次に来る音楽マンガは絶対ジャズだ!『BLUE GIANT』で描かれる「大人しくないジャズ」

苅田 明史2014年09月02日 印刷向け表示
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BLUE GIANT 6 (ビッグコミックススペシャル)
作者:石塚 真一
出版社:小学館
発売日:2015-07-30
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世の中には音楽マンガという素晴らしいジャンルがあります。
五感のなかで、本やマンガが最も苦手にしているのが「聴く」こと。しかし近年では音を絵で表現する技術が向上したためか、音楽マンガも多種多様になっているのです。
そのなかでも「次に来る!」と思うジャンルが「ジャズ漫画」です。


『音楽マンガガイドブック -音楽マンガを聴き尽くせ-』(松永良平 監修、DU BOOKS)やWikipediaを参考に、これまでの作品の連載が開始した年を1980年代後半からジャンルごとに分けてみました(一部レビュアーにて調整しています)。
 

「ジャズ」に加えて、『のだめカンタービレ』のようにピアノやヴァイオリンを題材にしたものを「クラシック系」、『BECK』のようにロックやパンクなどのバンドを題材にしたものを「ロック系」、歌唱や和楽器などを「その他」に分類したのが上のグラフです。

グラフを見ると、1999年から徐々に「ロック系」が台頭していることが分かります。
特に影響が強そうなのがハロルド作石さんの『BECK』と矢沢あいさんの『NANA』。主人公たちの生き様や、ライブの一体感が生々しく描かれていて、以降のロック系マンガの礎になったのではないでしょうか。
「ロック系」はその後、『デトロイト・メタル・シティ』『日々ロック』のようなギャグ系、『けいおん!』のような萌え系にまで伝播していき、発表される作品も増えています。

一方で「クラシック系」の方はというと、「ロック系」に比べて作品数は増えていません。これは想像ですが、2001年から連載が開始された二ノ宮知子さんの『のだめカンタービレ』という大金字塔が打ち立てられたため、その後に続くマンガ家が少なかったのではないかと思われます。
先日の『ヴィンランド・サガ』のレビュー(http://honz.jp/articles/-/40686)で佐渡島さんが書いていたように、『宇宙兄弟』の小山宙哉さんに宇宙をテーマに作品をはじめようと提案したところ、当初は幸村誠さんの『プラネテス』という傑作があるため描きたくないと仰っていたそうです。
いまや押しも押されもしない『宇宙兄弟』ですらそうなのですから、おそらく音楽マンガでも「あれだけクラシックが流行ってしまうと比較されてしまうし、描きにくい」という風潮があるはずです。

ところが、「ロック系」も恋愛やギャグをからめてみたり、中年のおばさんがバンドを組んでみたりと、いろんなパターンが作られてきた結果、次第にネタが限られてきたように思われます。ここ数年に比べて今年は「ロック系」の目立った新作の話が聞かれません。

そこでオススメしたい音楽マンガのジャンルが「ジャズ」です。
吹奏楽をテーマにしたマンガはいくつかあるのですが、ジャズをテーマにした作品は数年に一本しか発表されておらず、まだ音楽マンガのなかではメジャーなジャンルとは言えません。
しかし、「ジャズにしか出せない魅力」があると確信させてくれる作品が近年になって登場し始めています。
 

次に来るのは「ジャズ漫画」!

小玉ユキさんの『坂道のアポロン』という作品はその先駆けともいえるマンガで、1960年代後半の長崎を舞台に、メガネをかけた秀才と混血の暴れん坊がピアノやドラムをかき鳴らすという青春もの。

本作はアニメ化もされていて、正反対の主人公2人がジャズは即興を通じて友情を育み、仲直りし、励まし合う姿は、読んでいてとても幸せな気分になれます。
それまで仲たがいしていた2人が、急遽学園祭でセッションするシーンがあるのですが、その場面はぜひアニメ版を見ていただきたい!
マンガ版も最高なのですが、このシーンだけは正直に言ってアニメ版が優ったと思います。

このマンガは、ジャズの即興で曲の途中で突然、別の曲に移ったりしても、お互いがそれを息ピッタリに弾きこなしてみたりすることで、歌声や合図がなくても「一体感を描き出すことができる」という音楽マンガの新たな表現を生み出しました。

このように、「ジャズ漫画」にはまだまだいろんな魅力と可能性が眠っているはずです。
そして、来るべき「ジャズ漫画ブーム」に向けて、ものスゴい作品が登場したのです・・・!
 

