マンガの表紙ってどう作られるの? 〜羽賀翔一のデビュー作『ケシゴムライフ』の表紙ができるまで〜

版元の編集者の皆様2014年11月07日 印刷向け表示
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ケシゴムライフ (トクマコミックス)
作者:羽賀翔一
出版社:徳間書店
発売日:2014-11-07
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皆さんはマンガの本を買うとき、何を見て決めますか。
あらすじでしょうか。帯に書かれたキャッチコピーでしょうか。
表紙で判断する、という方も少なくないかもしれません。

そもそもマンガの本の表紙はどのように作られ、決まっていくのか。
今回、自腹ワンコイン広告という場をお借りし、「表紙づくり」の一例として、新人マンガ家・羽賀翔一のデビュー作『ケシゴムライフ』が刊行されるまでの舞台裏をご紹介します。

(『ケシゴムライフ』進行管理担当:コルク 小野晶子)

『ケシゴムライフ』表紙デザインに求められること

羽賀翔一さんは、マンガHONZの編集長を務める佐渡島庸平が、その才能に惚れ込んだマンガ家です。二人の出会いは2010年、佐渡島が当時在籍していた講談社の新人賞に、羽賀さんが作品を応募してきたことがきっかけでした。第27回 MANGA OPEN 奨励賞受賞を受賞した羽賀さんは、マンガ一本で生きていく覚悟を決めます。そんな羽賀さんの挑戦を、佐渡島は隣で見守り、サポートしてきました。

羽賀さんのデビュー作『ケシゴムライフ』は、週刊モーニングで短期連載した表題作をはじめ、4年間かけて描きためてきた作品を収録する短編集です。

大事なデビュー作の表紙に、どんな絵を載せたらいいのか。佐渡島に尋ねると、
「羽賀さんの絵は作品の奥深さに比べると、まだまだ未熟だからなぁ」
と笑顔で辛口なコメント。
イラストをただ載せるだけでは弱い。それでは『ケシゴムライフ』の魅力を伝えきれない、と佐渡島は懸念していました。羽賀翔一の描く世界を伝えるには、その世界を補足するデザインの力、この世界観を理解してくれるデザイナーさんが必要でした。
 

装丁デザイナー・小室杏子さんとの出会い

カフェ・マメヒコでのイベントの様子。
(写真左からマメヒコのオーナーの井川さん、羽賀さん、佐渡島)

新人作家を育成する上で、佐渡島が注力しているのが、読者と作家の接点づくりです。
マンガ家にも、ミュージシャンにとってのライブハウスのような、活動拠点があったら面白いのではないか。そんな考えのもと、2014年夏から、羽賀さんは定期的に渋谷にあるカフェ・マメヒコのトークイベントに参加しています。マメヒコが刊行するフリーペーパーに連載を持つ羽賀さんは、そこで参加者からアイデアを募ったり、その場でネーム(下書き)を描いたり、ライブ感のある交流を楽しんでいます。


『ケシゴムライフ』の装丁を担当くださった小室杏子さんにも、そのイベントで出会いました。もともとマメヒコの常連さんだった小室さんは、『のだめカンタービレ』や『青い車』などを手がける装丁デザイナー。作品の個性を活かしながらスタイリッシュ魅せるデザインは、まさしく『ケシゴムライフ』が求めているものでした。
 

佐渡島からの注文と表紙デザインの試行錯誤

小室さんとの最初の打ち合わせで、佐渡島は「作品の奥行きが伝わる表紙にしたい」との要望を伝え、その方法として「写真を活用できないか」と提案しました。コミックではあまり例が無いものの、効果的に使えば面白いかも、と小室さんも賛同され、まずは自由に作っていただきました。

2週間後、1回目のデザイン案が届きました。

1回目のデザイン案の一部

消しゴムのパッケージに見立てた案、イラストを大きく使った案などの中で、目を引いたのは写真とイラストを組み合わせた案でした。夜空の写真と電柱のシルエットを背景に、イラストが重ねられています。この写真を選んだ理由について小室さんからは「子どもの頃は、すべての景色が自分の目線よりも高いところにある。表紙に見上げる景色を入れることで、幼少期の気持ちを思い出してほしい」という内容のメモが添えられていました。

