【連載】『真相:マイク・タイソン自伝』
第3回 戦慄のKO劇でついにタイトル獲得! 史上最年少世界ヘビー級チャンピオンに!

ダイヤモンド社書籍オンライン2014年08月02日 印刷向け表示
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プロボクサーとしてデビューを果たしたタイソンは、圧倒的な強さで連戦連勝。しかし世界チャンピオンが視野に入った頃、最大の理解者で最高の指導者であったカス・ダマトが病のため帰らぬ人となる。タイソンはカスの遺訓を胸に、最年少ヘビー級チャンピオンを目指すが、次第に人生における目標を見失い始める。そしてついに世界ヘビー級タイトル挑戦の日を迎える。
※過去記事 第1回第2回

真相---マイク・タイソン自伝
作者:マイク・タイソン
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2014-07-18
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運命の日

試合当日、午後1時にパスタをつまむ。4時にステーキ。5時にまたパスタをつまんだ。控え室で〈スニッカーズ〉を食って、オレンジジュースを飲んだ。

マイク・タイソン(Mike Tyson) 1966年生まれ。アメリカ合衆国の元プロボクサー。1986年にWBCヘビー級王座を獲得、史上最年少のヘビー級チャンピオンとなる。その後WBA、IBFのタイトルを得てヘビー級3団体統一チャンピオンとして君臨。しかし2003年に暴行罪によって有罪判決を受けるなど数々のトラブルを巻き起こし、ボクシング界から引退。アルコール・麻薬・セックス中毒のどん底状態から過去の自分を反省し、自己の人生を語るワンマンショーで成功を収め、新たな幸せと尊敬を得る。2011年、国際ボクシング殿堂入りを果たす。2013年に『真相:マイク・タイソン自伝』を上梓。(Photo:© Bettmann/Corbis)


いよいよケヴィン・ルーニーが俺の両手にバンデージを巻いて、グラブをはめてくれた。入場のときが来た。アリーナは肌寒かったから、ケヴィンがタオルを切って首を覆ってくれた。俺は黒のトランクスを穿いていた。何試合か前から黒に変えていたんだ。チャンピオンのトレヴァー・バービックも黒だったから5000ドルの罰金を払うはめになったが、べつにかまいやしない。とにかく相手に不吉な予感をいだかせたかったんだ。

挑戦者の俺が先に入場した。TOTOの歌が流れていたが、頭の中にはフィル・コリンズの『夜の囁き』だけが聞こえていた。“今夜、願いがかなう。そんな気がする、おお、神よ。この瞬間をずっと待っていたんだ、おお、神よ”。

ロープをくぐってリングをゆっくり回った。客席を見ると、カーク・ダグラスやエディ・マーフィやシルヴェスター・スタローンの姿が見えた。しばらくしてバービックが入場してきた。黒いフードのついた黒いガウンをまとっている。自惚れと自信を発散していたが、俺には見かけ倒しの幻のように感じられた。やつには命を捨ててまでもベルトを守る気骨はない。

モハメド・アリが観衆に紹介され、俺に近づいてきた。

「俺のかわりにぶちのめしてくれ」と、アリは言った。

5年前、アリはバービックに敗れ、試合後引退した。だから俺は喜び勇んで応じた。

「楽勝だ」と、モハメドに請け負った。

ついに戦いのときが来た。ゴングが鳴り、レフェリーのミルズ・レーンが開始の合図をした。

バービックに突進し、強打を浴びせた。信じられないことに、向こうは動こうとせず、ジャブも突いてこなかった。目の前に突っ立っていた。俺は開始早々、左耳に右を当てて鼓膜を破ろうとした。ラウンド中盤、強烈な右でよろめかせ、猛攻を加えると、終盤、バービックは朦朧(もうろう)とした感じになった。強烈なパンチが何発か入っていた。

コーナーに戻って座った。抗生物質の注射のせいで、7月のアイスクリームみたいに汗が滴っていたが、気にしなかった。バービックを仕留めることに集中だ。俺の英雄の1人、キッド・チョコレート[キューバ出身の初代世界王者]もずっと梅毒と戦っていた。

「頭を動かせ、ジャブを忘れるな」と、ケヴィンが言った。「頭に攻撃が集中しているぞ。ボディから入れ」

第2ラウンド開始10秒、右を当てるとバービックはダウンした。すぐ飛び起きて打ち返してきた。反撃しようと努力はしていたが、もうパンチに威力はない。ラウンドの残り30秒くらいで右のボディブローを決め、そのままアッパーを放ったが、これはとらえそこなった。しかし、左フックがテンプルをとらえた。少し反応が遅れる感じで、バービックは倒れていった。拳に打った感触さえなかったが、効いたんだ。バービックは立ち上がろうとしたが、後ろによろけ、足首がぐんにゃり曲がっていた。

衝撃的なKOでトレヴァー・バービックを粉砕。足をもつれさせながら必死に立ち上がろうとするバービックの姿は「宇宙遊泳」と称された。(Photo:© AFP/Getti Images)

“立てっこない”すぐにわかった。

思ったとおりだった。もういちど立ち上がろうとしたが、キャンバスにのめるようにまた倒れた。なんとか立ち上がることはできたが、レフェリーのミルズ・レーンがバービックを抱きかかえ、手を振るしぐさで試合を止めた。

