そこは、自分の欲しいものを、自分の為だけに作っても、誰にも咎められず、むしろ誰かに届いてしまう世界。『コミティア30thクロニクル』

菊池 健2014年08月21日 印刷向け表示
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コミティア30thクロニクル 第1集
作者:
出版社:双葉社
発売日:2014-05-14
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この本に載っているマンガ達は何かが違う。

まず、面白い。面白いのだけども、その上で24人の描き手が本当に楽しんでることが、マンガから溢れ出ている。多くのプロ作家が、描く事そのものを楽しんでいることが良く判る。

これは例えば、元ブラジル代表のロナウジーニョが、街のストリートサッカーに混じって、楽しむために嬉しそうにプレイする様子と言ったらイメージ出来るだろうか。好きでたまらずプロになった人が、休みの日にも息抜きでサッカーをしてしまうようなこと。見ていても、一緒にボールを追っても、楽しくなるに決まっている。

プロアマの作る全ての作品から、マンガに対する作者の愛がほとばしって溢れている。コミティアとはそういう場であり、この本はその集大成と言えると思う。
 

「売れ筋」を追う事を求められない、描き手の理想郷 

『コミティア30thクロニクル』は、自らを「自主制作漫画誌展示即売会」と定義する「コミティア」30年の歴史の中から厳選されたアンソロジーマンガ(全3集)になる。30年間、100回以上開催された間に出されたマンガは、恐らく数十万作品。その中から、コミティア代表中村公彦氏が、責任編集として厳選する数々の読切マンガを掲載している。正にコミティア30年史集大成のマンガと言え、面白くないわけがない。

第1集24編のトップバッターとして掲載されている作家は内藤泰弘、『トライガン』の作者だ。コミティアにはアマチュアに混じって、商業マンガのプロも沢山参加するし、中には内藤のようなヒット作家も、何食わぬ顔で混ざっていることもある。人によっては、アマチュア時代にコミティアで経験を積み、プロになって、まだ続けている人もいる。

『トライガン』と言えば、アニメ化もした大ヒット作品であり、国内のみならず、海外でも大人気のアクション作品だ。その内藤がコミティアで出した作品が『サンディと迷いの森の作者たち』というタイトル。代表作とはかなり趣が違う。

前半は「こういう作品を、心底描きたかったんだろうなぁ」という気持ちが作品から溢れ、後半は、「トライガンの内藤先生だ!」という描写もある。ファンタジーの具合も本当に心地良く、だんだん明らかになっていく謎も絶妙な、ちゃんと悲しくて、ちゃんと楽しいマンガだ。


中盤で印象的だったのは、おーみやの『余命100コマ』、冒頭で死神が主人公に「余命100コマ」を宣告する。以降、全てのコマに数字が振られてカウントダウンされるという、秀逸なアイディア。最後の5コマの使い方は、正にコミティアならでは、そして「マンガって良いな」と思えるものだ。(2段オチ凄い:笑)


大トリの作品は、南研一の『SUMMER SONG』、この方はプロ作家ではなく、現在では既に、同人作家としてもペンを置かれている方だ。20年近く前の作品だが、なかなか見慣れない斬新な表現が散りばめられている。コマの使い方等は、普通のマンガを見慣れている方は、少し驚くかも知れない。そして、言いにくいが、この作品が商業マンガ雑誌に掲載されることはないだろうとも思う。しかし、感じる空気感は並み居る作品の中でもかなりの存在感だった。

大ヒットマンガのような完成度の高い作品とはまた違う。作家が作品に仮託した、何とも言えない思いや時代の生々しさは、全てをむき出しにチャレンジして、ツボにはまった快感のようなものだと思う。創作系同人誌の真骨頂と言える。


他、印象に残ったのは、kashmirの『第六作戦』、太田モアレの『魔女が飛んだり飛ばなかったり』などや、あの大ヒットゲーム/アニメ、fateシリーズのTYPE-MOON竹内崇のマンガが掲載していたりもする。これまた、コンパクトにカタルシスが描かれていて面白い。そしてやっぱり、とにかくみんな楽しそうなのである。

マンガが好きな人なら、この本は抑えておいたほうが良い。コミティアのことを知らない人が読むと、新しいジャンルの雑誌をみつけたような、新境地の気分になれると思う。
 

「揺り籠から社交場まで」コミティアとは? 

