失してしまう危険が常に付きまとう。このようなリスクも真剣に考えていく必要もあるかもしれない。

その他にも、紙の本に宿る人間的な温かみの欠如など、多くの問題点を挙げつつも、著者は電子書籍の未来に多くの希望を感じているようだ。なんといっても、本書の冒頭部に書かれている「読書はテクノロジーの進歩と共にある文化だ」という著者の言葉が読了後、心に響く。電子書籍は間違いなくグーテンベルク以来の読書革命だ。グーテンベルクの活版印刷技術は宗教革命に大きな影響を及ぼした。今度の読書革命は私たちにどのような影響を与えるのであろうか。

ただ、この革命の重要なプレーヤーが、子供のころから本が大好きで紙の本をこよなく愛する男だと知った今、根が保守的な私の心の中にあった電子書籍という大きな変化に対する不安は見事なまでに払拭された。

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読書の歴史―あるいは読者の歴史 (叢書Laurus)
作者:アルベルト マングェル
出版社:柏書房
発売日:1999-09
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ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAMAZONの隆盛
作者:リチャード・ブラント
出版社:日経BP社
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 田中 大輔による本書のレビューはこちら

ジェフ・ベゾス 果てなき野望
作者:ブラッド・ストーン
出版社:日経BP社
発売日:2014-01-08
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グーグル秘録 (文春文庫)
作者:ケン オーレッタ
出版社:文藝春秋
発売日:2013-09-03
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