俺はついにボクシング史上最年少の世界ヘビー級チャンピオンになった。

「試合終了です。ボクシングに新たな時代が到来しました!」HBOのアナウンサー、バリー・ワトキンスが叫んだ。

「マイク・タイソンはマイク・タイソンがいつもやっていることをやった。これぞ戦い(ファイト)だ」と、シュガー・レイ・レナードが言い添えた。
「頭に大文字のFがつく正真正銘のFight(ファイト)だ」と、ワトキンスが応じた。

感覚が麻痺していた。何も感じられなかった。まわりで起こっていることは意識できたが、とにかく感覚が麻痺していた。ケヴィンが俺を抱き締めた。ホセ・トーレスが近づいてきた。

「信じられない、ちきしょう。20歳でチャンピオンになっちまった」と、俺は彼に言った。「嘘みたいだ。20歳で世界チャンピオンだ。こんなくそガキが」

ジミー・ジェイコブズもリングに入ってきて俺にキスした。

「カスもこうしてくれたかな?」と、俺は言った。ジミーはにっこりした。

息子がバービックのマネジメントをしているプロモーターのドン・キングが祝福にやってきた。俺は観衆を振り返って、“やったぜ”と思った。“俺とカスはやったんだ”。そのあとカスに話しかけた。

「やっとみんなが間違っていたことを証明できたな。バービックは絶対、俺の背が低すぎるなんて思ってやしないよな?」とつぶやくと、カスの言葉が聞こえてきた。

「フィニッシュまでの戦い方は、まるで駄目だが、最後は圧巻だった。お前は歴史を作ったんだよ」

彼は天国から見ている

試合後のインタビュー。俺はこんなふうにカスを称えた。「世界一のボクサーになったけど、俺はカスの創造物だ。彼にここにいてほしかった。きっと、自分のことを変人と書きたてたやつらをこき下ろしただろうな。“ここにいる俺の息子を見たか。こいつを倒せるやつはこの世にいない。わずか20歳だが、世界の誰もこいつを負かすことはできない”って」

「ボクシングを始めたときからずっと、この瞬間を待ちわびていた」記者会見が始まると、俺は言った。「バービックはとても強かった。自分と同じくらい強いとは全然思っていなかったけど……俺の打ったすべてのパンチには相手を破壊しようとする悪意が込められていた。この最年少記録は永遠不滅、決して破られることはないだろう。永遠に王者でい続けたい。負けるくらいなら死んだほうがましだ。俺は相手を破壊するために、世界ヘビー級選手権を奪い取るためにやってきて、それを成し遂げた。この試合を偉大な守護者カス・ダマトに捧げたい。きっと彼は天国から見ていて、過去のいろんな名ボクサーたちと話をして、自分の息子を自慢しているだろう。変わり者だったけど……間違いなく天才だった。彼がこうなるとずっと言い続けてきたことが現実になったんだ」

その晩はずっとベルトを外さなかった。腰に巻いたままホテルのロビーを歩きまわった。祝勝会でも、カスの家でルームメイトだったジェイ・ブライトやボビー・スチュワートの息子やボクサーのマシュー・ヒルトンと外へ飲みに出かけたときも、腰に巻いていた。

俺たちはラスヴェガスの〈ヒルトンホテル〉の向かいにある〈ランドマーク〉という場末のバーに行った。店には誰もいなかったが、俺たちは座ってひと晩じゅう飲み明かした。俺はウォッカを生(き)で飲(や)って、したたかに酔った。夜更けにマシューが酔いつぶれてしまったから、いろんな女の子たちの家を回ってチャンピオンベルトを見せてやった。セックスはしていない。しばらくいっしょに過ごして、出ていって、ほかの女の子に電話して、その子の家に行っていっしょに過ごした。

どうかしてるって? 俺がまだ20歳だったことを理解してほしいな。それだけじゃなく、友達の多くは15、6歳だったことも。あの年頃はみんな子どもで、大差はない。ところが世界チャンピオンになったら、タイトルとその威光を守ろうと、急に周囲が人格者になることを期待し始めた。

どうしたらいいかわからなかった。自分を導いてくれる人間はもういない。ベルトを獲ったのもカスのためだ。世界獲りに失敗したらいっしょに死ぬつもりだった。ベルトなしでリングを出るなんてありえなかった。あれだけの献身と犠牲と苦痛を経てきたんだ。毎日毎日、考えられるかぎりの手を尽くして。

早朝になってようやくホテルの部屋に戻ったとき、ベルトを巻いた自分の姿を鏡で見て、俺たちの使命を達成したことを実感した。これで晴れて自由の身だ。

しかしそのとき、カスの蔵書の1冊で読んだレーニンの言葉を思い出した。「自由はとても危険なものだ。我々は細心の注意を払ってそれを分配する」――この後の人生で、俺はこの一節を頭に入れておくべきだったんだ。
 

頂点へ登りつめたマイク・タイソンの栄光は、その後はかなくも崩れていく。陰謀、裏切り、レイプ事件騒動、そして刑務所へ。波瀾万丈のタイソン物語のつづきは、本書にてお楽しみください。(了)

真相---マイク・タイソン自伝
作者:マイク・タイソン
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