世界に住むすべての人々に読んで欲しい、業田良家の話

兎来 栄寿2014年09月05日 印刷向け表示
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あなたは業田良家という名前をご存知でしょうか。

業田良家先生は、漫画界の大哲人であり、超一流の社会派漫画家であり、人間を心から愛している作家です。

業田良家先生の作品の素晴らしさ、普遍性、人や社会の本質を抉り迫る様は、手塚治虫先生や藤子不二雄先生といったビッグネームと並べても遜色がないと言って良い程です。しかしながら、知名度という点では圧倒的に低く、作品の内容や業績に全く追い付いていないというのが現実です。

ビッグコミックの読者なら、名前は覚えていなくてもマンガは読んだことがある、という方も多いかもしれません(余談ですが、ビッグコミックは「ビッグ」であって決して「ビック」ではありません。ビックなのはカメラだけです、と業田良家先生の担当編集の方は常に主張なさっています。しかし、実際に大手メディアでも間違えた呼称を使っていることも多いです)。ただ、ビッグコミックのメインターゲット層だけに留まらず、もっと女性にも、子供にも届いて欲しい。

私は声を大にして訴えたい。世界はもっと業田良家に注目すべきである、と! 

業田作品がより読まれることによって世界の幸せの総量は増加し、平和が近付くことは間違いありません。今まではメディアなどとも縁遠かった業田良家先生ですが、幸いにして最近では手塚治虫文化賞を受賞したり、テレビでもその作品が取り上げられたりするなど、少しずつ世間での露出が増えて来ました。この機運に乗じて、私からも猛プッシュさせて頂きたいと思います。

業田良家先生の作品は短編も多く、今回紹介するものもどれも一冊だけ手に取っても楽しめる物となっています。「面白いマンガを読みたいけど、あまり長いのはちょっと……」という方にも強くオススメです。

独裁君

独裁君 (ビッグコミックススペシャル)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2008-07
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いきなり、ちょっと重い作品を持って来ますが……

この本に収録された短編「慈悲と修羅」。 私は、この18ページの物語を、世界に住む全ての人に読んで貰いたいと切に切に願っています。この短編が描くのは、チベット問題。あまり大々的にこの問題が報じられることのない現代日本で平和を享受している私達には、およそ実感の湧かない、しかし今もなお現実に起き続けている陰惨極まる悲劇です。ここで描かれる残虐な拷問や、敬虔な仏教徒に対する精神的陵辱の限りは、決して知らないままでいて良いものではありません。読むと、激しい嘆きや憤りが生じることでしょう。実際には、ここに描かれている以上のことも行われているといいます。文章だけでは千の言葉を尽くしても伝わり難い現実が、マンガという表現によって描かれることでその悲惨さをダイレクトに伝えてきます。業田良家先生の絵はかなりデフォルメが効いたタッチですが、しかしこの絵柄でこの内容が描かれるからこそ、その主張が際立ちます。マンガの持つ力という物をも、改めて考えさせられる内容です。私は、中学生や高校生に教科書と一緒にこの短編マンガを配布しても良いと考えます。

この本のメインは、ヒトラーやスターリン、金正日といった世界の独裁者たちへの激しい風刺の効いた4コママンガであり、それも勿論面白いのですが、「慈悲と修羅」及び、北朝鮮を描いた「シャルルの女」「シャルルの男」は非常にシリアスで、人として、この世界に生きる人間として、一読しておくべき作品です。

 自虐の詩

自虐の詩 上巻
作者:業田 良家
出版社:竹書房
発売日:2007-08-24
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自虐の詩 下巻
作者:業田 良家
出版社:竹書房
発売日:2007-08-24
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業田作品で最も有名なのは、映画化もされたこの作品でしょう。実際、私が初めて単行本を買った業田作品も、この『自虐の詩』でした。この作品の触れ込みは、「日本一泣ける4コママンガ」。普通、4コママンガといえばギャグマンガです。泣けるようなストーリーをやりたいのであれば、明らかに普通のコマを割って抑揚を付けられるマンガの方が有利でしょう。どんなものなのか、と気になって手に取りました。正直、最初は面白いと感じなかったのです。絵柄もギャグもあまり肌には合わないな、と。それでも「最後まで読んで欲しい」「終わりまで読めば解る」という大多数の声を信じて最後まで読んだら……

もう、まんまと感銘を受けてしまいましたよね。私のように最初は微妙だと感じる方もいるかもしれませんが、この作品だけは最後まで読み切って下さい。

幸江という名前ながら、ずっと不幸な目に遭い続けた主人公が、最後に至った境地。

幸や不幸はもういい。
どちらにも等しく価値がある。
人生には明らかに意味がある。

映画版の最後でも同じ文言で読まれる手紙は、どんなに辛い境遇にある人の人生をも肯定する比類なき名文です。そして、最後に出て来るこの至高のモノローグ。これらの言の葉は、私の血肉となって長らく心の支えとなっています。

物語は心と魂の栄養源であり、そういう意味で今作は最高のご馳走です。

新・自虐の詩 ロボット小雪
作者:業田 良家
出版社:竹書房
発売日:2008-07-30
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「新・自虐の詩」のタイトルを冠する『ロボット小雪』も傑作です。同じく、序盤の下ネタ混じりのギャグパートを読んでいる時は「う~ん……?」と唸ってしまっていました。が、後半は『火の鳥』『鉄腕アトム』を髣髴とさせるような、ロボットが心を持った時というテーマに加え、格差や富といった社会的な命題も語られます。

