沖縄には沖縄だけでしか読まれないマンガがある? 沖縄マンガのディープな世界『山原バンバン』

小沢 高広2014年10月26日 印刷向け表示
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「しまった…… うふそーじらー見られた……」
うふそーじらー?
わからーん。なに言ってるか、ぜんぜんわからんよー。

まあ、そう思うのも無理はない。これは人口約1万人、沖縄北部にある山原(やんばる)の言葉で「まぬけ顔」という意味。「山原バンバン」は、その山原に住む女子高生なつみの日常の物語だ。学校、オリオンビール、ビーチパーティー、夏祭り、運動会、キジムナー。著者が山原出身、山原在住ということもあり、エコやロハス、スローライフといった手あかにまみれた南国像ではない、リアルな生活が描かれている。

この本を最初に読んだのは20年ほど前。石垣島のあやぱにモール(現・ユーグレナモール)にある山田書店で見かけた。宿の100円のコインクーラーをケチるような貧乏旅行。タダで涼もうと書店に行ったときのことだった。ちょっと立ち読みのつもりがとまらなくなり、結局購入。クーラー代より高くついたけど、後悔はなかった。当時、それなりにマンガは読んでいたと思う。なのに名前すら知らないというのは、マンガ読みとして驚いたのと同時に少々悔しかった。出版社はボーダーインク。掲載誌は『コミックおきなわ』? …聞いたことない。
ボーダーインクは、当時の自分が知らなかっただけで、沖縄では大メジャー出版社だ。実は、沖縄は出版社が多い。大きなところだけで10社前後。小さなところまで含めると100社近くあるともいわれている。県の人口が130万人であることを考えると、東京などの一部の大都市部をのぞけば、ダントツの多さだ。そしてもうひとつ沖縄出版業界の大きな特徴がある。それは沖縄で作られる本の大半が「沖縄県産本」と呼ばれる基本的に沖縄県内でのみ流通している本という点にある。『コミックおきなわ』もそんな県産の雑誌のひとつだった。

そこに連載されていた『山原バンバン』。
おそらく想定されていた読者は、ウチナーンチュ(沖縄人)が中心だったろう。もちろんシンプルな女子高生日常物として楽しむこともできるが、ナイチャー(内地人)が読むと作品との距離感がおもしろい。

朝の通学時間。まだ6月だというのに真っ黒な影ができるほどの日差し。歩いていくといつもあるはずの森がなく、重機が木々を伐採し、ゴルフ場の駐車場が作られている。その光景に対して、遠くはなれたところに住む我々が「自然を守れ!」と声をあげるのは簡単だ。でも、なつみは違う。
「日焼けするんだのにー」
もちろんなじみの大きな木々が斬られることに対する抵抗感は、なつみにもある。だが、その抵抗感は「自然を守れ!」といった直接的な言葉でなく、女子高生にとって目下の問題「日焼けしたくなーい!」という言葉に帰結する。十代のリアルってこんな感じだよねー、とすごく腑に落ちる。
地元のお祭りに出るのがめんどくさかったり、出たら出たで楽しかったり、テストで赤点とって、補習に出るのがめんどくさかったり、でも部活に通う幼なじみの男子の自転車の後ろに乗せてもらったり。住む場所は遠く違っても「わかるわかる」という親近感を感じる。
一方、やっぱり遠くなんだなあ、と思うシーンもある。
茶の間で家族でテレビを見ていている場面。テレビからは那覇にあるお店のセールやイベントの情報が流れる。しかしここ山原の情報は、これっぽっちも流れない。
「今日もナハの方の紹介ばっかりだねえ」
「わったー。完全にムシされちょんやー」
我々はつい「沖縄」というとひとくくりにして、なんとなく海のイメージを持っていると思う。色のイメージでいうと青と白。けど山原は違う。同じ沖縄でも緑。もちろん島なので海は距離的には近いが、印象的なのは山と森だ。たしかに東京とひとくくりにしても、秋葉原と吉祥寺ではぜんぜん違うのと同じ。同じなんだけれど、身近な地域だとわかる当たり前の違いが、少し離れるとわからなくなる。その辺の気づきも含めて、おもしろい。

沖縄とマンガの相性はいい。
県産マンガで、有名どころだと映画化もされた『ホテル・ハイビスカス』。残念ながら『コミックおきなわ』は休刊となってしまったが、『コミックチャンプルー』という沖縄マンガ専門WEB誌もある。作品の舞台として、沖縄が登場することもよくある。マンガHONZで紹介された『ナチュン』も沖縄の離島が舞台だ(沖縄の海を舞台にした大人向けSF『ナチュン』)。拙著『南国トムソーヤ』も同じく沖縄の離島を描いた(嘘のさじ加減が絶妙で、羽照那島へ旅行したくなる『南国トムソーヤ』)。
2010年には、沖縄県立博物館・美術館で『「沖縄マンガ」展』として、沖縄県産マンガはもちろん、沖縄を舞台にしたマンガ、沖縄出身のマンガ家を紹介するエキジビジョンも開かれた。

しかし残念なことに、この『山原バンバン』は現在入手が困難である。初版が1994年。2004年に増補版が出たころはまだ入手することができたが、現在は、Amazonはじめ、オンライン書店は軒並み全滅。県産本なので、沖縄県内の書店ではまだちらほら見かけるが、内地の書店では、まず難しい。そんなときこそ電子書籍だ。地方と電子書籍の相性はいい。一定の部数が見込めなければ、刷ることができない紙の本に比べれば、はるかに小回りが効く。ぜひとも『山原バンバン』をはじめ、豊かな沖縄マンガが広く読まれるようにしてもらえると、沖縄を舞台にした漫画を描くほどの沖縄好きとしてはすごくうれしい。

山原バンバン―メイドインおきなわコミック
作者:大城 ゆか
出版社:ボーダーインク
発売日:2004-10
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ホテル・ハイビスカス 新装版
作者:仲宗根 みいこ
出版社:新潮社
発売日:2003-05-30
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ナチュン(1) (アフタヌーンKC)
作者:都留 泰作
出版社:講談社
発売日:2007-02-23
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南国トムソーヤ 1 (BUNCH COMICS)
作者:うめ
出版社:新潮社
発売日:2012-07-09
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