動物殺処分ゼロへ―現状を訴える高校生のプロジェクト『いのちの花~捨てられた犬と猫の魂を花に変えた私たちの物語~』

野坂 美帆2014年08月27日 印刷向け表示
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いのちの花~捨てられた犬と猫の魂を花に変えた私たちの物語~
作者:向井 愛実
出版社:WAVE出版
発売日:2014-08-22
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「この花の里親になってください。」

学生服の女の子がそう言っているようだ。鮮やかなオレンジ色の花が印象的な表紙のこの本は、青森県立三本木農業高等学校動物科学科が行っている動物殺処分ゼロを目指す「命の花プロジェクト」の誕生を描いたノンフィクションだ。美しい、生き生きと咲く花は、学生たちによる鎮魂の祈りと、決意の込められた花だ。彼女らは、この花を愛犬家の集まる場や、地域の施設などで配り、動物殺処分の現状を訴えている。

プロジェクトを始めるきっかけは、青森県動物愛護センターへの見学だった。2012年、当時同校2年だった著者・向井さんらが遠足気分で出かけたというその場所には、よく見かけるペットたちと何ら変わることのない姿の動物たちが収容されていた。だがしかし、彼らは死ぬのである。彼女らが見学に行ったその日も、動物たちの殺処分は行われていたのだ。おそらくはいつもと変わらぬ日のスケジュールとして。

案内をしてくれた職員の方がこんなことをおっしゃった。
「この殺処分は、税金で行われています。みなさんから集めたお金で、動物を殺しているんです。こんな施設、無駄なんです!」
 そこで働いている人に、こんなことを言わせてしまって、日本では今までどれだけの人がこの問題に目を向けてきたのだろう?
 何をしてきたのだろう?こんな現実があるのに。

今まで目に触れることのなかった現実に打ちひしがれてばかりの時間は長くなかった。彼女らは、立ち上がる。

 高校生だからできること、大人になってからではできないこと、自分たちができる精一杯のことを、何かしなくては!

彼女らを痛めつけたのは、ただ飼い主から離れ殺処分される動物たちの姿だけではなかった。焼却された彼らの骨が、大きな紙袋に入れられ、施設の裏に無造作に積み上げられて事業系廃棄物としてゴミ収集車の引き取りを待っている現実だ。人の骨によく似た、動物たちの骨。細く、脆い骨。人間と共に生きるよう望まれた命が、人間の都合によって奪われ、その最後にはゴミとして処分される。最期まで人間の都合によって行き先を決められている。その理不尽さ、残酷さ。

埋葬されることのない骨を、どうにかできないか。生徒たちの思いに教師から一つの光が投げかけられた。骨を肥料にするというアイディアだ。骨を細かく砕き、肥料にして土と混ぜ、その土に花を咲かせる――――「命の花プロジェクト」が生まれた。骨にレンガを振り下ろし、細かく砕く作業。動物たちを死後も傷つけるような作業は心に重い負担をかけた。骨の中から時折見つかる首輪やリードの金属片に、飼われていた日の姿を垣間見る。辛い作業が、逆に彼女たちの決意を確固たるものにしていった。

 殺処分された動物の骨を、土に還してあげたい。
形は変わってしまっても、命として続いてくれますように。

育てられた花は、動物殺処分ゼロの訴えとともに、多くの人に配られている。もう一度「命として育てられた花」。高校生たちの真摯な祈りは、見る者の胸を打たずにはいられない。そして、その花は問いかける。私たちに何かできることはないのか?

動物殺処分の問題は、今までも幾度となく取りざたされてきた。本も出版されてきた。『ペット殺処分―ドリームボックスに入れられる犬猫たち』は殺処分業務に就く動物愛護センター職員の苦悩をつづったノンフィクションとして話題になったし、ペット流通の闇を暴き法改正を巡る業者と行政の攻防を描いた『犬を殺すのは誰か―ペット流通の闇』は社会現象を巻き起こした。そのような本とこの本は、少し違う。問題を暴き、大きく声を上げる役割を担った本とは違い、本書は、どこにでもいる高校生が、自分たちにできることはないかと模索する、小さな歩みの軌跡だ。だがしかしそれは、小さいがゆえに、殺処分問題を知り、それに心を痛める者にとって、手を挙げる契機となり得る。青森県内の他の高等学校との共同プロジェクトが立ち上がるなど、「命の花プロジェクト」は広がりを見せている。

昨年、このプロジェクトはいくつかのテレビ番組で取り上げられ、多くの人の感動を呼んだ。その感動を、今度はこの一冊の本が広げてくれるに違いない。広く、また長く読み継がれることで、生きるべき命がただ愛玩する人間を失ったために殺されることの不条理を、問い続けるに違いない。私たちの無責任さが多くの動物たちの命を奪っている、しかもその処分に税金を使って。どうかこの問題に気付いてほしいと、この本の花はひたむきな輝きで訴えている。

もうすぐ夏休みも終わる。この本を特に若い学生にお勧めしたい。同じ世代の、高校生が始めたこのプロジェクトについてどう思うか、感想を聞いてみたい。もしこの本を読んだら、友達に、周りの大人に、弟や妹に、死んでいく命について話をしてみてほしい。中学生の皆さん、高校生の皆さん、そしてすべての動物を愛する大人へ、この本をこの夏最後の課題図書として推薦します。

犬を殺すのは誰か ペット流通の闇 (朝日文庫)
作者:太田匡彦
出版社:朝日新聞出版
発売日:2013-07-05
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ペット殺処分---ドリームボックスに入れられる犬猫たち (河出文庫)
作者:小林 照幸
出版社:河出書房新社
発売日:2011-09-03
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