『理系の子 高校生科学オリンピックの青春』巻末特別対談:成毛眞×田中里桜 科学の研究って役に立つの?

成毛 眞2014年10月28日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

理系の子 高校生科学オリンピックの青春 (文春文庫 S 15-1)
作者:ジュディ・ダットン
出版社:文藝春秋
発売日:2014-10-10
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
田中里桜氏(2011年ISEF出場者)


成毛
 田中さんがサイエンス・フェアに出られたのは何年前でしたっけ。

田中 2011年に出たので、3年経ったくらいですね。

成毛 有孔虫の研究を始めてから何年になります?

田中 中学1年からですから7年ですね。研究自体は5年で1つ完結した感じになっています。それでISEFに行きました。正確に言うと有孔虫自体を研究しているのではなくて、千葉県の地質を、有孔虫を示標にして研究してるということなんです。

成毛 今は、使っている示標生物や何かを変えた、もしくは全然違う方向に行っちゃったんですか。

田中 去年大学に入り、今はまだ最終的に何を専門に研究するかは決めていないんです。そういう進路のことが、ISEFに行ったことで一番考え方が変わった部分でもあります。ISEFに行く前は地学に一番興味があって、あ、これが自分のやりたいことだ、と思っていました。大学へ行った先も専門性を高めるような感じでどんどん突き進んでいくつもりだったんです。けれども、ISEFに行ってからは、むしろ自分のやりたいことだけを見つめているんじゃなくて、いろんなことをやってみようというふうに視界が開けました。

成毛眞氏(書評サイト「HONZ」代表)

成毛 それは、ISEFのほかの出場者の研究を見て?

田中 それもありますけど、一番影響が大きいと思うのは、審査員の先生ですね。世界の超一流の先生方なので。私の研究の分野ですごく掘り下げた話ができたり、研究の発展性とか問題点とかを指摘してもらったりして、すごく刺激を受けました。また、これから自分はどうしていこうか悩んでいたときだったので、一流の研究者がどういう視点で研究をやっているのかを、自分のフィールドで話してもらえたことはとても参考になりました。私はそれまでは「人の役に立つために自分の研究をどうしたらいいのか」という視点がまったくなかったんですが、一流の研究者はそういう視点から問題を見つけて解決していっているというのが対話を通してすごく感じられました。

成毛 ああ、なるほどねぇ。そういうことなんだ。

田中 自分のやりたいことだけ、自分の好きなことだけに絞って物事を見ているのでは、そういうふうにはなれないんだなあと思って。

成毛 なるほどね。とはいえ、一方で純粋科学をやっている研究者もいるじゃないですか。宇宙論をやっている人たちとか。そういう人を何人か知っているんだけど、彼らの研究はあまりに純粋すぎて、社会の役に立つどころか人類の役に立つんだろうかと思うことがある(笑)。

田中 私のやっている研究もそういう性質のものなんです。ISEFに出るときに一番困ったのが、「千葉県の地質」というのはすごいローカルな話題だったので、どういうふうに世界に持っていこうか、ということでした。

成毛 あ、そうか。そういう意味でも純粋科学に近い。他者から見たら、「おれには関係ない」、みたいに見えなくもない(笑)。

田中 でも、ISEFでは応用的な内容じゃなくて基礎科学的な内容を学生がやっている、ということにむしろ評価をいただいた感じが強いですね。

成毛 そうでしょうね。この『理系の子』を読んでいても、それぞれにいろんなアプローチがあります。廃品から温水器をつくり出す創意工夫型みたいな人もいれば、いろんなタイプの人たちがいて、その意味ではバラバラ。発表する側も、採点する側の先生たちも、バラッバラな人たちが集まっている一方で、この本のタイトルどおり、みんな「理系」ですよね。論理的にものを考えることができる。「論理的にものを考える力」というのは、研究する上で重要ですか。

田中 そうだと思います。そして学生が科学研究をすることで、自分で問題を見つけて解決する力が、すごく鍛えられると思います。

成毛 「問題を見つける」ことと、それを「解決すること」では、比率でいうと、それぞれどのくらい重要ですか。

田中 一連のことなので、どちらがどう大事っていう感じではないと思うのですが、そうですね、やっぱり問題を見つけて解決するためには、柔軟な思考とか、いろんな側面からものごとを見る、多角的な視点を持つことが、すごく必要になってくると思うので、そっちがより重要かなと思います。

理系と文系はつながっている

成毛 数学はできたんですか。

田中 いやぁ、できなかったです(笑)。

成毛 苦手だった?