イベントの括りで言うと、「創作系限定の同人誌即売会」となる。原作をパロディ化する2次創作の同人誌に対して、オリジナルの作品だけを出すルールだ。同人誌即売会とは、原則的に、個人が自分で印刷してきた本を、対面で販売するというものだ。また、販売されているもは、マンガ中心だが、小説、ゲーム、アクセなどもある。

規模としては、毎回3500~5000サークルが出展し、1万人以上の来場者が来るイベントを年に4回行っている。サークルとは、同人作家が出展する単位で、1人~複数人で出展する。

入場には、1000円のパンフレット購入が必要になる。このパンフレットには毎回必ずコミティア参加の諸注意をまとめた、参加者によるマンガがあって、私も毎回楽しみにしている。みんなとにかく愛があるのである。

コミティアを出身地とするプロの漫画家は、それこそ数えきれないほどいる。そして、それ以上に創作同人誌づくりを楽しむ、多くのアマチュアの作家がいる。出展している方の顔を見ると、20代から年配の方まで、本当に多くの老若男女が作品を出展していることに驚くし、そこここで、旧知の交わりや、新しい出会いが起きている。トキワ荘プロジェクトの漫画家白書で調査したところ、現在のプロ作家の実に1/4が、コミティアを含めた同人誌即売会でスカウトされてデビューしていたということが判った。

商業マンガ雑誌は、売れる作品を創ることが宿命だ。その世界では、エンタメ性が必須であることは「編集長の部屋」のインタビューでは、どの編集部でも聞く話であった。一方で、同人誌はそれに縛られない。

描き手が本気になるのは、仲間が自分より面白いマンガを描いたときだ。 

という、名言が巻末にあった。心意気を感じるし、あの場の雰囲気を知ると、さもありなんである。

もしこの世界を覗いてみたいと思ったのなら、8/31に開催するコミティア109に来場してみて欲しい。きっと、新しい世界を知ることが出来ると思う。

まずは会場に来て、それから、勇気をもって描き手に話しかけてみて欲しい。出来れば作品の感想を一言二言。初めての方は、こっちも照れるだろうけども大丈夫、実は描き手もシャイだ(笑)
 

【告知】
8/31の会場では、サークル出展のほかに一つイベントをやらせていただきます。マンガHONZのライターもしている小沢高広(うめ)と第2部に出ます。私はモデレーター役です。
◆Kindle ダイレクト・パブリッシング漫画トークライブ◆
マンガHONZ編集長の佐渡島も、第3部で登場します。

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トライガン(1) (ヤングキングコミックス)
作者:内藤泰弘
出版社:少年画報社
発売日:2000-06-26
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あの『トライガン』がKindle化してました!

 

地獄恋すてふ(1) (角川コミックス・エース・エクストラ)
作者:おーみや
出版社:KADOKAWA / 角川書店
発売日:2013-05-02
  • Amazon Kindle

おーみやさんの作品

 

鉄風 1 (アフタヌーンKC)
作者:太田 モアレ
出版社:講談社
発売日:2010-03-05
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太田モアレさん

 

百合星人ナオコサン 1 (電撃コミックス EX 98-2)
作者:kashmir
出版社:メディアワークス
発売日:2007-02
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kashimirさん

 

TYPOE-MOONのFate/stay night ベスト版がPS/VITAで9/18に販売。


---2014/9/3追記

コミティア30thクロニクル 第2集
作者:
出版社:双葉社
発売日:2014-09-03
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 クロニクル第2集が本日発売です!トキワ荘PJ入居者の西村ツチカの作品、お世話になっているサトウナンキ+きづきあきらさんの作品も掲載してます!

西村の『だらしな日記』は入居者によるトキワ荘PJ生活を描いてる作品の中では、一番読まれている作品だと思われ、古参ボカロPのひとりフナコシPによる、「【初音ミク】やり過ごせるだろ」は、私も作業曲にする位好きです。

そして、きづナン先生の『suicide note』は、毎度ググ~ッと来る感じなんですが、ラストが良かったです^^

第2集も、安定のお勧めクロニクルとなっておりますよー。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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