 ゴーダ哲学堂

ゴーダ哲学堂空気人形 (ビッグコミックススペシャル)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2000-02-01
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ゴーダ哲学堂悲劇排除システム (ビッグコミックススペシャル)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2002-06
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 私が、業田作品の中で最も好きなのが、この『ゴーダ哲学堂』シリーズです。

一話完結型の短篇集なのですが、その一つ一つのお話に込められたテーマ性の深さ、訴えの切実さたるや! 愛とは何か、幸せとは何か、正義とは何か、人は何のために生きて行くのか……一篇は僅か16ページ程なのですが、「哲学堂」というタイトルに相応しい、深い洞察がそこには存在します。16ページの短編マンガとしてはあまりにも有名な萩尾望都先生の『半神』がありますが、『半神』を読んだ時と同じように、マンガというのはこの僅かなページ数にこれだけの物を込められるのだな、と感嘆せずにはいられません。

この世からあらゆる悲劇を排除したら世界はどうなるのかを描いた「悲劇排除システム」や、素粒子や「空」「物自体」「神」といった概念で世界を解体しつつ最終的に愛という究極の奇跡に帰着させる「原子的ラブレター」など、私は愛して止みません。

業田先生は、人間存在や社会を時に冷厳に見据えつつも、しかし根底では深い愛情を以って希望と共に包み込みます。この本は、読めばきっとあなたの人生の財産となります。もしも今読んで響かなかったとしても、何年か経ったらまた読み直してみて下さい。様々な経験と年齢を重ねて再び紐解いた時、この一つ一つの輝く結晶はきっとまた違った感動を与えてくれるでしょう。又、誰かにプレゼントするにも最適な本であると思います。私がこの本を誕生日プレゼントにでも貰ったとしたら、贈ってくれた相手を一目置いてしまうでしょう。

ゴーダ哲学堂 (竹書房文庫 GY 8)
作者:業田 良家
出版社:竹書房
発売日:2007-08-24
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 尚、『空気人形』『悲劇排除システム』両作品を収録した文庫版も発売されております。こちらに関してはKindle化はされていないのですが、この文庫版に書き下ろされたあとがきは、業田先生入魂の名文となっておりますので、一見の価値ありです。そう、人間は「真・善・美」で生きているんだ……!

 機械仕掛けの愛

機械仕掛けの愛 1 (ビッグ コミックス)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2012-07-30
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機械仕掛けの愛 2 (ビッグコミックス)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2013-07-30
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先日「5時に夢中!」にて紹介され、実店舗やAmazonなどでも売り切れ続出の、第17回手塚治虫文化賞短編賞受賞作。NHKでラジオドラマ化もされ、名実共に業田良家先生の代表作と言って良いでしょう。

こちらも、一話完結型の短編集です。上記の、『ゴーダ哲学堂』や『ロボット小雪』などでも描かれて来た、「心を持ったロボット」というテーマに今一度踏み込んだ物語群となっています。子供や老人と触れ合う、感情を持った純粋無垢なロボット達のお話は、ハートフルでとても感動的です。

しかし、この作品が凄いのは、そういった従来の「心を持ったロボットとのコミュニケーションによって生ずる感動」のみならず、戦闘用に作られたロボットや尋問用に作られたロボットたちが送るハードな物語も同時に描かれることです。その双極性によってそれぞれのテーマが立体化し、どちらもより痛烈に刺さって来るのです。業田先生は、ロボットを描くことによって、間接的にどこまでも人間を掘り下げて行きます。

今この瞬間に飢えている人に法を犯してでも食べ物を分け与えることは不正義なのか?

何かを築き上げてもいつかは天災などによって無に帰ってしまう不条理を前に、人間は諦観するしかないのか?

様々な哲学的な問い掛けに、業田先生は果てしない希望と愛情を以って筆を尽くします。誰かの為に何かを為すことの尊さは、決して失われることのない永遠性を持つのだと。そう、この作品は、負の面も含めた人間賛歌の究極形なのです!

なお、『機械仕掛けの愛』は以下のサイトで試し読みができます。

http://big-3.jp/bigcomic/rensai/kikai/

業田作品の導入として四作品程紹介させて頂きましたが、業田良家先生はこれ以外にも数多くの名作を執筆されています。これらの作品を気に入ったら、是非他の作品にも手を伸ばしてみて下さい。

何が幸せかというのは人やその時々によって変わりますし、そもそも幸せに拘らず囚われず、ただ今を生きてその妙味を噛み締めれば良いのだと『自虐の詩』で謳われていますが、ただ確実に一つ言えることは、これから数多の名作溢れる業田作品に触れる人は、間違いなく幸せであろうということです。

男の操 (上) (BIG COMICS SPECIAL)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2006-11-30
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男の操 下 (2)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2006-12-26
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女はつらいよ (ビッグコミックススペシャル)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2006-06
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神様物語 (ビッグコミックススペシャル)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2010-09-30
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世直し源さん―ヨシイエ童話 (1) (竹書房文庫)
作者:業田 良家
出版社:竹書房
発売日:2005-11
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世直し源さん―ヨシイエ童話 (2) (竹書房文庫)
作者:業田 良家
出版社:竹書房
発売日:2005-11
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世直し源さん―ヨシイエ童話 (3) (竹書房文庫)
作者:業田 良家
出版社:竹書房
発売日:2005-11
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祝福屋福助大入 (ビッグコミックススペシャル)
作者:業田 良家
出版社:小学館
発売日:2012-08-30
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