アラサー女子マンガとは危険ドラッグだ!『東京タラレバ娘』が繰り出すアメとムチ

ひらりさ2014年10月09日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「アラサー女子」であふれた世界

25歳の誕生日を迎えた。「これで私もアラサーだわ」的なことをつぶやいていたら「25歳はアラサーじゃないですよ」とツッコミを入れられたのでwikipediaを確認してみたら、たしかに主に「27歳以上33歳以下を指す」と書いてあった。「アラサー」という言葉が最初に使われたのは2005年11月の女性誌の紙面上で、もう9年もの歴史があるようだ。

漫画界も、現在「アラサー女子もの」であふれている。その走りとなったのは、『きみはペット』、『サプリ』、『働きマン』あたりだろうが、『娚の一生』『すーちゃん』『失恋ショコラティエ』『食う寝るふたり住むふたり』『ティファニーで朝食を』『5時から9時まで』『きょうは会社休みます。』などなど、ほかにもえんえんとタイトルが思い浮かぶ。作品のなかで主人公たちが「アラサー」を呼称する場合すら出てきた。

そんなアラサー女子もの業界に新たに殴りこみをかけてきたのが、東村アキコの『東京タラレバ娘』である。 

東京タラレバ娘(1) (KC KISS)
作者:東村 アキコ
出版社:講談社
発売日:2014-09-12
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

「アラサー女子会」とか言ってるから独身だったのか……(衝撃)

主人公は鎌田倫子33歳、脚本家(ただしネットドラマ)。自分ではけっこうイケてると思ってるけど、独身。女ひとり暮らせるだけの収入はあり、仕事に打ち込んではいるけれど、結婚願望を捨てきれない。昔振ったテレビ局のAD(現ディレクター・メガネ男子)がいまだに自分のことを好きなのではないかと勘違いして大撃沈したり、せっかく決まっていたドラマの脚本をプロデューサーの愛人と思しきギャルに奪われてしまったりする。このまま東京オリンピックを40歳独り身で迎えたらどうしよう……。


アラサーにありがちな「あの人まだあたしのこと…」
13ページより
そんな彼女の心の癒やしは、同い歳で同じく独身彼氏ナシな女友達二人との大衆居酒屋での女子会。美味しいつまみと酒を飲みながらみんなで愚痴りあえばまだまだ頑張れる、と思っていたのに、そのオアシスに突如あらわれた謎の年下イケメン男子。「うるさい」「『◯◯だったら』と『◯◯すれば』」ばっかり言ってたからそんな歳まで独身なんだろ」「もう女の子じゃないんだよ?」などなどの罵倒に怒りを覚えながらも反論できない自分に気づき……というあらすじである。

女子会に突如あらわれたイケメン毒舌男
63ページより
弊社上司の机に置かれていた『東京タラレバ娘』、「これ、絶対ひらりささん読んだほうがいいよ」と27歳女子の先輩に言われてついつい盗み読み、まるで流水をあびて「うぉ、うぉーたーーーーっ!」と叫んだヘレン・ケラーのように、あるいは公衆浴場でお湯があふれるのを見て「アルキメデスの原理」に思い至り「エウレカ!」と叫んだアルキメデスのように、その場で大声を上げそうになった。もちろんすかさずKindle版をポチった。

昔自分に告白してきた男に久しぶりに誘われて喜びいさんでとびきりのおしゃれをしていったり(そして全然見当はずれだったり)、微妙に敬遠していたお見合いパーティーにしぶしぶ赴いてみたら案の定男たちは冴えなかったけど女の子たちが軒並み自分たちより若くて可愛くて絶望したり……倫子と友人二人が繰り広げるアラサー女子の生活には、「これこれ、これだよ、アラサーっていうのはさあ!」みたいな、かゆいところに手が届くような絶妙のカタルシスがあった。それが気持ちいいと同時に、「だめだ早くこいつらを人目につかないところにやってくれ!!」みたいな、まるで自分のプライベートがさらされているような、すさまじい羞恥心もこみあげたのだった。