「写真とイラストの組み合わせでいきましょう。」方向性が決まってからも、試行錯誤は続きます。表紙に使う素材として「学校の教室の天井」「横断歩道」「夜の動物園」「送電鉄塔」など、作品の中で象徴的に登場する場所やモチーフを色々試しました。最終案に至るまでに、小室さんからの提案は合計5回にものぼりました。
 

表紙のイラストから伝わる3年の月日

表紙のイラストについて、羽賀さんは「写真がカラーでリアルな印象を与えるから、イラストはモノトーンで、ファンタジーなものを描きたい」と話していました。描いたのは、単行本の巻頭を飾る短編「流星にて」に登場する少年と、彼の前に突然あらわれる不思議なキャラクター、ワニクールくんです。

表紙用に描きおろした「流星にて」の少年とワニクールくん

「流星にて」は2011年10月に発行したムック本『We are 宇宙兄弟 vol.4』に掲載された作品です。それから3年後に描かれた少年を見て、佐渡島は「いい表情をしているね。表紙にもっと大きく入れよう」と嬉しそうでした。その声を聞いていた羽賀さんも、表紙にしてしまいたいぐらい、いい顔をしていました。  

表情を描く、ということについて佐渡島は、
「”笑う” “泣く”という表情に至るまでの心の動きを観察し、その変遷を描くことができるマンガ家は少ない。そこに羽賀さんの才能を感じている」
と話していました。『流星にて』は、このページの最後にあります、試し読みでもご覧いただけます。ぜひ表紙のイラストと見比べてみてください。
 

日本初のマンガ家支援ファンドと、表紙デザインの人気投票

ミュージックセキュリティーズさんのご協力のもと出資者を募った「コルクマンガ家ファンド1」

『ケシゴムライフ』をもうひとつ特徴づけるのが、今回の本の刊行にかかる印刷代などの費用を、「コルクマンガ家ファンド」というファンドを立ち上げて、個人投資家の方々から出資いただいたことです。ファンド組成は、単なる資金集めというよりも、羽賀さんの成長を長期に渡って応援くださる方と、深いつながりを築きたい、という強い思いがありました。

2014年9月には、ファンドの出資者の方々をコルクにお招きし、羽賀さんとの交流会を開催しました。懇親会の席では、これまでに制作したデザイン案をお見せし、どの表紙が好きか人気投票をしました。

投票の結果、一番人気を集めたのが、送電鉄塔の案でした。
なぜこの案を選んだのですか?という私の問いかけに、ある出資者の方は「普段何気なく見ている風景も、こんな表情をすることがあるのかと、新鮮に感じられたから」と答えてくれました。

『ケシゴムライフ』表紙。帯と付けると(画像右)また違った印象に。

それは『ケシゴムライフ』のすべての収録作品に通じることでもあります。

学校の教室や同級生、送電鉄塔の見える道や、夜空の下の電柱。日常の風景がいつもと違った顔を見せるとき、登場人物の気持ちに変化が生まれます。そのひとコマを、一緒に目撃する読者も、心が揺さぶられるのです。

この表紙が、作品の魅力を最も伝えられるデザインだと、手応えを感じた瞬間でした。

終わりに

『ケシゴムライフ』を手に取ってもらえる日を想像しながら、表紙を準備してきました。
仕事としてマンガに携わるまで、表紙の重要性なんて考えたこともありませんでした。大切なのは内容で、中身がよければ話題になるし、売れるんじゃないかと軽く考えていました。

でも、『ケシゴムライフ』の単行本制作を経験した今なら分かります。表紙は読者に作品を届けるための大切なものだと。たった1枚の表紙にも、たくさんの人のたくさんの想いが詰まっているのだと。

今回ご紹介した表紙以外にも、『ケシゴムライフ』の装丁には、思わずクスっと笑ってしまう仕掛けやこだわりが散りばめられています。ぜひ作品を読み進めながら探してみてください。

まずはこちらで試し読みをどうぞ。
なお、この試し読みを最後まで読むと、続きを著者から直接購入することができます。
またその特典として、羽賀翔一からお礼メールが届きますので、ぜひそちらもお楽しみください!

ケシゴムライフを読む


▼羽賀さんと佐渡島の日常のやりとりは、『今日のコルク』にも描かれています。

今日のコルク(1)~新人マンガ家のスケッチブック~
作者:羽賀翔一
出版社:コルク
発売日:2014-09-05
  • Amazon Kindle

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