フードポ〇ノマンガの最終兵器『ラーメン大好き小泉さん』。この誘惑にあなたは抗えるか?!

永田 希2014年10月15日 印刷向け表示
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一部のマンガ好きのあいだでヤバいヤバいと話題になっており、ツイッターのタイムラインにも何度か作品名が流れてきてまして、この作品の存在は知っていたのですが、正直なところ食べ物系のマンガも、ラーメン(とりわけ二郎)についての自虐的なネタ消費にも、かなり辟易としており、一生読まないんだろうなと思っていた作品です。

 

なんでそんな作品を取り上げようと思ったのかというと、この作品、たしかにラーメンを主題にしてはいるのですが、ラーメンの美味しさを描こうとしているというよりも、むしろラーメンを美味しく食べている登場人物の可愛らしさをこそ描こうとしているからです。しかも単にその様子が可愛いというわけではなく、どこかしら異様

「このマンガはクトゥルー的ですよ」と、マンガソムリエの兎来栄寿さんとBook Newsで毎週マンガの傑作を紹介してくれている石川詩悠さんに薦められて、わけがわからないまま手に取りました(ちなみに兎来さん自身による本作の紹介はこちら。これがマトモな紹介なんでしょう。でもクトゥルーのクの字も出てこない)。

作品を読んでみて、結論から言うと確かにクトゥルーでした。『這いよれ!ニャル子さん』の例を挙げるまでもなく、美少女とクトゥルー神話の相性は良いのですが、…いや、その話に深入りするのはやめておきましょう。

この記事のタイトルに書いたとおり、本作は「フードポ〇ノマンガ」(※)の最終兵器もしくは最新バージョンだと考えられます。最近もっとも成功した「フードポ〇ノマンガ」は『花のズボラ飯』だと言って異論のある人はいないでしょう。Amazonレビューで「下品」「汚い」「生理的に無理」などと見事にバッシングされていた『花ズボ』。『花ズボ』は食とエロの両立、もしくは両者の交換という実験ゆえのギリギリな表現であり、嫌悪感を持つ人がある程度あらわれてくるのは当然の成り行きでした。

花のズボラ飯1
作者:久住昌之
出版社:秋田書店
発売日:2010-12-01
  • Amazon Kindle

まあ、普通の人は『花ズボ』くらいの描写でエロいだの下品だの言ってればいいと思います。そういう人は『ラーメン大好き小泉さん』(以後『ラーこい』)を読んでも何が何だかわからないんじゃないでしょうか。『花ズボ』に漂うエロスが、未熟な熟女あるいは人妻的存在という禁忌性にあるのだとしたら、『ラーこい』のエロスは触手系つまり異形性にあるのです。いわば『L〇』的に対して『フラミンゴ』的というか…。ラーメンは触手なんです。僕は知ってましたよ。

かつてマンガ評論家でエロ漫画研究の第一人者である永山薫氏が著書『エロマンガスタディーズ』において、男性読者も女性キャラに同一化しているのではないかという重要な指摘を行っていたことを思い出してみましょう。

素朴に考えれば、『ラーこい』において読者は自身の性別をいったん保留して、ラーメンをすする少女に没入している、と仮定することができます。しかし読者がみずからの性別を保留することができるのであれば、もはや保留するのは性別だけでなくても良いはずです。読者はみずからの人間性、身体性を保留することすら可能です。そう、読者はむしろラーメンになって美少女に美味しく食べられたいのではないか。

読者は人間であることを保留し、いったんは単なる「マンガを読む眼」そのものへと自分を抽象化するのですが、次いで描かれている少女の姿へと自己を投影しようとする。しかしその「投影」の試みの最中に、少女に摂取され、少女と同一化しようとするもうひとつの対象が現れ、少女にとって代わろうとする。もうひとつの対象、それがラーメンなのです。

読者がラーメンになろうとしている、というこの主張は、やや突飛に過ぎると思われるかも知れません。ではこう考えてみてはどうでしょうか。

食べ物とは、たとえば鍋を囲むという場合に機能するように、人と人を繋げる役割を持っています。食事は、食べている人それぞれの孤独な楽しみでもあります。『同じ月を見ている』ならぬ、「同じ店に来ている」とでもいうような、離れたまま一体感を味わう感覚。

『花ズボ』において、主人公の花がなかなか帰ってこない夫を想いながら食べる料理は、そこに居ない夫への愛情を帯びているのと同時に、自慰的な快楽を花に与えてもいる。この両義性が一部の読者の不快感や拒絶感を呼び起していたのかも知れません。『ラーこい』においては、主人公の大澤さんと小泉さんの絶妙な距離の在り方に、この食の両義性が現れています。主人公的ポジションにいる大澤さんがほとんど登場しないエピソードでも、常に「小泉さん+別の美少女」という構図が保たれていることは重要です。

読者は、普通のマンガに感情移入するように大澤さんや小泉さんに同一化しつつ、彼女たちの気持ちを繋げ、かつ彼女たちのそれぞれに個人的に摂取されるラーメンにもまた同一化したいと願ってしまう。『ラーこい』を読んでいる人にとって、ラーメンは単なる登場人物たちのコミュニケーションツールなどではなく、自分たちの生きている三次元と作品世界のある二次元とを架橋し通底させるある種のゲートになり得る。そのゲートをくぐり、そのゲートと同一化する。読者は描かれているラーメンを食べたい思うよりもむしろ、ラーメンになりたい、ラーメンになって美少女に美味しく食べられたい、という欲望をこそ喚起されてしまう。

私は人間をやめてラーメンになりたい。

そういう叶わぬ欲望が否応なく喚起され悶えざるを得ない、そういう快楽を与えてくれるのが本作です。深夜の飯テロで「あー、焼き肉食べたい!」とか「こんな時間だけどケーキを食べたい!」とか思うよりも、また「仕事がダルい、エンドレスでチョコレートを口から流し込まれたい」とか思うよりも、自分自身がラーメンになって美少女を中毒にさせたい、と思ってしまう。

ラーメンを食べたい気持ちは、それだけでどこかしらはしたない欲望です。

栄養の偏った、快楽物質を素直に過剰供給されたいという、淫らな欲求。

現実に生きている自らの肉体という束縛を逃れ、描かれた美少女にいいようにすすられ味わわれたい、という自己否定的な願望もまた卑猥だと言えるでしょう。本作は、その双方をきわめて高純度で結びつける、きわめてジャンクでエロティックな試みなのです。

ラーメン大好き小泉さん(1) (バンブーコミックス)
作者:鳴見なる
出版社:竹書房
発売日:2014-10-07
  • Amazon Kindle

※フードポル〇、フード〇ルノ、どう書いても良いのですがそのまま文字列を出すとSEO的に懸念があるということで敢えて伏字にしています。

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