気があると思っていた男にフラれた後の「行き遅れ女の井戸端会議」(by毒舌男)
39ページより

イタ気持ちいい、最高の「危険ドラッグ」

すべてとは言わないが、「アラサー女子もの」というジャンルには、多かれ少なかれ「自己啓発本」的な側面と「危険ドラッグ」的な側面があると、私は思う。

10代のころは、学園ラブコメの主人公が「わたしは普通の16歳の女の子!」なんてアピールしていても、「はいはい、でも顔面が可愛いし、性格もいいし、何事にも一生懸命だし、コミュ力も高いし、ヘタすると何らかの特権的な身分や能力の持ち主だったりするよね」ときわめて冷静に、距離をおいて読むことができた。

しかし20代も半ばを迎えたいま、アラサー女子ものの主人公が「わたしは恋と仕事と人生に悩む普通のアラサー女子!」なんて言っていると、もうそれだけで心のガードが下がってしまって、彼女の恋と仕事と人生を我が事のように応援してしまい、「あーなんて私の気持ちをわかってくれるマンガなんだ!」「あー◯◯みたいにがんばろう!」というイタ気持ちよさと共感とがないまぜになった謎の高揚感につつまれてしまう。

急に33歳処女がイケメンたちに迫られるようになろうが(『きょうは会社休みます。』)、27歳英語講師が無理やりさせられたお見合いで知り合ったイケメン東大卒僧侶に追い掛け回されようが(『5時から9時まで』)、なんだか感情移入しちゃうのである。

きょうは会社休みます。 1 (マーガレットコミックス)
作者:藤村 真理
出版社:集英社
発売日:2012-04-25
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
5時から9時まで 1 (Cheeseフラワーコミックス)
作者:相原 実貴
出版社:小学館
発売日:2010-06-25
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

 もちろんそれが心のサプリメントとして機能する面もあるだろう。だがしかし本当は忘れてはいけないのだ。アラサー女子マンガがアラサー女子に見せている9割は、リアルではなくて夢だということを。現実の私たちが、マンションの前で年下ワンコ系イケメンを拾ったり、突如ナイスミドルに想いを寄せられ同居することになったり、昔振った男がイケメンショコラティエになっても自分のことを愛し続けてくれるようなことは、そうそうないのである(いやもちろん、そんなこと百も承知でみなさん読んでいるのかもしれないけど!)。


アラサー女子を夢から覚ます『東京タラレバ娘』のゆるキャラ(?)タラとレバ
24ページより

「アラサー女子」という免罪符にあぐらをかかないために

『タラレバ娘』には、読者にそうした「夢」を見させないだけの残酷さ(あるいは優しさ)がある。倫子たちの「アラサー女子会」は「行き遅れ女の井戸端会議」とののしられるし、倫子が酔って転びそうになれば「酔って転んで男に抱えて貰うのは25歳まで」と拒否られる。倫子や読者が「アラサー女子」というレッテルにあぐらをかくことを許さない、きわめてメタ的な視点がかいまみえるのだ。

その一方で、『東京タラレバ娘』にも「夢」的な側面はたくさんある。そもそも倫子の「脚本家」という職業だって、たとえあんまり売れていないにしてもかなり華やかな部類であるし、飲み屋でイケメン男子からののしられるなんてことも普通はないし、ましてそのイケメンが◯◯で、まさかラスト数ページであんな展開になるなんてことも98%の女子にはないだろう。

東京タラレバ娘 待望の3巻発売です!

東京タラレバ娘(3) (KC KISS)
作者:東村 アキコ
出版社:講談社
発売日:2015-08-12
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
脳内ポイズンベリー 1 (クイーンズコミックス)
作者:水城 せとな
出版社:集英社
発売日:2011-05-19
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
失恋ショコラティエ 1 (フラワーコミックスアルファ)
作者:水城 せとな
出版社:小学館
発売日:2009-01-09
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)
作者:西 炯子
出版社:小学館
発売日:2009-03-10
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事