田中 ちなみに数学は一番苦手です。

成毛 あらまあ。

田中 むしろ思考回路は文系に近いかなと思います。国語とか社会とかが好きで、特に政治経済とかが一番相性がいいというか。

成毛 僕も数学、苦手なんですよ(笑)。それで政治経済のほうが相性がいいんです。ただし政治経済でも感情論じゃなくて、論理的にちゃんと因果関係が立証できるようなものは面白いと思っているんです。にもかかわらず、社会人になって普通の仕事をしていると、「成毛さんって理系の出身ですよね」って必ず言われる。だけど、数学できないんですよね(笑)。日本というのは、理系と文系って分けるでしょう。全然違う人種のように言われちゃうんだけど、何かちょっと違うように思いませんか。

田中 思います、ほんとに。文系の考え方で理系のほうに応用できる考え方というのもあるし、逆に理系の考え方で文系のほうに役立つというものもあるなと思いますね。だから、むしろふたつはつながっているふうに感じます。

成毛 逆にいうと、日本にはサイエンスが特別だと思っている人が多いじゃないですか。サイエンスをやるのは「変な人」みたいな言われ方をする。

田中 確かに、ちょっと浮くっていうか(笑)。

成毛 でもそうじゃないんだというのが、この本を読むとわかる気がするんですよね。

田中 ほんとにそうだと思います。

成毛 音楽とかスポーツにはコンペティションがあって、科学についてはこのサイエンス・フェアが才能を見出すための仕組みとしてあるんだけど、これ以外には大学受験ぐらいしかないじゃないですか。僕、大学受験とTOEICって似てると思っているんです。TOEICっていう英語の試験がありますが、あれ、試験のやり方を先に勉強してください、といいますね。テクニックを先に覚えないと、うまく点数を取れませんって。大学受験ってそれとあまり変わらなくて、テクニックがけっこう大きい。

田中 受験勉強って、自分の行きたい大学に入るためだけのもので、受かったら終わり、という気持ちがあるじゃないですか。でも、大学での時間をどう使おうかと考えるようになると、大学受験の勉強自体も、大学に行った先の準備として必要なものだと思うようになりました。ISEFの審査で、世界の一流の科学者の先生がどういうふうなものの見方で問題を見つけて解決しているのかを知ったときに、自分がどういう仕事をしたくて、そのためには大学で何をやる必要があるのかということに、はじめて意識が向くようになったんですね。それまでは自分では考えていたつもりでしたけど、ああ、今までほんとに何も考えていなかったんだなあって。それがISEFに行く前と後の大きい変化だと思っています。

成毛 日本代表を決めるためのプロセスではそんな感じはなかったですか。

田中 日本の大会の審査では、専門的な観点から、その研究がどのくらい精度が高いかとか、再現性があるかどうかとかをみる側面が強いんです。でもISEFはテイストが違って、どの審査員にも必ずといっていいほど聞かれるのが、「あなたの研究ってどういうふうに役立つんですか」という質問なんですね。行く前は、「どういうふうに役立つの」という言葉が、「どういう経済的な利益を上げられるの?」っていう、利潤を追求するいかにもアメリカ的な考え方だと思っていたんですけど、実際、審査員の先生と対話してみると、そうじゃなくて、「社会にどういうよい変化を起こす力を持っているのか」、という、もっと高次の話なんだと知ったんです。

成毛 なるほどね。ただ、アメリカに関してはちょっと問題を感じなくもなくて。実は今、高エネルギー物理学の実験設備というのがアメリカになくなっちゃったんですよ。今一番でかいのはCERNというジュネーヴにある装置、その次が日本のKEKで、アメリカは役に立つ研究以外はしなくなったフシがある(笑)。お金というのは30年以内に儲かりそう、実現しそうな部分。でも今、相対性理論がないとGPSも補正できないと言われています。「相対性理論なんて何の役に立つのか」なんていう人もいますが、実はカーナビの役に立っていた。アインシュタインが相対性理論を見つけたのは1905年なんで、彼が相対性理論を唱えたときには、本人も含めて地球人全員が「何の役に立つんだよ」と言ってた(笑)。だから100年単位で見れば、役に立ちそうもない純粋科学のなかに、意外と役に立つものがあるかもしれません。

こういう科学者になりたい!

成毛 「面白そうなことをやる」、「自分が面白そうなことだけやる」っていうのは、正しいような気がするんです。この本に出てくる人たちは、みんなそんな感じがありますよね。「自分がやりたいことだけやっています」という。実際、ISEFでほかの人たちを見ていて、どんな感じでした?

田中 一番、目についたのは、海外の学生は企業とか大学と連携してやっている人が多いなということでしたね。私も「どこがスポンサーなんですか?」って聞かれて、「え?」ってなりました(笑)。

成毛 でも、企業をどうやって見つけるんだろう。

田中 アメリカの科学の授業で、たとえば大学の先生とか企業のエンジニアの人とかを自分で見つけて、教えてもらいなさい、っていう授業があるみたいですね。

成毛 そこまで授業でやるって、すごいな。この本を読んでいると、アメリカの高校って研究設備が充実している感じもある。ガスクロマトグラフィーとか分光装置とか、装置がいっぱいある学校があって、もちろんそうじゃない学校もありますけれど、日本の高校の理科教室の設備と全然違う感じがする。

