『人口の世界史』by 出口 治明

出口 治明2014年08月05日 印刷向け表示
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人口の世界史
作者:マッシモ リヴィ‐バッチ
出版社:東洋経済新報社
発売日:2014-02-28
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時宜を得た本だ。わが国の最大の政策課題は、少子高齢化対策、即ち人口問題にある。本書は、なかなか一筋縄ではいかない結構厄介な人口問題の全貌を、広く高いスパンから一望のもとに俯瞰するまたとない入門書である。

「人間の歴史を通して、人口は繁栄、安定、安全と同義だった。」本書はこの胸のすくような一文から始まる。期待が否が応にも高まる。世に竜頭蛇尾の本は絶えてないからだ。本書は6章から成る。「第1章 人口成長の空間と戦略」では、r戦略、K戦略から説き起こし、3つの大きな人口サイクル(人類の登場から新石器時代へ、新石器時代から産業革命へ、産業革命から現在まで)が示される。「第2章 人口成長:選択と制約の間で」では、狩猟採集から農業への移行に伴い、死亡率は上昇(栄養と疾病両面で)したが出生率がそれを上回ったという指摘がなされる。そして、ペストやインディオの悲劇など人口に係る歴史的な大事件が語られる。アイルランドと日本という2つの島国の2つの歴史も興味をそそる。

「第3章 土地・労働・人口」では、収穫逓減を論じたマルサスの名著「人口論」から始まり、エステル・ボースルプなどの「人口増加は発展を促進する」という相譲らない2つの立場を紹介する。この1万年の歴史を見ると収穫逓増に分があるように見えるが、それはまだ資源の限界に到達していないだけの話かもしれない。著者は「時間をどうとるかが重要」だと指摘する。「世紀あるいは千年紀を単位として歴史的に判断すべきなのか。それとも一生の間において起きると思われる問題に関心を絞るべきなのであろうか」と。

「第4章 秩序と効率をめざして:近現代ヨーロッパと先進国の人口学」では、人口転換(多出生・多死亡の不経済から少出生・少死亡の節約へ)が語られる。19世紀から20世紀にかけて先進国は70年~185年ほどをかけて人口転換を終了した。経済成長は平均寿命を伸長させたが、「ある点を超えると、財貨の供給はひとの生存に対してほとんどなんの影響も及ぼさない」。なお、ヨーロッパの人口転換は新大陸への移民と不可分の関係にあることを忘れてはならない。人口増加と経済成長の関係については、「1820年から2000年の間に英仏独米の人口は5.6倍になり、GDPは約107倍になった。したがって1人当たりの生産は19倍になった」。

「第5章 貧困国の人口」。「1900年には約10億人だった貧困国の人口は2000年までに5倍に膨れあがっていた」。爆発する人口、家族計画にいかに対処するか。本書ではインドと中国の事例と共に、架空の国ファティリアとステリリアの例があげられる。人口増加と経済発展の関係は実証が難しいが、1984年、メキシコで開催された国連会議で、世界各国は人口成長を制御すべきものだと確認した。「第6章 将来展望」で、著者は、楽観論者と破局論者のいずれにも組しないと述べる。国連推計では2050年の世界の人口は93億人を突破する。人口の圧力を緩和する意味では自由な国際人口移動(つまり移民政策)が重要である。著者は、「人口成長はもはや中立要因でない、成長の減速で多くの問題が解決しやすくなる、地球の生態系を脅かす人間の脅威はかつてないほどに強まっている、したがって人口増加の抑制は必要だ」と説く。それは、その通りだろう。

結びの文章も印象深い。以下に抜粋を示す。「現在の人口増加は危険な道路(有限と考えられる資源の例え)を疾走する車のようなものである。道路の終点には峡谷があり、事故は必然である。二つのチームが対処しようとしている。道路を何とかしようとするチームと車の改良に取り組むチーム。しかし後者は意見がまとまらない。速度を落とすなどして時間稼ぎをするか、ハンドルやブレーキなどを改良して道路の特徴に合わせて加速や減速、停止ができるようにするか」と著者は問いかける。その答は私たち自身の思考と行動に係っているのだろう。人口問題に直面している日本人なら、少なくとも一度は読むべき本だ。 

出口 治明

ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。 

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