『未来のだるまちゃんへ』-編集者の自腹ワンコイン広告

版元の編集者の皆様2014年08月15日 印刷向け表示
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未来のだるまちゃんへ
作者:かこ さとし
出版社:文藝春秋
発売日:2014-06-25
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うちわや帽子、てんぐちゃんの持っているものを何でも欲しがるだるまちゃんが主人公の『だるまちゃんとてんぐちゃん』、見開きいっぱいのパンが子ども心をくすぐるからす一家のおはなし『からすのパンやさん』。あるいは『宇宙』や『かわ』といった、細部まで描き込まれた科学絵本。数々の名作を世に送り出されてきた、かこさとしさんの絵本を、きっとどなたも一度は読まれているのではないでしょうか。でも、作者であるかこさんの素顔はというと、意外と知られていないかもしれません。

かこさんは88歳の今も現役の絵本作家。長らく会社員と2足のわらじで絵本を描いてきた元モーレツサラリーマンにして、じつは東大工学部卒の科学者、そしてまたの顔は子ども遊びのフィールドワークを独自に続けた児童文化研究者でもあるのです。ロングセラーの人気絵本はどうやって生まれたのか、どんな人生を歩まれてきたのか、これからを生きる子どもたちへのメッセージとともに語っていただいた初の自伝的作品が、本書『未来のだるまちゃんへ』です。

昨年あたりから人気シリーズの続編が次々と刊行され(40年ぶり!)、懐かしさに思わず絵本を手にとった私もまたファンの一人でしたが、ちょうど時同じくしてネット上で目にしたインタビュー記事を読んだことが本書誕生のきっかけでした。

かこさんはそのインタビューで、「僕は死に残りです。昭和20年以降、僕のようにならないように、あとは子どもさんたちのお手伝いをしようと思ったのです」と戦争体験を語られていました。思えば漫画家のやなせたかしさんもそうでした。敗戦への思いが子どもたちへの創作へと向かわせたということ、いまも揺るぎなく「死に残り」の人生を貫かれているという事実に触れて、私は虚をつかれました。絵本の向こう側にそんな思いがあったとは、子どもの頃にはとうてい知りえなかった。かこさんの言葉を今こそ訊いておかなければ。そう思い立ち、少年時代を語り起こしていただくところから、本書はスタートしました。

飛行機が大好きで航空士官を夢見たかこ少年は、眼が悪く、その道を早々に絶たれます。しかし、「軍人になろう」と思った事実は心の奥深くに残り、ずっと消えることがありません。国語も歴史も軍人には不要だと、切り捨ててしまった。なんて浅はかだったのか。戦争や敗戦の責任の一端は自分にある。ではどうやったらその償いができるのだろう? 大学生になったかこ青年は悩んで迷って、答えを探して歩をとめません。そして彷徨うように潜り込んだ法学部の講義でのある教授との出会いが、背中を後押しするのです。

「大人はもううんざりだ。子どもたちに弟子入りしよう」、そう心に決めたかこさんのその後の歩みがどんなものであったのか、そこは本書の山場の一つでもあるのですが(会社員との二足のわらじの創作活動は、働く人にとってのヒントとエールが多数です)、一筋縄ではいかない格闘ぶりと人生スピリットがうかがえるエピソードを少しだけご紹介します。

当時、セツルメント活動(今でいうボランティア活動)に精を出されていたかこさんは、「どんな子どもも、この作品には目を輝かせるだろう」と自信作の紙芝居を携えて、鼻息荒く読み聞かせ会に向かいます。ところが、子どもたちは一人へり二人去り、残ったのはおばあさんに抱かれた赤子だけ――。

小手先ではどうにもなびいてくれない子どもたちを前に、これは考えを改めなければいかんと、子どもたちとの真剣勝負のなかで絵本作りにのめり込んでいくのです。その覚悟たるや、日曜日の家族だんらんはすべて返上、奥さんには「本当は昭和20年に死んだ人間なんだから、我慢せい」というほど。

大正、昭和、平成という3つの時代をまたぐ来し方から、時代への鋭い観察眼とユーモアがにじむ名調子の語りは、絵本作家・かこさとしとはまた違う深い味わいを帯びています。

これからの未来をつくっていく若い人たち、かこさとしさんの作品に子どもの頃から親しんできた人たちはもちろんのこと、今置かれている状況に悩み、何か突破口を探してもがいている大人たちにこそ手にとってもらえたら。迷い道をどう切り開いていったらよいのか、正直で骨太でいて優しい、かこさんの言葉がきっと後押ししてくれるはずです。
 

鳥嶋 七実 文藝春秋 文春新書編集部
週刊文春編集部、文學界編集部を経て現職。これまで担当した本に、ヤマザキマリ『男性論 ECCE HOMO』、谷口忠大『ビブリオバトル』、榎木英介『嘘と絶望の生命科学』など。
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