『岳』の作者が描く「大人しくないジャズ」

山岳救助を題材とした名作『岳』の石塚真一さんの最新作が、ジャズをテーマにした音楽マンガ『BLUE GIANT』です。
主人公は高校生の宮本 大(みやもと だい)。
友人に連れられて見たジャズのライブ演奏に心を打たれた彼は、「世界一のジャズプレーヤーになる」ことを夢見て、毎日毎晩サックスを吹き続けるのです。

石塚真一さんは元々マンガ家を目指していたのではなく、表現したいことがあったからマンガ家になったという経緯を持つ方だそうですが、このマンガでは「ジャズ=大人のオシャレな音楽」を打ち破るという挑戦を試みています。

友人「大人のオシャレな音楽だべ?」
主人公「オレはジャズがオシャレだから好きなんじゃなくて……ジャズが、スゲエ熱くてハゲしいから。だから好きなんだけどな…」

作中でこんな会話が友人と主人公のあいだで繰り広げられます。
この友人が持っているステレオタイプこそ、作者が打破したいジャズのイメージ。


こんなシーンはほかにもあります。
楽譜も読めず、スタンダードナンバーも分からない大が初めてジャズバーで演奏をすることになったとき、ソロパートで思い切り大きな音を出したところ、ジャズバーに来ていた中年の男性から「うるさいんだよ!!君は!!」と怒鳴られてしまうのです。
このお客さんは、ジャズバーはムーディな大人向けの曲を流しながら、女性を口説く場所だと思い込んでいたから、大のサックスがうるさくてしょうがなかった。でもひょっとしたら、日本人の多くが同じように「ジャズは大人しい音楽」だと思っているんじゃないでしょうか。

オジサンの罵声にショックを受けた大でしたが、すぐに「へでもねえや」と開き直り、翌日からまた練習に励みます。
その様子は、「あのおじさんが考えているジャズと、オレが演りたいジャズは別物だ」と割り切っているかのよう。
このシーンでは作者が「このマンガで描きたいのは全然大人しくないジャズなんだ」と宣言しているかのようで、その潔さは本当にシビれます!


↓これが「まるで音が聴こえてくるような」最新音楽マンガの表現力ッ!

石塚 真一BLUE GIANT 1 (ビッグコミックススペシャル) より
 

『BLUE GIANT』に学ぶ、「将来の夢」との向き合い方

この作品のもう一つの魅力は、「夢との向き合い方」を教えてくれるところではないでしょうか。
主人公の大は「世界一のジャズプレーヤーになる」というとてつもなく壮大な夢を叶えるべく、受験勉強に熱心な同級生には目もくれず、本当にその先に「世界一」があるのかも分からないまま、酷暑のなかでも大雨の日もサックスを吹き続けています。

個人的に特に好きなのが、大学受験に励むクラスの友人から、音楽という才能の世界で「勝てる」という根拠はなんなのか?と聞かれるシーン。
ネタバレになってしまうのでこれ以上は書きませんが、「ああ、こうやって夢と向き合えばいいんだ」と思わず唸らされました。

巻末にはそれぞれ、その巻で主人公と関わった人たちが、主人公が「何か」を成し遂げたあとの感想を述べています。
関わった人たちが思わず応援したくなる「夢追い人」とは一体どんな人なのか。

まだ既刊3巻ではありますが、偉大なことを成し遂げようとするとき、努力や才能だけでなく何が必要なのかを教えてくれます。
大人になって「夢」なんて言っちゃってると恥ずかしい、とか思ってる人にこそぜひ読んでいただきたいマンガなのです。

ジャズフェスティバルに行ってみよう!

ちなみに物語の舞台は宮城県・仙台市。大が仙台市のシンボルとも言える広瀬川の河畔で練習する様子がよく描かれています。
「杜の都・仙台」で開催され、作中にも出てくる日本最大の街角音楽祭
「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」
今月13・14日(土・日)に開催予定です。無料なのでぜひ行ってみてはいかがでしょうか?!
http://www.j-streetjazz.com/
 

BLUE GIANT 1 (ビッグコミックススペシャル)
作者:石塚 真一
出版社:小学館
発売日:2013-11-29
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BLUE GIANT 2 (ビッグコミックススペシャル)
作者:石塚 真一
出版社:小学館
発売日:2014-03-28
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坂道のアポロン (1) (フラワーコミックス)
作者:小玉 ユキ
出版社:小学館
発売日:2008-04-25
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音楽マンガガイドブック (音楽マンガを聴き尽くせ)
作者:
出版社:DU BOOKS
発売日:2014-03-14
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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出版社:中央公論新社
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