田中 でも私が思うに、自分で興味を持って、自分から働きかけていけば、日本でもチャンスがないとは思わないんです。というのは、私自身は身近なことから興味を持って研究をはじめました。私の住んでいるところは天然ガスの産地なのですが、ガス爆発事故をきっかけに、この土地はどうしてそんなに天然ガスを含んでいるんだろう、ほかの土地とどう違うんだろう、と思ったんですね。それをガス会社に聞きに行ったこともあります。有孔虫については博物館で、有孔虫というのを使って地層の成り立ちを調べることができる、という展示を見て、ああ、これで調べられるかもと思って、その博物館の専門の先生に聞いたのが始まりなんです。

成毛 それで刺激を受けて、興味を持って。

田中 はい。だから、「自分の問題を見つける」ということがどういうふうに起こるのかというのは、学校で「そういうことをしなきゃいけない」と言われるより、さっき成毛さんがおっしゃったように「自分が好きなことをやる」ということのほうからじゃないかな。自分の問題じゃないかなと思いますね。

成毛 大学を出てから、学部を出てからのイメージって何かあるんですか。

田中 ISEFの審査員の先生を見て、すごい印象が強かったので、私のビジョンとしては、ああ、こういう科学者になりたいなあって思いました。今はまだ手探りですが、いろいろなことを広く深くやってみようかなと思っています。

成毛 なるほど。広くやるのはいいでしょうね。大学にいるうちに、いろんなテーマを。今は学際的な学部があるから、やろうと思ったら意外といろんなことができるんでしょうね。いい時期に生まれてきましたね。

田中 ISEFでお会いした先生方は面白い人たちばっかりなんですよ。アメリカだけじゃなくて、世界中から科学者が審査員として、1000人ぐらいかな、集まってくるんですが、お茶目な感じの人たちが多くて。質問も全然違った視点からのものが来るので、ああ、日本とは違うんだなと思いましたね。

成毛 大学は日本の大学に行ってるんですね。

田中 はい。でもISEFで、どこかの大学から声がかかりましたよ。UCLAとかの先生が、研究やるならどうか、みたいな(笑)。

成毛 企業からはなかったですか。

田中 私のやっている研究がお金になる内容じゃないので。

成毛 でも、地質関係者というか、ガス屋とか石油屋とか、興味なかったのかしら。

田中 地質系に注目が集まる直前ぐらいだったんです。最近は割と“熱い”というか、メタンハイドレートとか、実用性が出てきた感じですよね。私は企業から声がかかったことはないんですけど、これから一番熱い分野だという気はします。

成毛 穴掘りそのものにも興味はあるわけでしょう。「穴掘りそのもの」と言うのも変だけど。

田中 いや、ほんとにそうです。それが好きで。田舎なんで、すぐにフィールドに行けるんですよ。

ビジネスと科学研究の共通点

成毛 ビジネスマンだった僕からすると、自分で問題を見つけて、理系的にというか、因果関係をきっちり把握しながら多角的にものを見るという才能がある人っていうのは、ものすごくビジネスに向いてるんですけどね(笑)。

田中 アハハハハ。

成毛 ほんとに。ものすごく偉くなるんです、そういう人(笑)。

田中 私も実際、経済学とかにもすごい興味があります。考え方は同じなんですかね。わからないけど。

成毛 ああ、もう100パーセント同じだと思いますよ。この本に出てくる人たち全員、ビジネスマンとして大成すると思います。僕のよく知っているビジネスマンで、たとえばマイクロソフトのビル・ゲイツとかスティーヴ・ジョブズとか、松下幸之助とか本田宗一郎もそうだと思うんだけど、きわめて理系です。理系というか、研究者で。お金もうけ以前に全然別の自分のテーマがあって、それに熱中してやっているうちに、でかい会社をつくっちゃった、という人たちばっかりだと思います。研究のプロセスの中では、まず仮説を立てなきゃいけない。これはうまくいくかどうかとか、これはこうなっているんじゃないか、と。ビジネスも仮説がものすごく重要で、おそらくこういう商品をつくったら売れるに違いないとかいう仮説をつくるわけですよ。他人から見たら単なる思い込みだったりするし、自分で見ても思い込みだったりするんだけど、とにかく仮説をつくって実際にものをつくって売り出して、売れるかどうかを試してみる。つまり、まずは実験をしてみて、売れなかったらすぐやめて、ほかへ行く。今のビジネス書のどれを読んでも、だめだったらすぐやめて次に行け、と書いてあるわけですよ。

田中 研究もまったく同じです。1つ問題を見つけたら、まず仮説を立てて、それを立証するためのアプローチを考えて、だめだったら見直して違う方法で、と、ずっとその繰り返しなので。アプローチを考えるというのも、1つのスケールだけじゃなくて、いろんなものを試してみて、併せて考えるというのがすごく大事です。だから、やっぱり同じなんですね。

成毛 なので、将来的にはそっちの方向も併せて考えていただいて。そうすると、僕、投資したいんだけど(笑)。

田中 よろしくお願いします(笑)。

(2014年8月)

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら