『ブレークポイント』 ネットワークの成長を支配する法則

村上 浩2014年08月12日 印刷向け表示
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ブレークポイント ウェブは過成長により内部崩壊する (EPUB選書)
作者:ジェフ・スティベル
出版社:KADOKAWA/角川書店
発売日:2014-08-08
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ネットワークはどのように成長し、崩壊するのか。脳科学者であり、複数の企業を経営する起業家でもある著者は、脳科学と生物学、インターネットテクノロジーの領域を縦横無尽に行き来しながら、ネットワークを支配する理論を明らかにしていく。本書でネットワークの仕組みを知れば、SNSやインターネットだけでなく、人工知能の行く末までもが見えてくる。

アリのコロニー、人間の脳、さらにはインターネットと、全く異なるように思えるこれらのネットワークにはいくつかの共通点がある。例えば、全体が個々の総和より優れた機能を発揮する。仲間から離れたアリの個体は自分のエサを見つけることすらも難しいが、コロニーとしては公衆衛生、経済や戦争までも効率的に管理できるのだ。これは、1つ1つのニューロンはオン・オフを切り替えているに過ぎないながらも、その繋がりである脳が、驚くべき創造性を発揮することからも理解できる。

他にも外部性などの興味深い特徴を多く持つネットワークだが、本書で着目するのはネットワーク成長の限界点、ブレークポイントである。ネットワークは無限に成長し続けることはできない。ネットワークを取り巻く環境の収容力(ネットワークを支えるため必要な資源)は有限だからだ。脳の機能は物理的な存在であるニューロンの数や性能に制約を受けるし、インターネットはケーブルを伝わるデータの容量以上に拡大することはできない。それでは、ブレークポイントを迎えたネットワークには、どのような結末が待ち受けているのか。

本書で例示される、ベーリング海に浮かぶセントマシュー島のシカが辿った運命が、ブレークポイント後のネットワークの姿を象徴的に描き出している。1944年にこの無人島に放たれた29頭のシカは好物の苔を存分に食べ、1963年までに6,000頭にまで増殖したという。しかし1964年、セントマシュー島にシカの写真を撮りにでかけた海軍は、驚くべき発見をする。昨年まで島を我が物顔で闊歩していたシカが全く見当たらなかったのだ。なんと、シカはたった1年足らずで42頭にまで激減していた。シカのネットワークはブレークポイントを超え、あっという間に崩壊してしまったのだ。

それでは、ブレークポイントに至ったネットワークは必ず崩壊の運命を辿るのか。そうではないと著者は説く。ブレークポイントは忌み嫌うべきものでも、避けるべきものでもなく、ネットワークに知性という恩恵をもたらしてくれるものだという。ネットワークに関して言えば、「大きいことはいいことだ」は当てはまらない。本書が特に注目するのは、このブレークポイント後のネットワークのあり方である。どのようなときに「崩壊」がもたらされ、どのようなときに「均衡とそれがもたらす質の成長」を享受できるのか。

アリや脳だけでなくSNSや交通網など、様々なネットワークの歴史を紐解いていくことで、ネットワークを支配する法則が徐々に明らかになっていく。多くのネットワークの誕生と消滅を見続けてきた著者は、2009年の段階でMyspaceの没落とFacebookの急成長を予想していた。成功するネットワークはどれも同じ3つの段階を経験することを知っていた著者には、容易な予想だったのかもしれない。

成功するネットワークの第一段階は成長だ。この段階では環境収容力を他のネットワークに奪われないためにも、加速度的に成長する必要がある。第二段階がブレークポイントであり、ネットワークは限界を超え、そのサイズは縮小していく。アリのコロニーも大きくなり過ぎると適切なサイズを保つために繁殖力のある雌をコロニーの外に送り出す。5歳のときには1,000兆もあった人間の脳のニューロン接続も、成人時には100兆程度にまで減少する。これは第三段階に至るために必要な、量的後退なのである。

そして、ブレークポイントを超えながらも崩壊を逃れたネットワークが到達する第三段階が、均衡である。この段階に入ったネットワークの規模は安定に向かう。この段階で加速するものは、「コミューケーション、知能、意識」という質的な成長である。集合知に支えられたネットワークであるWikipediaの成長過程を振り返ると、Wikipediaが既にこの第三段階に入っていることがよく分かる。その誕生以来急速に上昇した1ヶ月当たりの新規作成記事は2007年には60,000までにも及んでいたが、2013年には30,000程度にまで減少している。ウィキメディア財団は2011年に更なる規模の成長に焦点をあてることを宣言しているが、この段階ではより編集権限を制限し質の向上に焦点をあてるべきだというのが著者の主張である。あなたはWikipediaに記事の加速度的増加と、既存記事の改善のどちらを望むだろうか。

ネットワークをめぐる著者の探求は、本書の後半で人工知能の現状と将来の可能性へと向かっていく。著者は大胆にもこう断言する。

人工知能は現実であり、すでに存在していて、進化し続けていくだろう。

どんな人間も、1人だけでは鉛筆のように単純なものすらつくりだすことはできない。それでもヒトはネットワークの力によって月に行き、核の力を解き放った。そして、これまで経験したことのない規模のネットワークを収容することができるインターネットを生み出した。この新たな、そして前代未聞に巨大なネットワークがブレークポイントを迎えるとき、我々は崩壊することなく新たな知性を生み出せるだろうか。

ねずみに支配された島
作者:ウィリアム ソウルゼンバーグ
出版社:文藝春秋
発売日:2014-06-13
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生態系という複雑なネットワークは非線形な変化を見せる。小さな小さなねずみすらも、ネットワーク全体に甚大な影響を与えうる。仲野徹のレビュー。峰尾健一のレビュー。土屋敦のレビュー

文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)
作者:ジャレド ダイアモンド
出版社:草思社
発売日:2012-12
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文明というネットワークが崩壊に向かうとき、何が起こっているのか。どのような文明が滅亡し、どのような文明は存続するのか。『銃・病原菌・鉄』のジャレド・ダイアモンドが文明崩壊の謎に迫る。

知の逆転 (NHK出版新書 395)
作者:ジャレド・ダイアモンド
出版社:NHK出版
発売日:2012-12-06
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『ブレークポイント』でも紹介されている、インターネットを裏で支える企業・アカマイの共同設立者トム・レイトンのインタビューも収録されている。

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