9月のこれから売る本-トーハン 吉村博光

吉村 博光2014年09月21日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

先日、テレビで偶然、青いバラを目にしました。番組は、たしか・・・ドラマ「金田一少年の事件簿」でした。「じっちゃんの名にかけて」というアレです。その時、私の中で何かがカチリと音を立てて「今月のHONZの1冊目は、『美酒一代』でいこう!」と決まりました。

音楽の殿堂・サントリーホールには、ブルーローズというホールがあります。数年前に私が行ったときも、とても自由で心地良い空気が流れていました。英語で「Blue Rose」といえば、もともと「不可能(存在しないもの)」の象徴。様々な困難を乗り越えて、サントリーは、2008年に見事その開発に成功しました。花言葉は「夢 かなう」。当時の社長は佐治信忠氏。“やってみなはれ”精神で有名な創業者・鳥井信治郎氏は、その祖父にあたります。 

美酒一代―鳥井信治郎伝 (新潮文庫)
作者:杉森 久英
出版社:新潮社
発売日:2014-07
  • Amazon
  •    
  • honto
  •  
  • e-hon
  •  
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  •  
  • HonyzClub

本書は、赤玉ポートワインからウイスキーへ・・・現代に通じる、サントリー創業者鳥井氏のイズムを、伝記文学の第一人者が描き出した一冊です。「自分の仕事が大きくなるか小さいままで終るか、やってみんことにはわかりまへんやろ」オビに書かれたこの言葉は、非常に共感を呼ぶ言葉だと思います。でも、大事なのはそこから表面的に伝わってくる“猪突猛進さ”ではなく、豪胆さと緻密さ、そして挑戦する気持ちの素晴らしさだと思います。

ワインと歯磨き粉がうまくいきながら、ウイスキーとビールがうまくいかずに経営に行き詰ったとき、鳥井氏は歯磨き粉とビールを手放す決断をしました。通常なら、莫大な費用がかかり先が見えなかったウイスキー事業を手放すところかもしれません。しかし、誰もやっていないからこそ、そこに大きな可能性があることを感じとっていたんだと思います。その緻密さ、豪胆さ。まさに「選択と集中」のお手本のような決断。感動を覚えました。

この様に会社は様々に形をかえますが、その行動の中には揺るぎない信念を感じました。「まず、良いものを作る」「そして、上手に伝える」。徹頭徹尾、この考え方が貫かれていると思ったのです。本書を読む少し前に、私は目上の方から「仕事の半分は、伝えることだ」という言葉をいただき、挑戦をはじめているところでした。本を紹介する私の仕事のファーストステップは、「作る」というより「選ぶ」ことですが、その素晴らしさを「伝える」表現方法をドンドン工夫したいと考えています。

ほろ酔い文学事典 作家が描いた酒の情景 (朝日新書)
作者:重金敦之
出版社:朝日新聞出版
発売日:2014-03-13
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

この本は、面白いです!こんな身も蓋もない表現で、本を紹介するのは、初めてのことかもしれません。恐縮ながら、読む前の期待をはるかに超えました。著者は多くのベストセラーを生み出した元編集者で、現在は文芸ジャーナリストをされている方。著書もたくさんありますが、恥ずかしながら、私は読んだことがありませんでした。略歴に目を通した時にきっとスゴい薀蓄をお持ちなんだろうナと思いましたが、酒食や文藝にどれほど深い愛情をお持ちかがわかりませんでした。でもその愛情たるや、もの凄いものがあったのです。

章立ては、ビール、ウイスキー、ワイン、スピリッツ・・・というように、酒の種類別になっています。ここに、各作家の名文を挿みながら解説が加えられていくわけですから、最初はなんとなく、大学の講義的な内容を思い浮かべていたのです。でも、全然違いました。重ねていうのもなんですが、その愛情たるや、もの凄いのです。どう凄いかというと例えば・・・

ワインの章で名文を紹介するのに、開高健の『ロマネ・コンティ1935年』を挙げるのは、多くの人が思いつくでしょう。しかし、著者の重金氏は、ロマネ・コンティの畑に実際に行ったことがあるのです。そして、晩年、病魔に犯された作家が、ジンギスカン料理屋にロマネ・コンティを持ち込み、焼酎のコップで無作法に飲んだエピソードに触れています。「ワインに対する冒涜」だという周囲の怨嗟の声に、「無礼という作法もあるわな」と作家が嘯いたという話には、思わずシビレてしまいました。

この本でとりあげられている作家は、内田百閒、ディック・フランシス、村上春樹、山口瞳、池波正太郎、檀一雄・・・まさに縦横無尽。その流れるような筆致には、まったく淀みがありません。油断しているとつい時間を忘れて、夢中になって読んでしまう一冊です。

