本好きに捧ぐ漫画『バーナード嬢曰く。』

山田 義久2014年07月25日 印刷向け表示
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バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)
作者:施川 ユウキ
出版社:一迅社
発売日:2013-04-19
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 この作品は、“”好きにしか理解されない”漫画”だと思う。
というのも、本好き達が、小説、SF、ノンフィクションなどなど、自分が好きな本に対する歪んだ愛情を語り、内輪で盛り上がっているだけの話だからだ。
しかし世の中、歪んだ愛情ほどおもしろいものはない。

この作品、言ってしまえば、特に起承転結もない一話読み切りのエピソードの羅列だ。しかし、巻末の参考文献には『カラマーゾフの兄弟』から『一九八四年』までなんと64冊も並ぶ。
それらの本に対する彼らの歪んだ愛情が、本好きの心の琴線にビンビン触れまくる。「がはは!そのディテール!」って叫びたくなること多数。だいたい、今のご時世"ゴセシケ"について熱く語れる人って、何人いるのだろうか(←ちなみに私はそもそも知らなかった)。
ちなみに、ここでいう「本好き」とは、何というか、文字を読むのが好きというのもそうだけど、装丁とか紙の質感とか含めたそもそも「本」という物体・物質が好きというレベルを指す。

舞台はとある高校の図書館。登場人物はたった4人の学生。この4人の交流がこの作品のすべてである。簡単に紹介しよう。

(主人公の町田さわ子)

主人公は、町田さわ子。毎日図書館に通うものの、自分を読書キャラに見せることに尽力し、いかに読んでない本を読んだように見せるか腐心する。では、エセ読書家か、というとそうでもない。愛読書は『使ってみたい世界名言集』だが、青木薫さん訳の『フェルマーの定理』(←内容に感動しつつも新潮文庫の装丁にケチつける)、太宰治、SF等、徐々にいろんな名作に挑戦して、独自のひねた解釈を与えていく。あだ名がこの作品のタイトルの「バーナード嬢」。

(恋空を読んで密かに号泣する遠藤)

遠藤も毎日図書室に通う読書家。だが、その理由はさわ子と話をするため。普段クールにさわ子の奇行に逐一ツッコミをいれるが、『恋空』を読んで号泣して頭を上げられるなくなるという感傷的な一面もある。

(秘めた激情家、長谷川スミカ)

長谷川スミカは、彼らが集う図書館の図書委員。メガネでおさげで長いスカート、そして静かな性格。典型的な文化系の雰囲気。密かに遠藤に心をよせており、「秘すれば花なり」(世阿弥)と呟く。実は激情を秘めており、遠藤に長期間貸出されている『失楽園』(ミルトン)になぜか「押し掛け女房が~!」とキレたりする。さわ子をストーキングする遠藤をストーキングする自分を「ストーカーのストーカー」と自虐。小学生から10年シャーロキアン(←シャーロックホームズにやたら詳しい人)であることを自負。よく見ると、ボードレールの『悪の華』を普通に読んでいたりする相当の本好き。座右の書は『氷の海のガレオン』。

(ガチの読書家の神林。高校生にしてその造詣は底知れない)

神林しおりは、所謂ガチの読書家。本に対する熱情が常軌を逸しており出版社、装丁はもちろん、翻訳の巧拙にも一家言を持つ。
特に、SFに関しての造詣は凄まじく、絶版後復刊したときの表紙の変更や改題の善し悪しまで論ずる。伝説のサンリオSF文庫を語り、「SF1冊紹介して」と言われたら、さらっと10冊以上並び立てる。総じて発言は思い入れが強過ぎて自己完結型だが、名言が多い。例えば、「SF語るなら最低千冊」、「ムリでもせめて普通に本屋で変える青背(=ハヤカワ文庫SF)全部読んでから言え」、「本は読みたいと思った時に読まなくてはならない」。しまいには遠藤からは「どうしてそんなに熱くなれる。。」と突っ込まれる始末。
一方、たとえ自分の考えに賛同を得られなくとも、SFや自分が愛する本に少しでも興味を持ってくれる人(さわ子達)には、無条件で優しくせずにはいられない。そんな彼女の性格が可愛いかったりする。
ちなみにSF以外でも、ジャレッドダイヤモンドの『鉄・火薬・銃』を「すごい読みやすいから上下巻一気に読んだ」と2日であの大書を読破し、さらにマクニールの『世界史』まで読んでいるという恐ろしい読書家。

(神林はさらりとこういうめちゃめちゃ深いことをいう)

どうだろう。こんな恐ろしい4人の会話を聞いてみたいと思わないだろうか。
この作品は絶~対にバカ売れはしない。
しかし、本好きの感性には鋭く突き刺さるはずだ。強くおススメしたい。

 

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