最もセクシーでクールな『ロボコン』

刀根 明日香2014年07月17日 印刷向け表示
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ロボコン イケてない僕らのイカした特別授業
作者:ニール・バスコム
出版社:集英社
発売日:2014-06-26
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本書を読み始める前は、「よくある先生と生徒の感動物語かな」くらいに、軽く考えていた。しかし、そこで繰り広げられているロボット選手権があまりにもレベルが高く、ただの感動物語では済ませられない何かがあった。

高校生ロボット世界選手権「FIRST」(For Inspiration and Recognition of Science and Technology) が目指すもの、それは、科学やテクノロジー、工学や数学が世界で最もクールであることを示すこと、そして発明と知性の素晴らしさを、世界中の高校生に体験させることだった。日本のクイズ番組のような、知識量を争う大会ではなく、頭を使って創造する、本当にワクワクさせられるものである。

FIRST選手権に出場するためには、短期間でロボットを完成させ、地区予選を勝ち抜かなければならない。バスケットボールやサッカーなどの人気スポーツに引けを取らない、まさに知性を競うスポーツなのだ。本書の主役チーム「ド・ペンギニアーズ」が激戦に挑んだ2009年は、以下の様なタイムラインで進行した。

1月3日 開幕の日
2月17日 ロボットの発送期日
3月12日〜14日 ロサンゼルス地区大会
3月26日〜28日 サクラメント地区大会
4月16日〜18日 FIRST選手権

そして以下の動画(https://www.youtube.com/watch?v=IZObziI6N00)は、2009年度アトランタで行われたFIRST選手権における実際の模様である。会場の熱気の渦に驚嘆することだろう。

ド・ペンギニアーズが他の全チームとちがうのは、すべて最上級生の4年生で構成され、チームに加わることで、学校の履修単位をもらえる。他のチームには、経験者の先輩がいるが、ペンギニアーズは全員、ロボット作りがまったくの初心者だ。

彼らが必要とするロボットとはどのようなものだろう。競技は、各学校1台ロボットを持ち、3つの学校がチームとなって、相手チームと対戦する。つまり6台のロボットがフィールドを動き回る。各ロボットは、後ろに籠のような形のトレーラーを引き付けている。敵チームのトレーラーにボールを入れ、得点が多い方が勝ち、玉入れのような競技だ。(細かいルールはYou Tube参照。)

床に散らばった玉を拾い集めるため、あらゆる方向にスピーディーに動き回る。そして、多機能の自動制御を誇り、センサーを使って敵ロボットを追跡し、敵のトレーラーに向けて射る。おまけにフィールドの床は、月面をまねして、極端に摩擦が低くなっているため、ロボット同士の高速での衝突も考慮しなければならない。つまり、初心者が作れるレベルではないのだけは、確かなのだ。しかもたった46日間で。

しかし生徒たちはこの大会に出場するのを目的に、この高校に入学し、チームの一員として選抜された強者ぞろいだ。初心者と言っても、それぞれ突出した才能を持っていた。たとえば、チェイスはものを三次元的に見通し、頭のなかで組み立てる能力に恵まれていた。ゲイブは、生まれながらの天才コンピュータプログラマー。そして何よりも、有能で熱血な教師がいた。名前はアミール。チームを構成するエンジニアリング・アカデミーの創設者である。

アミールは、生徒たちに明確な目標を示していた。それは、どこよりも進んだ、プロらしい設計のロボットをつくること。期日に間に合わせるのが目標ではない。勝ちにいくのだ。

アミール同様、生徒たちの頭にも妥協は一切なかった。「ロボットは発明ではなく、エンジニアリングだからな。他のアイデアにもいろいろ目配りをして、いちばんうまくいく方法を探し続ける。そうやって改良していくんだ。」明日には、2倍の速度で動けるようにしよう。蓄えられる玉を15個から20個に伸ばそう。敵のトレーラーへの命中率を高めよう。常に改良を加え、実際に動かす。創造と実践、この連続だ。

FIRST選手権には他のスポーツ大会とは全く異なる、ものづくりの醍醐味がある。それは、自分の成果が結果として常に目の前にある、ということだ。精神論やごまかしは一切通用しない。プログラミングが一カ所でも間違えていればロボットは動かないし、寸法が違えばその分のロスタイムは大きい。しかし一方で、1つのひらめきがロボットのレベルを格段に上げることも可能だ。

何ヶ月も続く緊張感とタイムリミットの重圧にもめげず、生徒たちが躍進していく姿ほど心を打つものはない。宿題やテストなど上から押し付けられるものから解き放たれ、吸収したいものだけを全力で吸収し、間髪入れず実践に移せる喜びが彼らの身体中みなぎっているようだ。そこには、それを認めてくれる先生がいて、受け止めてくれる仲間がいる。これ以上何を望めるというのだろうか。

さらに本書を光らせているものは、著者のチームに対する熱の入れようだ。作業風景から試合本番まで、チームの様子をこと細かに描写している。それぞれの生徒の個性、会話や悪ふざけ、試合前の緊張感、生徒が前を睨む様子、すべてを逃さない。著者が出来るだけチームに寄り添おうとした情熱が、場の臨場感として伝わってくる。FIRSTに挑んだ高校生が生まれ変わっていく様子を是非、一緒に堪能していただきたい。

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