哀愁の町に霧が降るのだ 上 (小学館文庫)
作者:椎名 誠
出版社:小学館
発売日:2014-08-05
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
哀愁の町に霧が降るのだ 下 (小学館文庫)
作者:椎名 誠
出版社:小学館
発売日:2014-08-05
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

上述の『ほろ酔い文学事典』によると、椎名誠は「世の中で一番旨いものは、和洋中、飲み物というジャンルを超越して、とにかく『ビールが最高』」と確信しているそうです。椎名誠いわく、中華料理屋のビールには「三悪」があって、①キンキンに冷えすぎていること、②栓を抜くときにコンコンと叩くこと、③洗ったばかりでビショビショのコップが出てくること、なのだとか。これが揃うと、もはやビールではなくなるとのご指摘。小さな丸い椅子に座り、クビを長くして、美味しいビールがでてくるのを待っている姿が目に浮かびます。

私が若い頃、「新橋烏森口青春篇」というドラマがありました。こんなサラリーマン生活も良いなぁと思いながら、ドハマりして原作を読んだ記憶があります。その後、何冊か椎名誠の本を読んだのですが、傑作の誉れ高い『哀愁の町に霧が降るのだ』は、なぜか読んだことがありませんでした。しばらく入手困難だったようですが、この度、小学館文庫からメデタク復刊されたときいて、早速読むことにしました。

この本の面白いところは、なかなか始まらないところです。そしてやっと始まったと思ったら、男ばかりの4人暮らしで金もないのに、何かにつけてスグ「よぉし、飲もう!」となってしまうところです。ダラダラとしてるのに、なんだか凄くテンポが良い。そして、登場人物の行動に(おそらく本能的な)説得力があります。だから読み手は、気づくと、A地点からB地点に連れて行かれてしまうのでしょう。この本を8月に大きく展開されていた書店さんにお話をうかがったところ、「このように絶版になっている名作が結構あるので、ぜひ復刊してほしいんだよねぇ」と、目を細めてらっしゃいました。なんと、山口瞳さんの名作『居酒屋兆治』も、いまや絶版なんだそうです。脱線しましたが、酒つながりということでお許しください。

ウイスキーぴあ
作者:
出版社:ぴあ
発売日:2014-09-18
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

“ほろ酔い”“哀霧”・・・さぁいよいよ、ウイスキーでもビアでも、何でもいいから持ってこい!的な流れになってきました。そこで本書のタイトルを「ウイスキービア」と読んでしまった方もいらっしゃるかもしれません。申し訳ありません。それは空目です(笑)。全体の流れを無視して恐縮ですが、今回はウイスキーの本で締めたいと思い、じつは懐で一冊熟成させておりました。最後にご紹介するのはこの本、『ウイスキーぴあ』です。いま知りたいウイスキーに関する知識が、ストンのトントンと頭に入ってくる優れもので写真も満載。早速、目次から抜粋します。

 ジャパニーズ・ウイスキーの2人の巨人「鳥井信治郎と竹鶴政孝」/おいしいウイスキーができるまで/世界のウイスキー名ブランド図鑑/ウイスキー広告を変えた2人のコピーライター「開高健と山口瞳」・・・

余計な知識が詰まり過ぎず、かといって「そんなの誰でも知ってるよ」という軽薄な内容でもありません。私の周囲にいる酒飲みの方もその取り巻きの方々も、この本を見たら次の瞬間には両の眼(まなこ)が琥珀色に輝いちゃったわけですから、ウイスキーを見たことがある方には間違いなく価値ある一冊なんだと思います。ぜひ皆さん、秋の夜長に「粋な大人の酒、ウイスキーを飲もう!」。あっ!これはまるで“哀霧”の克美荘の世界ですね。

近頃は、コンビニエンスストアでも、たくさんのウイスキーが並んでいます。昨日はオールド、その前は角。先週は、確かトリスを買って帰ったなぁ。なんて思いながら、山崎をぶら下げて帰った夜。とうとう、妻のカミナリが落ちました。あぁ高すぎるのか。限度額を超えちゃったんだな。と思っていたら、なんと次に出てきたのが「うわぁ、もうオッサンだね!」という言葉でした。その後、娘と「クサい。クサい。」の大合唱。それにひとり背を向けながら、「男の酒。トリス」という古いコピーをつぶやく私。

明日は、ワインにしようかな。 ⇒よわっ! 
 

吉村博光 トーハン勤務
夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。ほんをうえるプロジェクト TEL:03-3266-9582
記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら